表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
―転生の果て―  作者: MOON RAKER 503


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/15

第3話「転生したら石ころだった」

【前書き】


お読みいただきありがとうございます。

この作品は「転生したら〇〇だった」シリーズです。

1話完結形式で進みますが、全15話を通して一つの物語として繋がっています。

どうぞ気楽にお楽しみください。

重い。


それが、最初に感じたことだった。


たんぽぽの時は軽かった。風に乗って、空を飛んで、どこまでも自由だった。でも今は、重い。動けない。身体全体が、地面に押し付けられている。


目を開ける。


いや、目はない。


でも、“見える”。光の明暗が、なんとなくわかる。上には空がある。青くて、広い。雲が流れている。


そして、すぐ近くに水の音が聞こえる。


川だ。


流れる水が、石を撫でる音。ざあざあと、途切れることなく響いている。


俺は、川辺にいる。


そして、俺は――石ころだった。


動かない。


腕も、脚も、翼も、根もない。ただの石。灰色で、小さくて、丸い石。


これが、俺。


笑えない。笑う口もない。


たんぽぽの時は、まだ良かった。光合成があったし、風に揺れる感覚があったし、成長もあった。生きている実感があった。


でも今は、何もない。


動けない。喋れない。成長もしない。


ただ、在る。


それだけだ。


最初は、抵抗しようとした。


動こうとした。転がろうとした。何かしようとした。でも、身体は微動だにしない。石は、石のままだ。


どれだけ念じても、どれだけ願っても、何も変わらない。


やがて、諦めた。


これが、俺の新しい形なのだ。受け入れるしかない。


太陽が、照りつける。


熱い。


石の表面が、じりじりと焼かれていく。人間の時なら耐えられない暑さだ。でも今の俺には、逃げる術がない。ただ、熱を受け止めるしかない。


でも、不思議と苦痛ではなかった。


熱は身体に染み込んでいき、やがて夜になると、その熱をゆっくりと放出する。温まって、冷えて、また温まる。その繰り返し。


雨が、降る。


冷たい雫が、俺の表面を叩く。ぽつぽつと、リズムを刻む。やがて本降りになり、川の水位が上がる。


水が、俺を包む。


冷たい。でも、心地よい。


水の流れが、俺を撫でていく。苔や泥を洗い流し、表面を綺麗にしてくれる。雨が止むと、また元の場所に戻る。


ただ、それだけ。


何も変わらない。


季節が、過ぎていく。


暑い日が続いたかと思えば、急に涼しくなる。葉が色づき、やがて散っていく。川辺の草も枯れて、冬が来る。


雪が、降る。


白い雪が、俺を覆う。冷たくて、静かで、世界が白一色に染まる。川の流れも弱くなり、音も小さくなる。


全てが、止まったようだった。


でも、俺の意識だけは止まらない。


考え続ける。感じ続ける。


時間が、流れていく。


春が来て、また夏が来る。秋が過ぎて、また冬が来る。何度も、何度も、季節が巡る。


人も、通り過ぎる。


ある日、足音が近づいてきた。


小学生だ。ランドセルを背負った男の子が、川辺を歩いている。友達と喋りながら、下校しているらしい。


その足が、俺の前で止まる。


「あ、ちょうどいい石」


声が聞こえる。


次の瞬間――


蹴られた。


ごん、と鈍い音がして、俺の身体が宙に浮く。


動いた。


初めて、動いた。


転がる。地面を跳ねる。また転がる。視界が回転して、空と地面が入れ替わる。


楽しい。


あの風を、思い出した。たんぽぽだった時、綿毛として空を飛んだ時の、あの自由な感覚。形は違うけど、今また俺は動いている。


不快感なんて、まるでない。むしろ、嬉しかった。


動けなかった俺が、動いている。誰かの力を借りてだけど、確かに動いている。


「よっしゃ、ナイスキック!」


男の子が走ってくる。また蹴る。


転がる。


また蹴る。


転がる。


石蹴りだ。下校しながら、俺を蹴って遊んでいる。


一歩、また一歩。俺は道を進んでいく。自分の意志じゃないけど、でも進んでいる。景色が変わっていく。見たことのない場所へ、どんどん移動していく。


これが、移動するということか。


石ころには、脚がない。自分で歩くことはできない。でも、誰かが動かしてくれれば、こうして旅ができる。


ありがとう、と心の中で呟く。


声には出せないけど、感謝している。君が俺を蹴ってくれたおかげで、俺は動けた。


「あ、やべ、川に落ちそう」


男の子が慌てる。


最後の一蹴りが、少し強すぎた。


俺は勢いよく転がり、川辺の斜面を下っていく。止まらない。


このまま川に――


ぼちゃん、と音を立てて、水の中に沈む。


冷たい。暗い。流れが速い。


俺は川底を転がりながら、どこかへ運ばれていく。石や砂に当たりながら、ごろごろと。


でも、不思議と怖くなかった。


これも、旅の一部だ。


やがて、浅瀬に辿り着く。


水が引いて、また陸に戻る。


元の場所とは違う。見知らぬ川辺。でも、やっぱり動けない。


ただ、少しだけ満足していた。


動けた。あの時、確かに動けた。


人間の時は、一日がこんなにも短かった。


朝起きて、学校に行って、帰ってきたらもう夜。時間が足りない、といつも思っていた。


でも今は、一日が長い。


いや、長いという感覚すら曖昧だ。朝が来て、昼になって、夜が来る。でもそれが何日続いているのか、何ヶ月経っているのか、わからない。


もしかしたら、何年も経っているのかもしれない。


何十年も。


何百年も。


石は、何千年も何万年も存在できる。人間の一生なんて、石にとっては一瞬かもしれない。


だとしたら、俺はこれからどれだけの時間をここで過ごすのだろう。


永遠に、ここにいるのだろうか。


孤独だ。


たんぽぽの時は、周りに仲間がいた。他のたんぽぽたちと、一緒に風に揺れていた。


でも今は、独りだ。


周りには他の石もある。でも、彼らは意識を持っているのだろうか。俺みたいに、考えているのだろうか。


わからない。


聞くこともできない。


ただ、黙って、時を過ごすだけ。


でも、不思議と嫌ではなかった。


孤独は孤独だけど、それが苦痛ではない。むしろ、穏やかだ。


何も求めない。何も期待しない。ただ、在る。


それだけで、いい。


人間の時は、常に何かを求めていた。


楽しいことを、面白いことを、刺激を。退屈が嫌で、無為な時間が嫌で、常に何かをしていないと不安だった。


でも今は、何もしなくていい。


ただ存在するだけで、いい。


それが、石ころの生き方なのかもしれない。


ある日――いや、ある時――


ひび割れが生じた。


最初は小さな亀裂だった。表面に、細い線が入る。気づかないほど、微かな傷。


でも、それは少しずつ広がっていく。


雨が降り、太陽が照りつけ、凍って、溶けて――その繰り返しの中で、亀裂は深くなっていく。


やがて、それは俺を二つに割る寸前まで達した。


ああ、と思う。


これで、終わりか。


石としての終わり。


でも、終わりは始まりでもある。


ひび割れの隙間から、風が吹き込んでくる。冷たくて、優しい風。それが俺の中を通り抜けていく。


次だ。


また、次が来る。


俺は、そう理解した。


風が、再び俺を動かした。

【後書き】


お読みいただきありがとうございます。

この作品は「転生したら〇〇だった」シリーズです。

次の転生も、ぜひ見届けてください。

ブックマークや感想をいただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ