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ただ幸せになりたかっただけと、あなたたちは言うけれど  作者: gacchi(がっち)


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52.選択を迫られる(シュゼット)

ひとしきり泣いたら、目が痛くて腫れぼったい。

サミュエルは最後まで慰めてくれなかった。


「……そろそろ時間だ。行くか」


「アジェ伯爵家に?」


「いや、その前に。マゼンタ夫人とイフリア公爵を見送る」


「見送る?何を言って……」


「マゼンタ夫人は両手を切り落として王都から出すことに決まった。

 それを公爵が半分請け負うことで刑が軽くなった」


「手を……切り落とす?」


聞き間違えたのかと思って聞き返したのに、

サミュエルは大まじめな顔でうなずく。


「ああ。二人とも左手を切り落とされている。

 あ、切り落とされた後は治療されているから痛みはないはずだ。

 それだけは安心していい」


「安心って!できるわけないでしょう!?

 どういうことなのよ!」


「どういうことって、処罰だよ。ジュリアンヌを誘拐して傷つけた罪。

 イフリア公爵はそれほど重い罪じゃなかったんだが、

 マゼンタと同じ罪を背負うことにしたらしい」


「あ……」


お姉様を誘拐した罪……まさかそんなに重い処罰になるなんて。

しかも、お父様まで手を切り落とされている……。


「今日、二人とも王都から追い出されるそうだ。

 俺とシュゼットはそれを見送るようにと」


「王都から追い出されて、お父様とお母様はどこに行くの!?」


「王都から離れた小さな村だそうだ。

 そこで平民として暮らしていかなければならない」


「どうして王都から出されなきゃいけないのよ!

 平民に落とされてもアジェ伯爵家で私と一緒に暮らせばいいじゃない。

 それか、イフリア公爵家でお父様と一緒に」


「それはできない。

 イフリア公爵はもう公爵ではない。

 レイモンが公爵位を継いでいる。

 二人とも平民となって王都から出されるんだ……」


「そんな……」


そんなことってあるの?

お父様はイフリア公爵で貴族の中で一番偉い人だった。

陛下にもお願いできる立場だったはずなのに、どうして平民に。


「ほら、時間だ。行くよ」


「……」


半ば引きずられるようにして部屋から出される。

連れて行かれたのは、馬車置き場だった。


そこには王宮らしくないみすぼらしい馬車が一台置かれていた。

他の馬車が王族が使用するものしか置かれていないために、

よけいにその馬車が目立ってしまっている。


少しして、あの貴族牢の臭いよりもひどい臭いがしてきた。

鼻をつまみたくなりながらそちらを見ると、

騎士たちが囲むようにして二人の人間を連れてくる。


着ている粗末な服で貴族ではないなと判断したけれど、

よく見れば一人は金色の髪……まさか……あれは、お父様?


「お父様!」


「……シュゼット?」


まるで私がここにいるのが信じられないように目を見開いたお父様は、

平民のような粗末な服を着せられていた。

そして、左手は手首から先がなかった……。

それを見て、軽く悲鳴をあげてしまう。


「シュゼット!?」


「え?」


聞き覚えのある声なのに、すぐに誰なのかわからなかった。

お父様のとなりにいたのはお母様だった。


「お、お母様……なの……?」


とても信じられなかった。

ばらばらに短く切られた髪に、薄汚れた顔。

粗末な平民服を着たお母様は、前とはまるで違った。


「シュゼット、お母様を助けてちょうだい!」


私にむけて伸ばされた手は、片手が消えている。

それを見たくなくて顔をそむける。


「シュゼット!?お母様とお父様を助けるって言いなさい!

 早く、アジェ伯爵家に連れて帰って!」


「……あ」


どう答えたらいいか迷っていると、サミュエルに肩を捕まれた。

お母様は騎士に取り押さえられても叫んでいる。


「ダメだよ、シュゼット。そんなことは許されない。

 二人の処罰は王家が決めたんだ。

 もし、逆らうようであれば、君も向こう側にいかなくてはならない」


「向こう側……」


「シュゼットも髪と手を切って王都から出ていくなら、家族三人で暮らしてもいい。

 兄上からの伝言だ。

 ……シュゼットがそれを選ぶのであれば、もう後戻りはできない」


「……どうにかして二人を助けることは、でき」


「できない。できるのは、一緒に落ちることだけだ。

 今すぐ、選ぶんだ。時間はない」


「……」


お父様とお母様と離れたくない。

だけど、手を切るなんて嫌だし、髪も切られたくない。

それに貴族じゃなくなるなんて信じられない。


「シュゼット、現実から目をそらすな。俺たちは十分甘やかされてきた。

 だが、もうそろそろ知らなければならない。

 貴族でいるためには、貴族としての責任を果たさなくてはならないと」


「責任?」


「そうだ。王家が決めたこと、貴族としての常識。

 それらを守らずに逆らうのならば、貴族として認められない。

 俺もシュゼットも貴族としての常識を覚える気もなかった。

 これからはそれは認められない」


「サミュエル、急にそんなことを言われても」


「今まで何度も言われてきたはずだ。

 それをたいしたことじゃないと聞かなかっただけだろう。

 ……これからも変わらないと判断されたら、

 シュゼットは向こう側に行くしかない」


「……」


お母様はまだ泣き叫んでいるけれど、お父様が止めている。

お父様はもうあきらめている表情だ。

これから平民となってどうやって暮らすのかもわからないだろうに。


急に、サミュエルとは違う声が聞こえた。


「シュゼットは変わらなかったようだな」



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