43.対決
「ねぇ、シュゼット様。
十歳の時、髪の短い私を男の子と間違えたわよね」
「え?」
何を聞かれたのかわからないような顔をするシュゼット様に、
思い出せるように当時の話を続ける。
「ほら、マゼンタ様と一緒に馬車に乗ってアジェ伯爵家に来た、
ジムが抱えて連れて来た子いたでしょう。
髪が短いせいでシュゼット様は私を男の子だと思っていたの、
覚えていないかしら」
「あ……あの髪が短いのにドレス着てた子!
お母様が頭がおかしい悪い子だって言ってたあの子?
え?あれがお姉様だったの?」
「そうよ。覚えているわよね?
あなたは早く良くなるといいねって言っていたわ」
「え、ええ。そんなことあったわね。
……どういうこと?
どうしてお母様とお姉様が一緒にいたの?」
あの時、馬車の中でマゼンタ様に髪を短く切られた。
シュゼット様はそんな私を見て男の子だと間違えた。
よほど印象的だったのか、シュゼット様が覚えていてくれて良かった。
アドルフ様はレイモン兄様から事情を聞いているからか、
真剣な顔でシュゼット様に確認する。
「シュゼット、十歳の時にジュリアンヌに会ったのを覚えているのか?」
「ええ、覚えているわ。だって、変だったんだもの。
髪がすっごく短いから男の子だと思ったのに綺麗なドレスを着ていて。
それにジムが抱きかかえて連れて来たから歩けないのかと思ったわ。
どうしてお姉様がうちに来たの?」
これだけ証言してくれたら問題ないだろう。
ジェラルド兄様を見ると大丈夫だとうなずいている。
「アドルフ様、十歳の時に私を連れ去ったのはマゼンタ様です。
証拠はシュゼット様が証言してくれました。
アジェ伯爵家に私が連れて行かれたのを見たと」
「ああ、そのようだ。
シュゼットとマゼンタを王宮の貴族牢に入れろ。
ジュリアンヌ・イフリア失踪事件の容疑者だ」
「「「「はっ!」」」」
「え?なに、どういうこと?」
アドルフ様が連れて来た近衛騎士たちかシュゼット様を囲む。
まだ話を理解できていないのか、腕をつかまれて騒ぎ出した。
「いや、離して!何をするのよ!ジェラルド様、助けて!
サミュエル!見てないで助けてよ!」
「……シュゼット、助けられないよ。
まさかマゼンタ夫人がジュリアンヌを誘拐した犯人だなんて……」
「え?お母様が犯人ってどういうこと!?」
「今、自分で証言したじゃないか。
アジェ伯爵家にジュリアンヌが連れて来られたのを見たと」
「え!?……うそ」
ようやく自分の発言の意味がわかったのか、シュゼット様が青ざめる。
だが、後悔しても遅く、近衛騎士たちに連れて行かれる。
騒ぎ続けているのか、シュゼット様の叫ぶ声がだんだん遠くなる。
残された者たちは疲れたようにため息をつく。
シュゼット様と対面するとどうしてこんなに疲れるんだろう。
アドルフ様はうなだれたままのサミュエル様にも声をかけた。
「サミュエル、今すぐに王宮に戻れ。自室での謹慎を言い渡す。
父上の指示に逆らったんだ。お前にも何らかの処罰があると思え」
「兄上!俺はただ……ジュリアンヌに会いたくて」
「黙れ。あんな女をレドアル公爵家まで連れて来た罪は重いぞ。
おい、お前たち、サミュエルも連れていけ!」
「兄上!」
「これ以上、みっともない真似をするな。さっさと戻れ」
サミュエル様も近衛騎士に促され、王宮へと連れて行かれる。
二人がいなくなって、会場は静まり返る。
「夜会の最中なのに騒がせてすまない。だが、これで事件は解決するはずだ。
ジュリアンヌは十歳の時、マゼンタ夫人に連れ去られ、
大けがを負って保護された。もう少しで死ぬところだった。
ジュリアンヌを傷つけたのもマゼンタ夫人だ。
ずっとマゼンタ夫人を罪に問いたかったが、証拠がなかった。
ようやく……罪に問うことができる」
「イフリア公爵家としてもレドアル公爵家に全面的に協力する。
妹を傷つけた者は誰であろうと許さない」
ジェラルド兄様とレイモン兄様が宣言すると、
どこからともなく拍手が聞こえてきた。
その拍手は会場いっぱいに広がり、誰もが賛同してくれている。
騒ぎを聞きつけてこちらへ来た伯父様と伯母様に事情を説明し、
私たちは後日王宮へと向かうことになる。
アドルフ様はマゼンタ様も王宮の貴族牢にいれると約束してくれた。
王宮から準備ができたと連絡が来たのは三日後だった。
伯父様とジェラルド兄様と一緒に王宮へ向かう。
案内されたのは謁見室だった。
そこには陛下だけでなく、アドルフ様とレイモン兄様が待っていた。
この件を取り仕切っているのはアドルフ様らしく、
陛下ではなくアドルフ様が口を開いた。
「時間がかかってしまってすまないな。
思った以上にアジェ伯爵家の抵抗にあった。
使用人は全部捕まえて、一般牢に入れてある。
ジュリアンヌが話していた身体の大きなジムという男もだ」
「ありがとうございます。それで、マゼンタ様は認めたのでしょうか?」
「いや、まだマゼンタ夫人には聞いていない。
前もって聞いて言い訳を考えられてもめんどうだからな。
今、ここに連れて来させる」
それほど待つことなく、騎士に連れられて二人が入って来る。
着替えもさせてもらっていないのか、シュゼット様の赤いドレスが汚れている。
マゼンタ様は寝ていた所を捕まえられたのか夜着姿のままだった。
「陛下!アドルフ様!これはどういうことなのですか!?」
「騒ぐな。マゼンタ夫人には誘拐容疑がかけられている」
「誘拐ですって!何の話ですか?
きっと何かを誤解されているんですわ。
私にそのような怖いことができるわけがないでしょう?」
同情を誘うような表情で嘘をつくマゼンタ様。
久しぶりに見る黒髪黒目に思わずジェラルド兄様の背に隠れてしまう。
「だが、お前の娘シュゼットが証言した。
マゼンタ夫人が馬車でジュリアンヌを連れてきたと。
髪を短く切られ、ジムという使用人に担ぎ上げられていたとな」
「そんなっ……それはシュゼットの勘違いです。
先日レドアル公爵家で会うまで、ジュリアンヌ様に会ったことはありません!」
「十歳の時には会っていないと?」
「はい!シュゼットの勘違いで牢に入れられたなんて……。
ひどいわ。ヴィクトルを呼んでください!抗議しますわ!」
「証人は他にもいる」
「誰がそんな嘘を!」
「とりあえず、ジュリアンヌも証言してくれるか?」
大きく息を吸って、気持ちを落ち着ける。
ジェラルド兄様が手を差し出してくれたから、ぎゅっと握りしめる。
そのまま前へ出て、マゼンタ様に向き合う。
「はい。私をさらったのはマゼンタ様です!
離れにいたところを無理やり連れ去られました!」
「……どうしてそんな嘘をつくの?私を嫌っているから?」
「しらじらしい嘘はつかなくていい。
ジュリアンヌ、誘拐したのはマゼンタ夫人で間違いないか?」




