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―転生の果て―  作者: MOON RAKER 503


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15/15

第15話:転生したらボクだった

ここまで読んでくださった皆さまへ。

本作「転生の果て」は、この第15話で完結となります。


すべての転生がつながり、ひとつの“魂”として還る物語。

最後まで見届けていただけたら嬉しいです。

朝、六時半。


アラームが鳴る前に、俺は目を覚ました。


目を開けると、見慣れた天井。自分の部屋。白い壁、小さな本棚、窓から差し込む朝日。


すべてが、懐かしかった。


体を起こす。


手がある。五本の指。温もりがある。心臓が鳴っている。


呼吸ができる。空気を吸い、吐く。


肺が膨らみ、胸が上下する。


人間だ。


俺は――人間に戻っていた。


かつて、この体で生きていた。


事故で死ぬ、あの日まで。


窓を開ける。


風が吹き込んできた。


その瞬間――


たんぽぽのように、軽やかに呼吸をしている自分に気づいた。


風の感触が、肌を通り越して魂に触れる。


あの時の記憶。


綿毛となって空を飛んだ、あの浮遊感。


それが、今も体の中に残っている。


深く息を吸う。


胸の奥に、石のような静けさがあった。


どこまでも揺るがない感覚。


数百年、川底で転がり続けた、あの孤独と忍耐。


それが、今の俺の土台になっている。


心は――勇者の武器のように、研ぎ澄まされていた。


使われなかった短剣としての誇り。


それが、今の俺の芯を作っている。


鏡の前に立つ。


映るのは、元の自分の顔。


大学生の、ごく普通の顔。


だが――


目の奥に、何かが宿っていた。


過去の転生が、重なって見える。


花として風に揺れた日。


石として時を耐えた夜。


蟻として群れを守った本能。


鳥として空を切った自由。


隕石として宇宙を漂い、燃え尽きた光。


フィルムとして涙を見た孤独。


短剣として使われず終えた誇り。


スケルトンとして戦い、散った矜持。


風として世界を巡った孤高。


魔族として苦悩を抱いた誠実。


記憶として忘れられた哀しみ。


夢として誰かの願いに生まれた優しさ。


虚空で壊れた自分を修復した理。


そのすべてが、今の俺という人間の中で息づいている。


かつての俺なら――


何も感じずに、ただ生きていただけだった。


朝が来れば起き、大学に行き、何となく過ごし、眠る。


それだけの日々。


退屈で、意味もなく、ただ流れていくだけの時間。


だが、今は違う。


すべてが、生きている。


世界が呼吸している。


俺も、その一部として息をしている。


服を着る。


ボタンを留める指先に、蟻の記憶が宿る。


小さな体で必死に働いた、あの日々。


鞄を持つ手に、短剣の記憶が宿る。


使われなくても、そこにあり続けた日々。


玄関を出る。


春の風が頬を撫でる。


風として世界を巡った記憶が、蘇る。


自由で、孤独で、それでも美しかった日々。


通学路を歩く。


遠くの花壇には、たんぽぽが咲いていた。


あの時の俺のように、風に乗り、光に照らされて。


足を止め、しゃがみ込む。


黄色い花びら。緑の茎。


「……元気そうだな」


呟く。


誰にも聞こえない、独り言。


だが、たんぽぽは風に揺れた。


まるで、返事をするように。


スマホを取り出す。


画面を見つめる。


保護フィルムが貼られている。透明で、傷一つない。


守る側でも、守られる側でもない。


ただ、触れ合うための存在。


指でそっと撫でる。


「……ありがとう」


フィルムに、感謝を伝える。


バカみたいだと、かつての俺なら思っただろう。


だが今の俺は、知っている。


すべてに、意味がある。


すべてが、誰かの役に立っている。


たとえ見えなくても、認識されなくても。


信号が青に変わる。


前を歩く少女がスマホを見たまま、一歩踏み出す。


その瞬間――


空気が凍った。


タイヤが悲鳴を上げる。


トラックが、迫っていた。


世界が、スローモーションになる。


かつての俺なら、立ち尽くしていただけだっただろう。


だが――


今の俺は、違う。


反射的に、走った。


体が、たんぽぽのように軽い。


足が、鳥のように速い。


心が、短剣のように鋭い。


時間が伸びる。


世界が遅れる。


俺は風を裂き、光を掴む。


鳥の羽ばたきのような跳躍で――


少女を抱きかかえた。


轟音。


風圧。


金属の震動。


すべてが背中を通り過ぎ、消えていった。


地面に転がる。


だが、少女は俺の腕の中で無傷だった。


震えている。


生きていた。


「……大丈夫か?」


声が震えた。


少女が顔を上げる。


涙が浮かんでいる。


「あ……ありがとう、ございます……」


か細い声。


だが、確かに生きている声。


俺は微笑んだ。


「よかった」


立ち上がり、少女を助け起こす。


周りに人が集まってくる。


「大丈夫か!?」


「救急車!」


「すごい……間一髪だったな……」


騒ぎになる。


だが俺は、静かに立ち去った。


必要ない。


ただ、助けたかっただけだ。


それだけで、十分だった。


空を見上げる。


青い空。白い雲。


光が差し込む。


その光の向こうに――


花も、石も、風も、すべての”俺”が微笑んでいる気がした。


ありがとう。


すべての転生に。


すべての生に。


すべての死に。


お前たちがいたから、今の俺がいる。


孤独も、苦しみも、喜びも、すべてが俺を作った。


もう、怖くない。


もう、迷わない。


俺は、俺として生きる。


人間として。


たんぽぽの軽やかさを持ち。


石の強さを持ち。


蟻の献身を持ち。


鳥の自由を持ち。


隕石の輝きを持ち。


フィルムの透明さを持ち。


短剣の誇りを持ち。


スケルトンの矜持を持ち。


風の孤高を持ち。


魔族の誠実を持ち。


記憶の温もりを持ち。


夢の優しさを持ち。


虚空の理を持ち。


そして――


人間の心を持って。


歩き出す。


通学路を、前へ。


未来へ。


世界は変わらない。


だが、俺は変わった。


すべてが愛おしい。


朝の光も、風の音も、人々の声も。


ありふれた日常が、奇跡のように輝いている。


――また、始めよう。


今度は、終わらせないために。


今度は、この世界を――


この人生を――


全力で、生きるために。


俺は笑った。


心から、笑った。


そして――


走り出した。


新しい朝へ。


新しい人生へ。


転生の果てに辿り着いた、この場所で。


俺は、ボクとして――


生きていく。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。


この物語は、一人の魂が「死」と「再生」を繰り返す旅でした。

そしてその旅を、あなたが見届けてくれたこと。

それこそが、物語を“生かした”証です。


いくつもの命を経て、魂はようやく“果て”に辿り着きました。

けれど、果ての先にも道はあります。


――次なる章『転生の果てⅡ』、10月19日(日)20時公開。


第2話以降は、毎日 7:00/20:00 更新予定。


朝と夜、二度の転生を見届けてください。


感謝を。


MOON RAKER 503


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