第3話 再会
筮竹は本数こそ足りていたが、アンテナは一本も立っていなかった。
「まあ、日高には地図を送っておいたので」
僕は携帯をテーブルに置いた。
それを見ながら、片桐が誇らしげに言う。
「必要なときほど役に立たない。電源は切れるし、圏外にもなる」
この訳の分からない講釈に、最上が切り返した。
「まあ、お前には美人秘書がいるからな」
片桐は僕の携帯を手に取り、眺めながら言った。
「これが鉄の塊か。カメラ機能はなぜあると思う。今みたいに、
存在価値をアピールするためだ。そもそも、この便利さは人間を劣化させる」
「片桐、お前の立場で、それ言うか」
僕は片桐から携帯を奪った。
「社長って自分の時間を確保するのが大変なんだ。携帯はこっちの都合を無視して鳴るからな。でも、お前たちには美人秘書がいないことは理解する」
片桐ワールドの終わりを、最上が告げた。
「はいはい。そこまでや。ビールでええな!」
誰も反対することなく、ビールが注文された。
それぞれがどんな歳の重ね方をしたのかは分からない。ただ、僕以上にたくましくなったように映った。
言葉を発さずに、そんなことを考えていられるのは、親友だからだと思う。
「沢村、どうした。考え込むのはお前らしくないぞ」
佐久間が笑っていた。
「そんなに俺らに会いたかったんか」
最上も、佐久間以上に笑っていた。
「お前らがちゃんと、やってるみたいでな」
僕は素直に言った。
「重村、どうかしたのか?」
最上から笑顔が消えていた。
「いや、あの占い師が気になって……」
誰かが言い出してくれたら、少し楽になる気がしていた。
佐久間が重苦しく口を開いた。
「……最初の日を待てば、分かるんじゃないか」
僕はみんなに言った。
「ただ、日高、まだ来てなかっただろ」
重村がメモを取っていたことを思い出したが、最上が先を越した。
「重村、お前、メモ取ってただろ。ちょっと見せてくれ」
最上はメモを睨んだ。僕も覗こうとしたが、テーブルが邪魔をした。
しばらくして、最上は年だけを読み上げた。
「今年が二〇〇七年。来週、三年後、五年後が二回、十三年後、四十五年後。規則はないわ」
年だけ聞いても、何も浮かばなかった。
それが、かえって気持ち悪かった。
「お待たせしました。生になります」
店員の声は無邪気だった。
入り口に座っていた最上が対応した。
「サンキュー」
最上はジョッキを受け取り、手際よく回した。
皆の注目は、目下のところビールに移った。それにしても、旨そうだった。
僕はメモをビールで濡らさないよう、自分の近くに引き寄せた。
このメンバーで飲むとき、乾杯の音頭はいつも最上である。
「とりあえず始めよか。三年ぶりに集まったわけやが、そんな気がせん。というのも、いつも通り俺が、こうやって喋っとるからや。とりあえず、日高が来るまで温めとこう」
皆、生大を注文していた。
最上は一息でそれを飲み干したが、そのスピードはいつもより遅かった。
大学時代、日高と勝ち星を巡って揉めていたことを思い出す。
皆が一旦ジョッキを置いたところで、僕は考えていたことを口にした。
結局、話題はあの占いに戻ってしまう。
「意味は分からん。でも、六つ言った。もしかすると、日高の分じゃないか」
片桐が引き継いだ。
「実は俺もそう思っていた。となると問題は、なぜ占い師は最初から六人いると思っていたのかだ」
「ああ。その通りだ。最初から六つ用意していたと考えるのが自然だろう」
僕の意見に、重村が反論した。
「最初から複数覚えていて、人数に合わせて選んだだけだろ」
僕らはビールを飲みながら、しばらく考えた。
だが、佐久間はそう思っていないようだった。
「でもさ。日高がいなくても、六つ言ったんだ」
乾杯の勢いで二杯目も進んでいるのに、思わぬ方向へ話が転がり、僕は占いの話を切り出したことを後悔した。
そのときだった。突然、障子戸が開いた。
「すまん。遅れてしまって」
最上が言った。
「六人目、到着や!」
日高は、なぜ笑われているのか分からない顔をしていた。
そんな日高晃太郎を、誰も哀れには思わなかった。
僕らは少しの間、日高を晒し者にすることに同意し、やがて助け舟を出した。
「早く座れよ」
僕らは日高に「本当の六人目」の意味を説明した。
「お前ら、いつからそんなに迷信深くなった。今日のテーマは怪談か?」
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翌日、佐久間から電話があった。
「昨日は楽しかったな。みんな変わってないし、俺は嬉しかった」
僕も昨日の余韻が心地よかったし、肝臓は完璧な仕事をしていた。
「ああ、そうだな。年と共に丸くなるらしいが、最上は逆走している」
「丸くなるには、まだ早いだろう」
「それもそうだが、その欠片もなかった。まあ、あいつはあのままがいい」
「また、みんなで飲みたい」
「今度は三年も待たずに、春にでもまた飲もう。ところで佐久間、今回の集まりを発案したのは、お前だったよな」
佐久間は「そうだったような」と曖昧に言い、続けた。
「……重村、少し変だったと思わないか。気のせいならいいんだが」
反射的に返した。
「何か、あったか」
「……いや。なんとなくだ」
佐久間は少し間を置いた。
違和感が、体積を持って僕の中で膨らんでいった。
昨日の心地よい余韻が、少しずつ消えていく。
肝臓には有給を与えている。
迷路に入ったように、出口が遠い。
「分かった。気にかけておくよ」
そう言ってはみたものの、何もせず終わりそうだった。
「頼んだぞ」
何も返事ができなかった。
薄情なのだろうか。それとも——。




