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贈り物  作者: 村上は


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第20話 恋人

 いよいよ順番が回ってきた。偽物が未来を予言して当てた。これから本物に占ってもらうが、信じてはいない。でも、安心感はある。とても占い師らしい出立いでたちで、小道具も完璧だ。お約束通り振る舞ってくれそうだ。ダチョウ倶楽部の安心感のようなもの――もう少し敬意を払うなら、そこには様式美が備わっている。


 この占い師に責任はないが、これだけ成功しているのだから、侮辱されても許してもらえるだろう。


「今日は何を知りたいですか?」


 知りたいことを、教えてくれるか……。


「俺らの寿命を知りたい」


 最上が真面目に言った。事前に何を頼むか決めていなかったが、文句はない。


「寿命ですか。何か気になることでも?」


「完全な健康体です」


 僕は本当のことを伝えた。


「ほんまです。俺らは愛し合ってて」


 最上は、本当のことを言った。


「寿命とは、二人の関係がいつまで続くか知りたいの?」


 まだ占いは始まらない。占いについては()()()()()がある。それは、楽しむこと。現実逃避であり、結果が決して正しいことではない。だから僕らの依頼は、ルール違反なのである。


「いえ。いつ死ぬか、占ってください」


「そんな事を知ってどうするの?」


 占うつもりはないのだろうか。


「大事なことだと思いますが」


 僕は間違ったことは言っていないと思う。

「そうよね。大事なことよね。だから聞いているの。それを知ってどうするの? 結婚でもする?」


 本物の占い師は、なかなか始めない。寿命を占う王道は手相だと思っている。なぜなら、一応、体の一部を解析しているのだから。


「結婚までは考えていません」


「そうよね。恋人でもないもの」


「よく分かりましたね」

「言っておくけど、占ったわけじゃない。これでも人生については解っているから。まあ、ふたりには深い繋がりがあるようだけど、それは、そこまでね。それと寿命だけど、今、健康なら考えることないでしょう。それが答え。お金はいらないから、もうおしまい」


「そうそう。最後に。三月二十三日、金曜日。そこで占いをしていた男性を覚えていますか?」


 流石にプロの占い師だ。このためにここへ来たのだと悟ったようだった。


「それだったら無料で教えたのに。ええ。確かにいました」


「マジで」


 黙って聞いていた最上が反応した。


「あれは占い師ではない。知っていると思うけど」


「あの時見たのが初めてで、それ以降も見かけていない?」


 僕は言った。


「ええ。そう。どこにいるか占いましょうか?」


「それは大変助かります。ただ、これはちょっと意味合いが違って」


「あなた、今、失礼なこと言ったわね。気のせいかしら」


 僕は失礼なことを言った。これだけ成功しているのだ。これくらいのいじりは許容範囲だと思った。


 最上が()()()()してくれた。


「沢村、確かに今のは良くないわ。でも、占い師さん。お遊びは寿命で十分なんだ」


 どうも許容範囲を超えたようだ。


「あなた、もっと失礼なこと言ったね」


 最上は続けた。


「これで占い師さんも俺らの仲間。諸悪の根源は、あの偽占い師なんや」


「もう帰ってくれる? ここからは営業妨害よ」


「お世話になりました」


 僕は、予想以上の収穫と、もう二度と戻らない――その思いを込めた。佐久間が前回言った去り際のセリフとは、全く意味合いが違う。


 最上と、席が空いていた焼き鳥屋に入った。定番の生ビールと焼き鳥の盛り合わせを頼む。失礼な話だが、メニューに目を通すのが面倒に思えた。


「お前、誰かと付き合っているのか」


 最上は、占い師との間で起こったことではなく、違う話題を振ってきた。


「いきなり、どうした?」


「いきなりじゃない。こんな状況やのに、お前はなんか楽しそうや。まあ、俺といる喜びは分かるが」


「だから占い師に、俺らが付き合っているって嘘ついたのか?」


「YESとNO。NOの意味は分かるよな。YESの意味は――お前、何か隠していないか?」


 最上は僕を覗き込んだ。


「そういうことか。まあ、そのうち話そうとは思っていた」


「そりゃタイミングは悪いよな。こんな時に」


「今度、食事に行こうと思っている。出かけるのはこれが最初なんだ」


「それは良かったじゃないか。それで、どんな女?」


「どんな女性か。難しいこと聞くよな」


「簡単や。じゃあ、これはどうだ。もう寝たか?」


「いや、まだ起きている」


「そうじゃない。ちゃんと下半身を起こせ」


 最上とのやり取りは、片桐とは異なる脳の部分を使わされる。他に誰もこの領域を必要とさせないので、活性化するには少し時間を要する。


「それは、意識的にやるもんじゃない」


「図星だ。だからその女性を前にすると、無意識に起きるのか?」


「ああ。間違いない。完璧なタイミングで」


「おお、言うね……分かった。今度、紹介しろ。俺も起きるか見てやる」


閑話休題かんわきゅうだい。本題に入ろうか」


「はぁ、これが本題だろう。これから雑談だよ」


 最上との結論は、占い師が意図的に僕達に日付を伝えるため、あの場に待ち構えていたということだった。そして、あの日集まることを知っていた誰かが、あの占い師と繋がっている。それは佐久間しか思い当たらない。


 たくらみの景色が、ぼんやり浮かんで来た。しかし、その霧は晴れそうになく、僕と占い師の間に存在した。そして僕と彼との距離感を、実際のそれよりも遠く感じさせたのだ。


 もう二度と、あの占い師に会えないような気がした。梅の木に鶯がとまり鳴くように。もう会わないよ、と。

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