65.夫婦になる
私たちがそろったのを見て、アドルフ様が立ち上がる。
そして、私たちの前に置かれた宣誓台に立つ。
「これより、レドアル公爵家、イフリア公爵家の結婚式を執り行う」
アドルフ様の言葉に、控えていた側近が書類を宣誓台の上にのせる。
「まずはレドアル公爵家、前へ」
ジェラルド兄様に手を引かれ、二人で前に出る。
置かれていた書類に兄様が署名をし、次いで私が署名をする。
それが終わるとアドルフ様が間違いないか確認してうなずく。
同じようにイフリア公爵家が呼ばれ、レイモン兄様とコリンヌも署名を終えた。
「ああ、問題ないな。これで両家の婚姻を見届けた。
アドルフ・リヴァロイルの名で承認しよう」
承認された……これでジェラルド兄様の妻になった。
結婚が承認されたことで、謁見室の雰囲気が急に緩んだものに変わる。
そのせいか、アドルフ様がレイモン兄様に向かってにやりと笑った。
「ようやく結婚できたな、レイモン」
「……遅くて問題でも?」
「いや、ないよ。レイモンがちゃんと幸せそうでほっとしている。
妹が大好きすぎて結婚できないかと思っていたからな」
「それは余計な心配です」
「そうか」
からかわれたレイモン兄様は不機嫌そうな顔をしているけれど、
アドルフ様はうれしそうに笑った。
もしかして、本当に心配してくれていたのかもしれない。
この後は二つの公爵家のお披露目として、大広間で夜会が開かれる。
アドルフ様と一緒に大広間まで移動すると、たくさんの貴族に迎え入れられる。
もともとレドアル公爵家だった私が戻るのと、
イフリア公爵家に嫁ぐことになるコリンヌでは注目度が違う。
レイモン兄様に連れられたコリンヌはすぐに囲まれて、
たくさんの貴族夫人や令嬢に話しかけられていた。
「コリンヌ、大丈夫かしら」
「レイモンがなんとかするだろう。ほら、俺たちも挨拶回りに行こう」
「ええ」
ジェラルド兄様の妻になって、初めての挨拶回り。
緊張しながらも挨拶をすると温かく祝福される。
久しぶりにマリエットとアリスとエリーナにも会え、
コリンヌと五人で話せる時間も作ってもらえた。
途中、ジェラルド兄様を好きだったらしい令嬢が涙ぐむこともあったけれど、
おおむね問題なく挨拶回りは終了した。
同じように挨拶回りをしていたお義父様とお義母様が、
ニコニコと笑いながらこちらに向かって来るのが見えた。
「ジェラルド、ジュリアンヌ」
「父上、どうかした?」
「挨拶回りは終わっただろう?屋敷に先に戻って良いぞ」
「もういいのか?」
「ああ、あとは任せなさい」
「わかった」
まだ夜会が終わる時間には早いけれど、お義父様にそう言われ、
私とジェラルド兄様は先に屋敷に戻ることにした。
帰りの馬車に乗ると、思っていたよりも疲れていたのに気がつく。
「大丈夫か?」
「うん、気がつかなかったけど緊張していたのかも」
「そうか。父上はだから早く帰れって言ったのかもな」
「そっか」
ジェラルド兄様の肩にもたれ、馬車に揺られていると眠くなる。
屋敷に着くころには少しうとうととしてしまっていた。
「ジュリアンヌ、着いたよ」
「……うん」
「ああ、眠いのか。降ろすよ」
私が寝ぼけていたせいか、ジェラルド兄様が抱き上げて降ろしてくれる。
そのまま屋敷の中まで入り、奥へと進んでいく。
「あれ?ここはどこ?」
「部屋の改装したって言っただろう」
「あ、そうだった」
そういえば、私の部屋だった部屋は改装すると言っていた。
見覚えがないと思ったのは、部屋の扉も変えていて気がつかなかったからだった。
ドアを開けて中に入ると、私好みの家具が置かれた応接間。
そして、その奥に続き部屋が見えた。
続き部屋に置かれていたのは大きな寝台。
……ここは私の部屋ではなく、ジェラルド兄様との夫婦の部屋。
「なぁ、ジュリアンヌは初夜だって気がついているか?」
「……しょや……」
気づいていなかった。
今日、結婚したということは、そういうことなのに。
結婚式やお披露目を失敗せずに無事に終わらせることで頭がいっぱいで、
ジェラルド兄様と夫婦になることを考えていなかった。
「……どうする?今日は一人で寝るか?」
「一人?」
「さすがに……一緒に寝るのに手を出さないでいるのは無理だ。
だから、怖いなら初夜は後回しにしてもいい」
「私を一人にするの?」
「……寝るまではそばにいるから」
また魔術を使って私を寝かせて、どこかに行くつもりなのか。
やっと兄様と夫婦になれたのに。
「嫌よ。ここにいて」
「だけど、それじゃあ……」
「夫婦になったんだもん!兄様と!」
「……ジュリアンヌ」
「やっと夫婦になったんでしょう? 嫌……、どこにも行かないで」
ずっと一人で眠るのが嫌だった。
眠るまで手をつないでくれるのはうれしかったけれど、
朝になって一人で起きるのはさみしかった。
夫婦になったら、もう離れなくていい。
一緒に眠っても怒られない、そう思っていたのに。
「ジュリアンヌ……夫婦になるってことは、ただ一緒に寝るだけじゃないんだぞ?」
「知ってるわ。お義母様から教えてもらったもの。
……くわしいことは兄様に教えてもらえって言われたけど」
この日のために、お義母様から男女ですることは教えてもらった。
痛くてつらいかもしれないけど、夫婦になるためには乗り越えなくちゃいけないんだって。
「兄様は私と夫婦になりたくはないの?」
「……なりたいに決まっているだろう。
俺はジュリアンヌと結婚するってずっと決めていたんだ。
何も知らないジュリアンヌを怖がらせないように兄の顔をしていたけれど、
本当は欲しくてたまらなかった……。
いいのか?今まで我慢していた分、途中で止められないと思うぞ」
「いいの。兄様になら何をされても」
両手を兄様の首に回して、頬に口づけしようとしたら、
強く抱き寄せられて唇が重なる。
長い長い口づけに息が苦しくて口を開いたら、兄様の舌が入り込んできた。
「んぅ!?」
息が苦しいのに、兄様は離してくれず、そのまま奥の部屋へと連れて行かれる。
ようやく唇が離れたと思ったら、寝台の上に押し倒され、また口づけされる。
「……悪い、苦しいか」
「……っ。息が……吸えなかった」
「じゃあ、今度はゆっくりするから……」
また兄様の舌が入り込んでくると、苦しいだけじゃなくて、
気持ちよさに耐えられなくて苦しい。
今までの口づけとはまるで違うことに戸惑っている。
兄様がふれている部分が熱くて、身体が溶けそうな気がする。
怖いけれど、やめてほしくない。
心のどこかでもっとしてほしいと願ってしまっている。
兄様は途中で止められないと言っていたけれど、
何度も私に大丈夫かと心配そうに聞いていた。
ああ、本当に兄様の妻になれたんだ。
そう思ったらうれしくて涙がこぼれた。
「……つらいのか?」
「ううん、違うの。うれしくて……」
「……俺もうれしい。ありがとう、ジュリアンヌ」
ぎゅっと抱きしめられたら、ほっとして気が抜けて目が開かなくなった。
結婚式と夜会の疲れが押し寄せてきて、
そのまま兄様に抱きしめられたまま眠ってしまったようだった。




