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―転生の果て―  作者: MOON RAKER 503


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9/15

第9話:転生したらスケルトンだった

【前書き】


お読みいただきありがとうございます。

この作品は「転生したら〇〇だった」シリーズです。

1話完結形式で進みますが、全15話を通して一つの物語として繋がっています。

どうぞ気楽にお楽しみください。

冷たい土の匂いが、最初に感じたものだった。


湿った空気。腐葉土と石灰の混じった臭い。そして――骨の軋む音。


カタカタと、乾いた音が響く。


それが、自分の体から発せられていると気づくまで、少し時間がかかった。


目を開ける。


いや、“開ける”という表現は正しくない。視界は最初からそこにあった。だが見えるのは、眼窩がんかの穴から覗く景色だけだ。


墓地。


月明かりが白く輝き、墓石が並んでいる。枯れた木々が風に揺れ、カラスが一羽、遠くで鳴いた。


俺は地面に横たわっていた。


手を動かそうとする。カタカタと音を立てて、白い骨が動いた。


肉がない。皮膚もない。あるのは骨だけだ。


俺は――スケルトンだった。


ゆっくりと体を起こす。関節が軋み、骨同士が擦れ合う音が響く。立ち上がると、世界が揺れた。


バランスを取るのが難しい。筋肉がないから、動きがぎこちない。骨だけで立ち、骨だけで歩く。


不思議なことに、“感じる”ことはできた。


風の冷たさ。地面の硬さ。月の光。


だが温もりはない。心臓の鼓動もない。呼吸もない。


生きているのか、死んでいるのか。


その境界が、曖昧だった。


記憶が、ぼんやりと浮かんでくる。


短剣だった頃のこと。勇者の腰に吊るされ、戦場を巡ったこと。一度も抜かれず、地に落ちたこと。


そして、血に触れた瞬間――


「――起きろ」


声が聞こえた。


いや、“声”ではない。命令だ。


体が勝手に動く。意識とは無関係に、骨が立ち上がり、一定の方向を向く。


墓地の奥から、光が近づいてくる。


松明を持った人間たちだ。ローブを纏った魔術師、剣を持った戦士、杖を握った僧侶。


そして、その中心に――勇者がいた。


あの時の、聖剣を持った若者だ。


だが今の彼は、俺を見ても何も感じない。ただ、道具を見る目だけがある。


「アンデッド召喚、成功だな」


魔術師が呟く。


「スケルトン一体。これで前衛が増える」


戦士が剣を構える。警戒するように、俺を睨んでいた。


「……大丈夫なのか? アンデッドなんて使って」


僧侶が不安そうに呟く。


「問題ない。命令に従うだけの人形だ」


勇者が言い切る。そして俺に向かって、手を差し伸べた。


「お前の役目は、魔物を倒すことだ。人間には手を出すな。命令に従え」


言葉が、体に刻まれる。


意識の奥で何かが縛られ、固定される感覚。抵抗はできない。


俺の体は、もう俺のものではなかった。


「行くぞ」


勇者が歩き出す。俺の体も、自動的についていく。


カタカタと骨が鳴り、墓地を後にする。


戦いが始まった。


森の奥に潜む魔物の群れ。狼のような獣、巨大な蜘蛛、腐った肉を纏ったゾンビ。


勇者たちが戦い、俺もその一員として動く。


剣を握らされ、敵に向かって走る。骨だけの体は軽く、速い。だが攻撃を受ければ、簡単に砕ける。


ガキン、と骨が折れる音。


腕が飛び、肋骨が砕ける。だが痛みはない。


そして――再生する。


魔術師の術式が俺を繋ぎ止め、砕けた骨が元に戻る。カタカタと音を立てて、また立ち上がる。


何度でも。


何度でも。


「便利だな、アンデッドは」


戦士が笑う。


「壊れても直る。文句も言わない」


俺は、道具だった。


使い捨ての兵士。消耗品。


それでも、戦い続けた。


魔物を倒し、人々を守る。


村を襲う獣を討ち、街を脅かす魔物を退ける。勇者たちの盾となり、剣となり、壁となる。


だが――


「化け物だ!」


村人が叫ぶ。


「骨が歩いてる!」


子供が泣き叫ぶ。


「近づくな、呪われる!」


女性が悲鳴を上げる。


俺は、恐れられていた。


魔物を倒しても、人を守っても、感謝されることはない。ただ、怯えられるだけだ。


アンデッド。


死者のむくろ


忌むべき存在。


それが、俺だった。


ある夜、勇者たちが休んでいる間、俺は村の外れに立っていた。


命令がない時、俺は動けない。ただ立ち尽くし、風に吹かれるだけ。


月が昇り、星が輝く。


村の中から、笑い声が聞こえた。人々の温かい声。焚き火を囲み、食事を分かち合う音。


俺には、それがない。


温もりも、笑顔も、誰かと語らう言葉も。


ただ、骨だけがそこにある。


「……俺は、何のために戦っているんだ?」


声にならない問いかけ。骨には声帯がない。だから、誰にも聞こえない。


戦いは続いた。


ある日、大規模な魔物の群れが街を襲った。数百を超える獣と魔獣の大群。


勇者たちだけでは足りない。街の兵士たちも加わり、総力戦となった。


俺も最前線に立つ。


剣を振るい、敵を切り裂く。骨が砕かれても、何度でも再生する。


人々を守るために、戦う。


「あの骨、すごいな……」


兵士の一人が呟く。


「俺たちを守ってくれてる」


少しだけ、恐怖ではない声。


だがすぐに――


「でも、やっぱり気味が悪い」


別の兵士が吐き捨てる。


「終わったら、さっさと消えてほしい」


俺は、守る者でありながら、忌まれる者だった。


殺す者でありながら、殺される者だった。


矛盾の中で、ただ戦い続ける。


そして、ついにその時が来た。


魔物の王が現れた。巨大な獣、炎を纏った魔獣。


勇者が聖剣を掲げ、光を放つ。だが魔物も強い。激しい戦いが繰り広げられる。


俺は盾となり、勇者を守った。


魔物の爪が、俺の胸を貫く。肋骨が砕け、背骨が折れる。


だが、構わない。


再生すればいい。


また立ち上がればいい。


それが、俺の役目だから。


戦いが続く。だが魔物の群れは終わらない。次から次へと湧いてくる。


俺の骨も、何度も砕かれ、何度も再生する。だが――限界が近い。


魔術師の魔力が尽きかけている。再生の術式が弱まり、骨の繋がりが脆くなっていく。


「くそっ、もう保たない……!」


魔術師が叫ぶ。


その時――


「――ならば、これで終わらせる」


勇者の声。


だが今度は、聖剣ではない。


シャキン、と別の音が響いた。


腰から抜かれる、短剣。


俺は、それを”知っていた”。


新しいサブ武器。俺が落ちた後、勇者が手に入れた予備の短剣。


俺の後継者。


俺の代わり。


「――行け」


勇者が短剣を投げる。


銀色の刃が、月光を反射して飛来する。


まっすぐに、俺の頭蓋骨へ。


ああ――


これが、俺の”後継者”か。


使われなかった俺の代わりに、ちゃんと使われている短剣。


皮肉だな。


俺は短剣として使われず、スケルトンとして――短剣に倒される。


ガキン。


頭蓋骨に刃が突き刺さる。


骨が砕け、ヒビが走る。


そして――白い光が溢れた。


短剣に込められた聖なる力。アンデッドを浄化する、神聖な魔力。


それが、俺を包んだ。


熱い。


初めて感じる、熱さ。


骨が溶け、存在が消えていく。


痛みはない。ただ、温かい。


「あ……」


声にならない声が、心の中で響く。


これで、終わるのか。


戦いも、孤独も、矛盾も。


すべてが、消える。


視界が白く染まる。


炎の中で、俺は最後に思った。


殺す者も、守る者も、悲しい。


どちらも、誰かのために存在する。


どちらも、誰かに恐れられる。


どちらも、孤独だ。


「……ありがとう」


誰かの声が、遠くで聞こえた気がした。


勇者か、兵士か、村人か。


それとも、幻聴か。


分からない。


でも――


少しだけ、救われた気がした。


炎が、俺を包み込む。


骨が崩れ、灰となり、風に散る。


また、終わる。


そして――


視界の端に、何かが見えた。


形のない、揺らめくもの。


風そのもの。


次が、来る。

【後書き】


お読みいただきありがとうございます。

この作品は「転生したら〇〇だった」シリーズです。

次の転生も、ぜひ見届けてください。

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