第2話 占い
その装いは、物まねから笑顔だけ差し引いた感じだった。
急な依頼を親から受け、仕方なく遠縁の弔問へ行き、帰りに寄り道した──そんな気配がある。
小学校からかっぱらって来たような机の上には白い布が掛けられ、易と書かれた提灯が、風で飛ばないように押さえられていた。
これがなければ、占い師なのか判別できない。
だが、提灯を置く価値は、そこにだけは見いだせた。
提灯の横には虫眼鏡が置かれていた。対照的にそれは、経年劣化がはっきり分かる。
それはそれで不自然だった。手相を見るには小さすぎる。
最後に目に入ったのが、筮竹だった。
本数は足りていそうだが、使用前の割り箸に近い。
これらを総合すると、やはり忘年会に行き着く。
男は僕の占いなど気にせず、淡々と聞いた。
「本当に占っていいですか?」
最上は呆れた表情で答えた。
「……本当に分かるのか」
「ええ」
佐久間の意地の悪さが顔を出す。
「だったら今日、俺たちは何人で飲む予定だと思う」
男は少し間を置いた。何も手に取らないまま。
「……六名ですか」
この男は過程をすっ飛ばした。
つまり、何も占っていないと正直に暴露したようなものだ。
だが、これが片桐ワールドの始まりを告げた。
「誰でも五人とは言わない。となると答えは六人か十人だ。
六人ならもう一人は男、十人なら五対五の食事会。
服装がばらばらだから食事会の可能性は低い。
もっとも、この年齢で新宿の食事会はセンスが悪い。よって十人は消える――」
佐久間が片桐の肩に手を置いた。
「とにかく、頼もうか」
「……」
「では、始めさせていただきます」
慌てて最上が口を挟んだ。
「ところで、いくらだ」
「本当に占っていいのなら、料金はいただきません」
再び片桐に打順が回ってきた。
「タダほど高いものはない」
占い師は平然と答えた。
「でも、価値は無限大かも」
「……」
「これから、あなた方にとって大切なことをお伝えします。どう受け取るかは、あなた方次第です」
一、二〇〇七年三月二日
二、二〇一〇年六月五日
三、二〇一二年八月九日
四、二〇一二年十月二十六日
五、二〇二〇年十一月二十三日
六、二〇五二年八月四日
僕はもう一度頼んだ。男は同じ日付を、すらすらと繰り返した。
電話番号すら一度で覚えられないのに、六つの日付など記憶できるはずがない。
「この日付は何だ」
最上は具体的な日付を口にした。
「三月二日って言えば来週だ。地震があるとは思えん。ひょっとして誰かの誕生日か。ちなみに俺は七夕だ」
苦笑いを浮かべながら、片桐が返す。
「誕生日じゃないな。日付は未来だから」
最上は笑っていた。
重村はメモを取っていた。技術者の宿命なのだろうか、と思った。
そのメモを頼りに、僕は言った。
「占い師さん、もう一度──いや、もう一回言ってくれる?」
占い師は、ルーレットを回すように同じことを繰り返した。
最後の日付まで、すべてメモ通りだった。
僕はただ尋ねた。
「何を意味している」
男はかたくなに「答えられない」を繰り返した。
苛立ちを覚えたが、諦めるしかなかった。
重村もメモをしまい、今にも歩き出しそうだった。
佐久間が、占い師への礼を買って出た。
「このことは、僕らのために大切にさせてもらう。ありがとう」
占い師が視界から消えると、僕の意識のどこかで、何かと符合しないかカレンダーをめくっていた。
占いに対する対価を支払わなかったことが、その原因のようにも思えた。
「さっきの日付、気にならないか」
僕が問うと、最上は特に気にした様子もなく、楽観的に答えた。
「来週、いいことが起こるんじゃないか」
僕は妙な気持ちだった。
川の流れが逆流する。真夏に雪が降る。
――いや、そんな大げさな話ではない。僕が感じている不自然さは、もっと身近なものだ。
左右の靴を反対に履いている、とか。
いや、それだと一歩目で気づく。
久しぶりに会った相手の七三分けが、左右だけ入れ替わっているような。
心待ちにしていた再会なのに、肝臓が痛み始めた。




