51.やっと出られた(シュゼット)
再び牢に戻されてから数日間、また誰とも会えず、
何もない部屋に閉じ込められていた。
お母様がお姉様を誘拐したことを認めた。
しかも髪を切って、死にかけるほどの傷を負わせて。
さすがにお母様がしたことはダメだってわかっている。
平民に落とされて一般牢へと連れて行かれたお母様。
これからどうなってしまうんだろう。
不安に思っていると、ドアが開いた。
牢番かと思ったらサミュエルだった。
「サミュエル?」
「ああ、とりあえずここから出よう」
「出られるのね?」
「ああ」
ようやくここから出られる。
サミュエルは貴族牢の臭いに顔をしかめている。
もうずっとここにいるから慣れてしまったけれど、
最初は私もひどい臭いだと思っていた。
もしかして、私自身が臭いのかもしれない。
ここ数日、湯あみもできないし身体も拭けない。
髪もべたついているしドレスも薄汚れている。
アジェ伯爵家に帰されるのかと思ったら、
連れて行かれたのはサミュエルの部屋だった。
「どうしてここに?」
「そのままでは馬車にも乗せられない。
湯あみをして着替えてから話そう」
「湯あみできるのね!わかったわ!」
久しぶりの湯あみに喜んでいると、
数人の侍女が手を貸してくれる。
こんな風に貴族らしいことをするのも久しぶりで、
心からさっぱりした気分になる。
湯あみを終えるとドレスが用意されていた。
よく見れば私のドレスだった。
アジェ伯爵家から届けられたのだろうか。
着替えて部屋に戻るとソファに座るように言われる。
向かい側に座っているサミュエルをよく見れば、何となく顔色が悪い。
「サミュエル、顔色が悪いわ。どうかしたの?」
「顔色も悪くなるよ。
父上と兄上の命令に逆らってレドアル公爵家の夜会に押しかけた。
その結果、マゼンタ夫人とイフリア公爵が処罰を受けることになった。
……俺も処罰を受けなくてはいけないんだ」
「サミュエルも?そんなたいしたことしていないのに!」
「たいしたことないと思っているのはシュゼットだけだ。
国王の命令に逆らっても許されるようであれば、
他の貴族たちに示しがつかない。俺も甘えていたんだ。
心のどこかで、俺は王子だからこれくらいいいだろうって。
だけど、そんな甘いこと言っている者は王家に必要ない」
「必要ないわけないでしょう。王子なのよ?」
この国に王子は二人しかいない。王女はいるけれど、国王にはなれない。
もしアドルフ様にもしものことがあればサミュエルが国王になる。
そんな立場なのに必要ないとは思えない。
「最近、王太子妃のカトリーヌ妃の姿が見えないと思っていた。
どうやら身ごもっているらしい。
カトリーヌ妃が王子を産めば、俺は本当に用なしになる」
「え?王太子妃が身ごもった?」
「俺には知らされていなかった。
それだけ兄上には重要視されていないということだ。
当然だよな。王太子の仕事を手伝ったこともない。
迷惑をかけるだけで役に立たないんだから」
吐き捨てるようなサミュエルの言い方に疑問に思う。
どうしてこんな急に変わってしまったんだろう。
「ねぇ、何かあったの?」
「俺とシュゼットに下された処罰は、
アジェ伯爵家を継ぐことだ。俺は婿になれと」
「…………は?」
「そうでなければシュゼットにはアジェ伯爵家を継がせないと。
この婚約を受け入れなければ、シュゼットも平民になる。
俺は婚約しない場合は爵位なしで騎士団に入れられることになる」
「……どうして!どうしてそんな処罰なの!?」
「じゃあ、シュゼットは伯爵としての仕事はできるか?」
「できないわ」
伯爵の仕事なんて、何をすればいいのかわからない。
お母様だって何もしていなかった。
お父様に任せればいいんじゃないのだろうか。
「アジェ伯爵家を継ぐのはシュゼットしかいない。
だが、領主としての仕事はできない。
だから、俺を婿にして王領の一つにするそうだ。
領地の管理は文官がやってくれる」
「だからって、嫌よ!私はっ」
「ジェラルドと婚約するなんて、無理なことはもう言うなよ」
「……無理だなんて」
「無理だってわかっただろう。
憎まれているんだ。ジェラルドにも、レイモンとジュリアンヌにも。
俺たちは生涯、あいつらとは関わることは許されない」
「そんな……でも、お父様がなんとかしてくれるはず。
だって、お兄様とお姉様とは兄弟なんだし」
「それも許されるわけがない。
ジュリアンヌにとっては、自分を殺そうとした女の娘なんだ。
レイモンにとっては妹を殺そうとした女の娘。
ジェラルドにとっては従妹を殺そうとした……」
「やめて!お母様のことは言わないで!」
聞きたくなくて耳をふさぐ。
「……認めるしかないだろう。
マゼンタ夫人がしたことは事実だ。
本人も認めたんだ」
「……だって。だって、それを認めたら……。
もうお姉様とお兄様と仲良くなれない。
ジェラルド様と婚約することもできなくなる……」
「そうだ。その通りだ。
もう何をどうやっても、変わらないんだ」
どうしても認めたくなくて、涙がこぼれてくる。
いやだ。認めたくない。あきらめたくない。
だって、ジェラルド様が好きなんだもの!
悔しくて声を押さえられない。
これだけ泣いているのに、サミュエルはなぐさめることもしない。
「好きなだけ泣けばいい。
もう、どうしようもないんだ」
その言葉に声をあげて泣き叫ぶ。
どうして私だけ、こんなに不幸なの。
お姉様の幸せを少しわけてくれたらよかったのに。
ひとしきり泣いたら、目が痛くて腫れぼったい。
サミュエルは最後まで慰めてくれなかった。
「……そろそろ時間だ。行くか」




