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贈り物  作者: 村上は


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第21話 思い

 週末の独身男性は、体の目覚ましが鳴るまで寝られる権利を有するが、僕の場合、一日が短くなるのが勿体なく思えるから、早めに起きるようにしている。といっても勝手に目が覚める。


 今週は洗濯物がたまっていたため、すぐ洗濯機を回した。少なくとも二回に分けないと、荷重労働で労働基準法に抵触する、と洗濯機は訴えるだろう。


 朝食を取りながら、二度も働かないといけない洗濯機を哀れに思いつつも、同じ境遇のモノがそばにいる連帯感は、多少なりとも気持ちを楽にした。それにしても詰め込まれた数週間だったと目を閉じた。僕には労働組合はなく、二回分を一度で洗濯しても黙認される。


 そんな時、携帯が鳴った。

 片桐からだった。


「もしもし、片桐」

「ああ、もう起きていたか」

「朝から主婦をやっている」

「結婚したんだっけ」

「いやいや、その準備をしているってとこかな」

「悲しいこというね。世も末だ。男が花嫁修業とは」

「俺は順応性があるんだ。いわゆる進化ってやつ。お前みたいに永遠に侍というわけにはいかないだろう。今は男だって家事の一つやふたつこなさないとダメなんだよ。早く刀を捨てろ」

まげは切った。これ以上、世の男性諸君の悲しき性については知りたくないので本題に入る。健康診断をやっている人間ドックを見つけた。日本でも数台しかないCT検査、MR検査は勿論、PETがあるところだ。場所は六本木にある。値段は少し張るが」

「CTとMRは聞いたことあるが、PETってなんだ」

「まあ、長ったらしい名前に相応しく、ちゃんと全身を診てくれる。まあ、癌だけが目的でもないけど」

「なんかよくわからないけど、任せる」

「当たり前だよ。ここまで来て任されなかったら、髷を復活させる。後で詳細を送るから予約は自分でしてくれ。みんなにも連絡しておく。できるだけ早く受けてくれ」

「分かった。来週にでも有給を取る」


 片桐が教えてくれたのは今村クリニックだった。人間ドックに関しては今村クリニックが全国に先駆けてビジネスを展開したそうだ。目の付けどころは悪くない。生きていくのに必死だった時代が終わり、目下のところ長生きすることにお金を使う時代なのだから。


 そんなことを言ったらもっと進化している。占いにもお金を使う時代であるが、占いの起源は人類と共にあると言っても過言ではない。この二つの共通点は当分続くビジネスだと思われる。サラリーマンは毎年健康診断を受診するが、いつも余所事よそごとだが、今回の場合、確率の向上を有料と引き換えにしている。


 来週は仕事の谷間でもあり、前年度からの繰越し有給も貯まっていた。日高には僕から話した方が良いと思ったが、まあ片桐のことだから最上と違ってこじれることはないだろう。


 さてと、と思った瞬間、来週の食事のことが頭をよぎった。健康診断の流れなのか、食事について診断するように考えを巡らせた。女性ってどんな時に男性と二人で食事に行くのだろうか。今村クリニックには申し訳ないが、この診断に対する熱意の方が高いと思われる。


 もちろん、女性によって理由は異なるだろう。


 僕と本条さんの間に、仕事上のパワーバランスは存在しない。友人関係や親族といったしがらみもない。部署間の交流も残念ながらない。


 一方的に何かしらの援助を授受することもない。また、僕が国家機密レベルの情報を持っていて、それを傍受する任務に就いているとも思えないが、この場合、少なくとも僕の名前を知っていたことの説明は付く。だからといって、エレベーターの偶然を待つようなスパイに、こんな任務を課すことはないであろう。


 しかしである。本条さんがスパイだったとしたら、僕は簡単に情報を盗まれると思う。そして本条さんはがっかりすることだろう。こんな簡単な任務に指名されたことを。


 死ぬほど暇で、とにかく出掛けたい。これも的外れだ。なぜなら僕のメールを待ちきれず、何が食べたいやらアプローチがあるはずである。


 二人に接点はないので、稀に、そして偶然、友人たちの会話の中に僕の名前が出てきたとしても、限りなく歪曲された噂であり、それらが食事に行く気持ちにさせるとは思えない。


 つまり、偶然耳にする程度の距離にある相手と食事に行くということは、多少なりとも()()という感情が存在しないと説明がつかない。


 片桐か最上に意見を求めたかったが、片桐の場合、「お前はどうしたい、そこだけだろう」と呆れるだろうし、最上に至っては、「下半身の判定は?」と得意げにアドバイスをくれるだろう。

 持つべきものは親友である。


 答えが出ない問いについて考えるのはやめた。既に食事の約束は存在している。

 朝食を食べ終えてテレビをつけた。


『ピンポーン』


 テレビから聞こえたわけではない。

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