表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
贈り物  作者: 村上は


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/62

第33話 結果

 目覚めは良かった。頭も、なぜかすっきりしている。一つを除いては。

結果が出揃った。これなら高い請求額にも文句は言えない。


 最初に片桐から、みんなに電話で伝えた。それは、明日の天気を伝えるようであった。発案者の、どんな時でも片桐らしい姿だった。

血圧が少し高いが、とくに異常は見られなかった。


 次に結果が出たのは僕だった。僕の場合、何も異常は見られなかった。結果を見ながら、『なぜ受診したの』と、メッセージが散りばめられているようだった。

僕は片桐に倣って、みんなに伝えたが、伝える前振り、声の調子、そして電話の終え方が、彼ほど滑らかだったとは思えない。努力はした。果敢にフィギュアの四回転ジャンプを飛んで、滑らかな着地ができなかった程度である。


 それから、重村、最上の結果も問題なし、だった。

日高に至っては優雅さがなく、ステップやスピンを省いた構成で、ショートプログラムの規定要素を無視し、ジャンプのみ披露した。


 自宅でテレビを観ていた。そんな時、電話が鳴った。日高からだった。

王様の体験ができただけでも、良しとするか。


「沢村。今日、結果が出た」

「それで、請求書は受け取らないぞ。お前は賛成した」

「そう。俺は自分で決めたんだ。誰の指図でもなかった」


 請求書は冗談なのだが……。


「ああ、分かっている」

「……」

「癌が見つかった。俺の膵臓に……」

「えっ、癌が見つかった……」


……二等くらいか。


「ああ……、PETでないとダメだった。医者によると。片桐からクリニックに念を押していたらしい。まあ、連絡がなくても、結果は変わらないと思うが」


 喜ぶ気が失せる。


「完治するのか」

「ああ、早急に再検査だ。近く手術する」

「本当に命に大丈夫なんだな」

「ああ」

「放っておけば、どうなったのだ」

「恐らく、三年持つらしい……」


 目の前が真っ暗で諦めていた時、本条さんとの交際が始まった。

検査を渋っていた日高は助かるだろう。

重村の寂しい言葉。それぞれが太すぎて、結んでやれない。一本でやっとのところに、多すぎる。もやい結びで、これから進まないといけない。


 まずは『よかったな』と祝福すべきだが、できなかった。

その代わりに、これだけは言っておきたかった。言わずには我慢できなかった。佐久間のようには振る舞えなかった。俺には結べない。こんなに太く、柔軟性がないのだから。


「佐久間と片桐が、お前の命を救ったな」


少し間があって、


「……ああ」


 日高にとっては、精一杯だった。

ああ、以外に何も言えないようにしたのは、他でもない、僕である。


 薬缶が沸騰している。火元から離さないと……。あるいは、無情な冷水を足せばよい。容量を誤ると溢れるが、確実だ。

冷めるのを待つだけの、心の湯取ゆとりがなかった。


 僕は、日高に冷水を浴びせかけた。


 これで、あの占い師の言った日付が、僕らの命の終わりを告げていることになるのか。

あらがうより、それを受け入れるべきなのか。


 片桐の番号を回した。片桐は、すぐに出てくれた。


「俺だけど。日高から聞いたか」

「ああ、今、整理していた」

「そっか……それで、まとまったのか」

「いや……」


 片桐は少し間を置いた。


「正直言って、ちょっと参っている。整理がつくか、わからん」

らしくない……。

「整理なんて、つくのか」

「というと」

「今回のことは、頭で考えたらダメだろう。心でいいんじゃないか」

「らしくないな。俺には飲み込めない」

「その通りなんだ。俺たちの前にあるものは、そういうものなんだ。だから、言葉では言えない。俺は、それを感じることだと思う」

「それで、何か感じているのか」

「ああ、そんな気がする」

「だけど、説明できない」

「勇気、だよ。俺たちに必要なのは」


 片桐は沈黙した。珍しかった。二十年になるが、居慣れない場所にいる。


「沢村。勇気は解決になるのか。もっているだろう、すでに。重要なものだということは同意する。お前は、その大小を言っているのか」

「違うと思う。今、必要な勇気は、本質的に違うんだ。お前の言っている勇気は、恐怖、嫉妬、怒り、喜びなどと同列だろう。いつも混在していて、不要なときは、どれかが隠れたりする。そして、それは必然的に姿を現す。だから、それらを共存させることは難しい。

俺が言いたい勇気は、いつもそばにいないといけない。恐怖が存在しているときにも、怒りが現れた時でも、見え隠れするものじゃない。この種の勇気が、今、必要なのだ。そうなんだ。普通の勇気だったんだ」


「その勇気は、何に使うのだ」

「それは……、勿論、俺たちの運命を受け入れること。運命を変えた友人を許せること。そして、これが一番難しいことなのだが、大切に思っている人に、本当のことを告げること」


 今の僕は、僕でありながら、僕でない思いがしていた。


「お前の中で、何かが目覚めたな」

「無理やりに、起こされたけど」

「良かったのではないのか。もちろん、こんな形でなかったら、寝起きはもっとすっきりしていただろうけど」

「こうじゃないと、俺の場合は目覚めなかった気がする」

「今回のことは、必然だったのかもしれないな」

「だけど、正直……人間ドックで引っかかるとは思わなかったよ。勝算があったのか」

「あるわけないだろう。だけど、俺は可能性を考えた。仮に、あの日付が俺たちの死を意味しているとしたなら、俺たち五人が全員、事故死、もしくは殺害されるとは思えない。だから、三年後に一人、五年後に二人死ぬとしたら、その内、誰かは病死の可能性が高い。だから、もしかしたら、と思った」

「なんだよ。あるんじゃないか」

「まあ、な。だから全員、受ける必要があったわけだ」


「片桐、お前、結婚は考えているか」

「なんだよ、唐突に。俺の場合、身辺の整理が面倒だ」

「実は、会社に憧れていた人がいるんだ。その人と、この間食事をした。その時が初めてのデートで、デートと言っていいのかわからないが、とにかく俺は、その人に交際を申し込んだ」

「それで、どうするんだ」

「どうすると言われても、俺は精一杯、彼女を愛する。それしか出来ないし、俺は、そうしたいと思っている」

「お前の気持ちは分かるが……、そうか。それは、お前の我がままじゃないのか。付き合っていたわけじゃないだろう」

「それは分かっている。でも、今回のことが無かったら、俺は彼女を食事に誘わなかった。矛盾しているよな」

「とにかく、応援はする。それで、今回のことを話すつもりなのか」

「それは……、まだ決心が付かない……」


 片桐は、これ以上この件に関して、何も言わなかった。


「ところで、どんな女性ひとだ」

「そのうち、紹介するよ」

「楽しみにしている」

「あっ、そうだ。言い忘れるところだった。日高の手術は、来週だ」

「そうか」

「じゃ、また、近いうちに連絡する」

「それじゃ、彼女に、よろしく」


 佐久間が彼の両親へ残した、生命保険の()()が、少し理解できた気がした。

僕も、最後に彼女にしてあげられることを考えると、佐久間と同じ選択をするのだろうか。


 そして、僕はある重大なことに気が付いた。

日高は、自分の未来を変えたことにならないのか。

僕を含めた四人の運命も、変えることはできるのだろうか。

そして佐久間は、どのようにこの事を知りえ、どこまでが彼の筋書きに沿っているのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ