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ただ幸せになりたかっただけと、あなたたちは言うけれど  作者: gacchi(がっち)


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51/66

51.やっと出られた(シュゼット)

再び牢に戻されてから数日間、また誰とも会えず、

何もない部屋に閉じ込められていた。


お母様がお姉様を誘拐したことを認めた。

しかも髪を切って、死にかけるほどの傷を負わせて。

さすがにお母様がしたことはダメだってわかっている。


平民に落とされて一般牢へと連れて行かれたお母様。

これからどうなってしまうんだろう。


不安に思っていると、ドアが開いた。

牢番かと思ったらサミュエルだった。


「サミュエル?」


「ああ、とりあえずここから出よう」


「出られるのね?」


「ああ」


ようやくここから出られる。

サミュエルは貴族牢の臭いに顔をしかめている。

もうずっとここにいるから慣れてしまったけれど、

最初は私もひどい臭いだと思っていた。


もしかして、私自身が臭いのかもしれない。

ここ数日、湯あみもできないし身体も拭けない。

髪もべたついているしドレスも薄汚れている。


アジェ伯爵家に帰されるのかと思ったら、

連れて行かれたのはサミュエルの部屋だった。


「どうしてここに?」


「そのままでは馬車にも乗せられない。

 湯あみをして着替えてから話そう」


「湯あみできるのね!わかったわ!」


久しぶりの湯あみに喜んでいると、

数人の侍女が手を貸してくれる。

こんな風に貴族らしいことをするのも久しぶりで、

心からさっぱりした気分になる。


湯あみを終えるとドレスが用意されていた。

よく見れば私のドレスだった。

アジェ伯爵家から届けられたのだろうか。


着替えて部屋に戻るとソファに座るように言われる。

向かい側に座っているサミュエルをよく見れば、何となく顔色が悪い。


「サミュエル、顔色が悪いわ。どうかしたの?」


「顔色も悪くなるよ。

 父上と兄上の命令に逆らってレドアル公爵家の夜会に押しかけた。

 その結果、マゼンタ夫人とイフリア公爵が処罰を受けることになった。

 ……俺も処罰を受けなくてはいけないんだ」


「サミュエルも?そんなたいしたことしていないのに!」


「たいしたことないと思っているのはシュゼットだけだ。

 国王の命令に逆らっても許されるようであれば、

 他の貴族たちに示しがつかない。俺も甘えていたんだ。

 心のどこかで、俺は王子だからこれくらいいいだろうって。

 だけど、そんな甘いこと言っている者は王家に必要ない」


「必要ないわけないでしょう。王子なのよ?」


この国に王子は二人しかいない。王女はいるけれど、国王にはなれない。

もしアドルフ様にもしものことがあればサミュエルが国王になる。

そんな立場なのに必要ないとは思えない。


「最近、王太子妃のカトリーヌ妃の姿が見えないと思っていた。

 どうやら身ごもっているらしい。

 カトリーヌ妃が王子を産めば、俺は本当に用なしになる」


「え?王太子妃が身ごもった?」


「俺には知らされていなかった。

 それだけ兄上には重要視されていないということだ。

 当然だよな。王太子の仕事を手伝ったこともない。

 迷惑をかけるだけで役に立たないんだから」


吐き捨てるようなサミュエルの言い方に疑問に思う。

どうしてこんな急に変わってしまったんだろう。


「ねぇ、何かあったの?」


「俺とシュゼットに下された処罰は、

 アジェ伯爵家を継ぐことだ。俺は婿になれと」


「…………は?」


「そうでなければシュゼットにはアジェ伯爵家を継がせないと。

 この婚約を受け入れなければ、シュゼットも平民になる。

 俺は婚約しない場合は爵位なしで騎士団に入れられることになる」


「……どうして!どうしてそんな処罰なの!?」


「じゃあ、シュゼットは伯爵としての仕事はできるか?」


「できないわ」


伯爵の仕事なんて、何をすればいいのかわからない。

お母様だって何もしていなかった。

お父様に任せればいいんじゃないのだろうか。


「アジェ伯爵家を継ぐのはシュゼットしかいない。

 だが、領主としての仕事はできない。

 だから、俺を婿にして王領の一つにするそうだ。

 領地の管理は文官がやってくれる」


「だからって、嫌よ!私はっ」


「ジェラルドと婚約するなんて、無理なことはもう言うなよ」


「……無理だなんて」



「無理だってわかっただろう。

 憎まれているんだ。ジェラルドにも、レイモンとジュリアンヌにも。

 俺たちは生涯、あいつらとは関わることは許されない」


「そんな……でも、お父様がなんとかしてくれるはず。

 だって、お兄様とお姉様とは兄弟なんだし」


「それも許されるわけがない。

 ジュリアンヌにとっては、自分を殺そうとした女の娘なんだ。

 レイモンにとっては妹を殺そうとした女の娘。

 ジェラルドにとっては従妹を殺そうとした……」


「やめて!お母様のことは言わないで!」


聞きたくなくて耳をふさぐ。


「……認めるしかないだろう。

 マゼンタ夫人がしたことは事実だ。

 本人も認めたんだ」


「……だって。だって、それを認めたら……。

 もうお姉様とお兄様と仲良くなれない。

 ジェラルド様と婚約することもできなくなる……」


「そうだ。その通りだ。

 もう何をどうやっても、変わらないんだ」


どうしても認めたくなくて、涙がこぼれてくる。

いやだ。認めたくない。あきらめたくない。

だって、ジェラルド様が好きなんだもの!


悔しくて声を押さえられない。

これだけ泣いているのに、サミュエルはなぐさめることもしない。


「好きなだけ泣けばいい。

 もう、どうしようもないんだ」


その言葉に声をあげて泣き叫ぶ。

どうして私だけ、こんなに不幸なの。

お姉様の幸せを少しわけてくれたらよかったのに。


ひとしきり泣いたら、目が痛くて腫れぼったい。

サミュエルは最後まで慰めてくれなかった。


「……そろそろ時間だ。行くか」




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