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ただ幸せになりたかっただけと、あなたたちは言うけれど  作者: gacchi(がっち)


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53.結末は(シュゼット)

お母様はまだ泣き叫んでいるけれど、お父様が止めている。

お父様はもうあきらめている表情だ。

これから平民となってどうやって暮らすのかもわからないだろうに。


急に、サミュエルとは違う声が聞こえた。


「シュゼットは変わらなかったようだな」


あらわれたのはアドルフ様だった。

なぜかサミュエルが慌ててすがりつくようにしている。


「兄上!もう少しだけ待ってください!

 必ず説得してみせますから!」


「どう考えても無理じゃないか?

 このままアジェ伯爵家に戻しても、

 イフリア公爵家とレドアル公爵家に迷惑をかけるだけだろう。

 あきらめてその女も追放してしまおう」


「待ってください!」


追放?その女って、アドルフ様が見ているのは私?


「まだわからないのか?お前だよ、シュゼット。

 サミュエルが説得出来ればアジェ伯爵家に戻すが、

 説得できなければ同じように王都から出す、そう決めていた」


「説得ってなに?」


「お前が貴族としての常識を守り、おとなしくサミュエルと婚約し、

 領地から出ないで生涯を暮らすと約束できるのなら、

 髪を切るだけで許してやる、そう言ったんだ」


「髪を切る!?」


そんな話はサミュエルから聞いていない。

どういうことなのかサミュエルを見れば、泣きそうな顔をしている。


「シュゼット、頼むからそれで納得してくれ。

 認めなければ、シュゼットも髪だけじゃなく手も切られることになる。

 平民になって、シュゼットが暮らしていけるわけがない。

 すぐに人買いに誘拐されてしまうか殺される!」


「人買いって、平民として暮らすだけじゃ……」


「元貴族の若い女が平民になって無事でいられるわけがない。

 すぐに売られて……ひどい目にあうんだ。

 なぁ、兄上の命令に従うって言ってくれ!

 髪ならまたすぐに戻る。手は戻らないんだ!」


お父様とお母様の手を思い出す。

……あんな風に切られたくはない。

だけど、サミュエルと結婚して領地に閉じこもるなんて……。


だって、私はジェラルド様をあきらめていない。

お兄様とお姉様と仲良くなることも……。

きっとうまくいく方法が何かあると思うから。


そう思ってサミュエルに返事をしなかったら、

アドルフ様が大きくため息をついた。

それを見て、サミュエルの身体がびくりと震えた。



「……もう、めんどくさいな。

 とりあえず、髪を切る。その間にどうするか考えるんだな」


「え?」


騎士に囲まれたと思ったら、両肩を押さえられ、跪かされる。

頭を捕まれたと思ったら無理やり下げられた。


「痛い!何をするの!?」


「髪はどちらにせよ切ると言っただろう?」


「っ!!どうして切られなきゃいけないの!?

 嫌よ!止めて!何をするの!?」


「本当に罪悪感というものがないのだな。

 まぁ、いい。やれ」


アドルフ様のその声で騎士が動いた。

ばさり、ばさりと髪が落ちていく。

騎士がハサミで私の髪を切り落としていく。


「あぁぁぁ……なんてひどいことをするの……」


「ああ、こんなに短くなって男の子みたいだな。

 お前が悪いことをしたから、こうなったんだ。

 早く良い子になるといいな?」


厭味ったらしいアドルフ様の言葉ににらみつける。


「やっぱり貴族らしく生きるのは無理そうだな」


「私は何も悪いことはしていないわ!

 どうして結婚相手まで決められなくちゃいけないのよ!」


いくら王太子だからと言って、そんなこと許せない。

文句を言い続けていたら、アドルフ様は私から離れていく。


「サミュエル、わかったな?

 こいつは変わらない。これ以上野放しにしておくことはできない。

 いいかげん、それを理解しただろう?」


「…………はい」


「お前も巻き込まれたくないのなら、ここから去れ」


「……わかりました」


「え?サミュエル……?」


アドルフ様に返事をしたサミュエルは王宮の中に入っていく。

がっかりしたような顔をして、一度もこちらを見ない。

私を置いてどこに行くのか、戻ってくることはなかった。


「では、この場でシュゼットも処罰を執行する」


「え……」


「手を押さえつけろ」


「……いや、いや……やめてよ。そんなことしないで!」


数人がかりで左腕を押さえつけられ、

騎士が斧を振り上げたと思ったら、そのまま気を失ってしまった。


目が覚めたら、馬車の中だった。

お父様に抱きかかえられて馬車に乗っていた。


「……目が覚めたか」


「お父様、……私はどうして」


「シュゼットも一緒に王都から出されることになったんだ」


「え?嫌よ!そんな!私はアジェ伯爵家に帰るのよ!」


「もう無理だ。……手をごらん」


「……手?」


両手を出してみれば、左手がなかった。

それを見て、また気を失う。


次に目が覚めた時はすっかり王都からは遠ざかって、

お母様と一緒にぼんやりとしていた。

どうしてこうなってしまったのか、わからない。


あの時、サミュエルにうなずいていたら、私は貴族でいられたのに、

どうして素直に従うって言わなかったんだろう。

こんなことになるって知っていたらうなずいていたのに。


馬車は途中で休憩を挟みながらどこまでも進む。

もう王都からどのくらい離れているのかもわからない。


ここが三人で暮らす場所だと置いて行かれたのは粉ひき小屋だった。

その周りに監視のために騎士がつくと説明されたが、

決して声をかけないようにと言われた。


家具もほとんどない小屋の中に入り、何もする気がない。

それなのにお腹が空くし、喉も乾く。

ここでは食事も水も出てこない。

自分たちで買いにいかなくては手に入らないらしい。


どうすればいいのかわからないし、短い髪を人に見られたくない。

お父様だけが外にでて食料を買い、何か仕事をしていたようだった。


……いつかサミュエルが助けに来てくれるはず。

いいえ、お姉様かお兄様かもしれない。

ジェラルド様は私がいなくなってさみしくしていないだろうか。


そんなことばかり考えて一日が終わる。

この生活は、いつになったら終わるんだろうか。





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