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―転生の果て―  作者: MOON RAKER 503


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8/15

第8話:転生したら勇者のサブ武器だった

【前書き】


お読みいただきありがとうございます。

この作品は「転生したら〇〇だった」シリーズです。

1話完結形式で進みますが、全15話を通して一つの物語として繋がっています。

どうぞ気楽にお楽しみください。

光の中で目覚めた。


眩い、白い光。意識が浮上するにつれ、感覚が戻ってくる。だが今回は、これまでとは違う。


温もりがない。柔らかさもない。


あるのは、冷たく硬い感覚だけだ。


――金属?


俺は何かに”なっている”。体という概念すらない。ただ、鋭く研がれた刃の感覚。柄の重み。鞘に包まれた窮屈さ。


短剣だ。


俺は、一本の短剣として存在している。


視界はない。だが”感じる”ことはできた。揺れる感覚。誰かの腰に吊るされている。歩く度に、鞘が左右に揺れる。


金属同士が擦れる音が聞こえた。


いや、“音”ではなく、振動として伝わってくる。鞘の中は暗く、狭い。外の世界は、音と揺れでしか分からない。


「――よし、行くぞ!」


若い男の声が響く。力強く、希望に満ちた声だ。


持ち主――俺の主は、走り出した。


足音が地を蹴る。風が吹き抜ける。仲間たちの声が交錯する。


「勇者様、前方に魔物です!」


「任せろ!」


金属音が鳴り響いた。


だがそれは、俺ではない。


主の腰には、もう一振りの剣がある。俺よりも大きく、重く、そして――神々しい。


聖剣。


伝説の武器。魔王を討つために選ばれた、光の刃。


シャキン、と鞘から抜かれる音。それは俺ではなく、聖剣の音だ。


「喰らえ、エクスガリア!」


光が弾ける。衝撃波が空気を震わせ、魔物の断末魔が響く。地面が揺れ、何かが崩れ落ちる音がした。


「さすが勇者様!」


「その聖剣、眩しいぜ!」


仲間たちの歓声。賞賛の声。


俺は、腰の中で揺れているだけだった。


戦いは続いた。


村を襲う魔物、森に潜む獣、古城の奥に眠る邪悪な存在。勇者は聖剣を振るい、次々と敵を倒していく。


その度に、光がほとばしる。


聖剣の輝きは、鞘の中にいる俺にも伝わってくる。温かく、強く、圧倒的な力。


だが俺は、一度も抜かれなかった。


鞘の中で、俺はただ待ち続ける。


もしかしたら、次は俺の出番かもしれない。


もしかしたら、聖剣が折れて、俺が必要になるかもしれない。


だが、その時は来なかった。


勇者は強かった。聖剣は無敵だった。仲間たちは勇敢で、連携も完璧だった。


だから、“予備”である俺は必要なかった。


ある夜、野営地で仲間たちが武器の手入れをしていた。


剣士が愛剣を磨き、弓使いが弦を張り直す。勇者も聖剣を布で拭いていた。刀身が焚き火の光を反射し、美しく輝く。


「やっぱりこの剣、最高だな」


勇者が呟く。聖剣の刃に、彼の顔が映り込んでいた。満足そうな笑みを浮かべている。


俺は?


腰に吊るされたまま、誰にも触れられなかった。


時折、勇者が腰の辺りを叩く。ベルトの位置を直すついでに、俺の鞘に手が触れる。


「予備があると安心だ」


独り言のように、そう言う。


予備。


保険。


“もしもの時”のための存在。


だが”もしも”は、永遠に来なかった。


聖剣が折れることも、勇者が武器を失うこともなかった。彼は強く、運にも恵まれていた。


だから俺の出番は、ない。


それでも俺は、そこにあり続けた。


戦場の音を聞き、血の匂いを感じ、勝利の歓声を聞いた。


すべてが、鞘越しに伝わってくる。


遠く、薄く、曖昧に。


やがて、その日が来た。


魔王城。


石畳を踏む足音が、いつもより重い。仲間たちの息遣いが、緊張で荒い。


「……ついに、ここまで来たな」


勇者が呟く。声には、決意と覚悟が滲んでいた。


巨大な扉が開く。軋む音が響き渡る。


そして――魔王との対峙。


空気が震える。圧倒的な存在感。仲間たちが息を呑む気配が伝わってくる。


「人間風情が、よくぞここまで辿り着いた」


低く、重い声。魔王の声だ。


「だが、ここで終わりだ」


闇の波動が放たれる。衝撃が走り、仲間たちが倒れる音がした。悲鳴、呻き声、剣が地面に落ちる音。


「くそっ……!」


勇者の声に、初めて焦りが滲む。


だが、諦めてはいない。


「……これで、終わらせる!」


聖剣が鞘から抜かれる。


シャキン――と、澄んだ音が響いた。


そして、光。


眩いばかりの光が溢れる。鞘の中にいる俺にも、その輝きが伝わってくる。熱く、強く、すべてを焼き尽くすような力。


「聖剣エクスガリア――光よ、悪を討て!」


勇者の叫び。聖剣が振り下ろされる。


光の奔流が放たれた。


空間が歪む。空気が裂ける。魔王の咆哮が響き、闇と光が激突する。


爆発。


衝撃波が四方に広がり、城が揺れる。瓦礫が崩れ落ち、天井が軋む。


そして――


静寂。


魔王の巨体が、崩れ落ちる音がした。


ドサリ、と重い音。床が震える。


「……やった」


勇者が呟く。息が荒い。疲労と安堵が入り混じった声だった。


「やったぞ……!」


「勇者様……!」


仲間たちの声が重なる。泣き出す者もいる。抱き合い、笑い合い、勝利を噛み締める。


「世界を救ったんだ……!」


「この聖剣が、魔王を討ったんだ!」


聖剣が、称賛される。


勇者が、称賛される。


俺は、腰にあった。


ずっと、そこにあった。


何も変わらず、何もせず、ただ存在しただけ。


戦いの後、勇者は膝をついた。


疲労と緊張が解け、力が抜けていく。聖剣を地面に突き立て、それに寄りかかるように座り込む。


その拍子に――


俺が、落ちた。


ベルトが緩み、鞘ごと地面に転がる。


カラン、と乾いた音を立てて、俺は石畳の上に横たわった。


誰も気づかない。


仲間たちは勇者を囲み、抱き起こし、労っている。聖剣を掲げ、勝利を祝っている。


俺は、誰にも見られず、地に転がっていた。


冷たい石の感触。


遠くで聞こえる歓声。


そして――


一滴の、温かいもの。


俺の刃に、何かが落ちた。


赤い液体。勇者の血だ。


戦いの中で負った傷から、一滴だけ滴り落ちたのだろう。


それが、俺に触れた。


瞬間、熱が走った。


刃の奥から、何かが溢れてくる。光が、魂が、存在そのものが震える。


これは――


「……使われなくても、俺はここにいた」


声にならない呟き。だが確かに、そう思った。


一度も抜かれなかった。


一度も血を浴びなかった。


一度も、役に立たなかった。


それでも、俺はここにいた。


勇者の腰で、戦場で、勝利の瞬間に。


栄光の影で、光の隣で、選ばれなかった存在として。


それが、俺の生だった。


意識が遠のいていく。


刃の感覚が薄れ、金属の冷たさが消えていく。


また、終わる。


そして――


闇の中に、何かが見えた。


骨の軋む音。墓場の湿った空気。月明かりが、白く輝いている。


次が、来る。

【後書き】


お読みいただきありがとうございます。

この作品は「転生したら〇〇だった」シリーズです。

次の転生も、ぜひ見届けてください。

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