第25話 荻窪
僕らは二時間後、JR荻窪駅で待ち合わせることにした。最初、片桐は改札で落ち合おうと言ったが、僕は駅で雨宮と鉢合わせする可能性を嫌い、人目の少ない場所で先に待つことにした。駅に着いたら、片桐が携帯から連絡する、という段取りである。
荻窪駅に着き、改札を出ると、雨宮の存在を意識しながら、人通りの少ない場所へ移動した。
四月だというのに、寒さが震えを誘った。温暖化が進んでいるはずなのに、この震えは気温だけが原因ではない気がした。
間もなく携帯が鳴った。着信は公衆電話。間違いなく片桐だ。これほど頻繁に公衆電話を使うと、撤去前提で来年度予算を組んでいるどこかの会社に、少し申し訳ない気分になる。
「もしもし、片桐。今どこだ」
「改札を出たところの公衆電話だ」
片桐はICカードを常備しているのだろう。二十四時間秘書と行動し、なおかつ、珍しい物を最低二つ所持している男だ。
「目の前のロータリーから道が三本出ている。駅を背にして一番左を進んでくれ。一つ目の信号を左だ。俺はそこにいる」
「分かった。すぐ行く」
片桐が近づいていると思った途端、寒さが増した。気温が下がったのだ。洗濯は一回で正解だった。
「沢村、待たせたな」
「雨宮の事務所の場所は分かったのか」
「ああ。この先すぐだ」
僕は、間抜けなことをしていた。雨宮を避けるつもりで、逆に近づいていたのだ。調べ物があると言っていた片桐は、やはりネットで雨宮の会社を洗っていた。
並木通りを抜けると、右手に十三階建てのビルが現れた。あの三階に雨宮がいる。
「これからどうする」
「そうだな」
片桐は周囲を一瞥し、言った。
「向かいのファミリーレストランで、会社の入口を見張ろう」
「了解」
「その前に電話を一本入れてくる」
「雨宮がまだ外出中か確認するわけだな」
「その通り」
片桐が電話に向かう間、僕は窓際の喫煙席を確保した。片桐は煙草を吸わないが、この席が最適だった。受動喫煙は、この際、仕方がない。
「思ったより待たずに済みそうだ」
「というと」
「電話に出た女性の話では、十六時頃に帰社するらしい」
「今が十五時過ぎだから、あと一時間弱か。土曜出社とは大変だな」
「ああ。奇数週の土曜は出勤だそうだ。出る前にホームページで確認した。それに、調査となると平日じゃ人に会えないからな」
ふと、僕は気になっていたことを口にした。
「ところで、その荷物は」
「これか。カメラだ。望遠レンズ付き。ここからでも雨宮の顔が撮れる」
「そこまで必要か。楽しんでいるのはお前じゃないのか」
「備えあれば憂いなし、だ」
「参ったな」
「ところで、もう注文したか」
「いや、まだだ」
サンドイッチを食べたばかりなのに、空腹を感じていた。片桐と合流したことで、身体が反応したのか、それとも荻窪までの移動で消耗したのか。後者だとすると、サンドイッチはアメ車並みに燃費が悪い。
だが、片桐を待っている間は空腹を感じなかった。ならば前者だろう。これからの長い人生、サンドイッチには世話になるはずだ。消化が良い、という評価にしておくのが無難だ。




