37.夜会の開始
王族席では陛下を真ん中に王妃とアドルフ様が並んで座り、
後ろにはサミュエル様とアデール様。
その席に四人で挨拶に向かう。
まずは陛下から伯父様と伯母様に声がかけられる。
そして、後継ぎとして兄様に声がかけられた。
最後に私が紹介され、礼をするとすぐに顔をあげるように言われる。
「おおお……君がジュリアンヌか。
こうして顔を見ることができてうれしいぞ。
ロズリーヌ夫人によく似ているな」
「あ、ありがとうございます」
なぜか陛下は涙ぐむほどに喜んでくれている。
その隣にいる王妃アンジェル様も同じように喜んでいるように見える。
どういうことか伯父様と伯母様を見るが、
目が何も言わないようにと伝えてきていた。
黙って次の言葉を待っていると、後ろからサミュエル様が陛下に声をかけた。
「父上!」
「……なんだ、サミュエル」
急に声をかけられたからか、陛下は不機嫌な声を出した。
それに気がついていないのか、サミュエル様は話を続けた。
「ジュリアンヌを見て気が変わったんじゃないですか?
もう一度、俺と婚約させてくれてもいいでしょう?」
「……は?」
隣にいた兄様から低い声が漏れる。
それに反応したのはアドルフ様だった。
「ジェラルド、すまない。こいつの言うことは気にしなくていい。
サミュエル、その話は終わっただろう!」
「まだ俺は納得していませんよ!
兄上だって、ジュリアンヌを見てわかったでしょう?
こんなに綺麗な上に優秀なんです!
王族である俺の妃にするべきだと思いませんか?」
「だから、お前は王族には残らないと言っているだろう!」
「たとえ王族に残らなくても、俺がジュリアンヌと結婚すれば、
兄上が日ごろから心配している伝統派と推進派が仲良くなれるし」
「お前は……本当に何もわかっていないんだな。
いいか!?伝統派と推進派の仲を…」
アドルフ様が呆れたようにサミュエル様に何かを言いかけた時、
私の後ろから兄様とは違う低い声が聞こえた。
「イフリア公爵家はサミュエル様との婚約は認めませんよ」
「え?」
振り返ったら、金色の髪を横で一つに束ねた綺麗な男性がいた。
金髪緑目……イフリア公爵家と言った?
まさかこの令息は
「どうしてだ、レイモン!
俺とジュリアンヌが上手くいった方がお前もうれしいだろう?」
「そんなわけないじゃないですか。
王族から下りて爵位すら授かることができない第二王子と、
優秀で非の打ち所がない可愛い妹を結婚させたい兄がどこにいると?」
「爵位は……父上がなんとかできるだろう?
派閥の争いがなくなるのはいいことなんだから」
「好きでもない、どちらかといえば嫌いな男に嫁がせて、
どうやって派閥の争いが消えるというのですか?
またジュリアンヌを犠牲にするつもりならイフリア公爵家は戦いますよ」
「え?……嫌いな男?」
レイモン兄様の発言に、なぜかサミュエル様が私の方を見た。
「ジュリアンヌ、俺のこと嫌いじゃないよな?」
「……」
その大きな身体と声に、思わずジェラルド兄様の後ろに隠れてしまう。
ジェラルド兄様はすぐさま私を背に隠し、
レイモン兄様も一緒になってサミュエル様に向かい合う。
「ほら、どう見ても嫌っているでしょう?」
「嫌いというか、怖がられているようだな」
「ジュリアンヌは身体と声の大きな男性が苦手なんです。
できればもう二度と近づかないでもらえますか?」
レイモン兄様、アドルフ様、ジェラルド兄様が追い打ちをかけるように否定し、
サミュエル様が陛下に泣きついている。
「いや、そんなわけは。父上!父上はいい案だと思いますよね?」
「……いや、もう二度とレドアル公爵家に不幸な結婚はさせない。
ロズリーヌ夫人のことは申し訳なかったと思っている」
「父上!?」
「イフリア公爵家もレドアル公爵家も、ジュリアンヌもどうか安心してほしい。
サミュエルとの婚約なんて言い出すことはない。
ジュリアンヌには幸せになってほしいと願っている。
どこの誰にも邪魔はさせないと約束する」
「……ありがとうございます!」
陛下の言葉に、これは私がお礼を言うべきだと思い、
兄様たちの背から出てきちんとお礼を伝える。
「そんなぁ……ジュリアンヌ……」
まだあきらめきれないのか、私の名を呼んでいるサミュエル様は見ないようにして、
またすぐに兄様たちの背に隠れる。
それを見て、レイモン兄様がくすりと笑った。
王族への挨拶を終え、その場から離れようとしたら、
レイモン兄様がジェラルド兄様に声をかける。
「ジェラルド、王族への挨拶が終わったら話がしたい。
二人はこれから踊るんだろう?
後でイフリア公爵家の控室に来てくれないか?」
「ああ、わかった」
レイモン兄様の話って何だろう。
疑問に思いながらもジェラルド兄様とダンスフロアへと向かう。
「さて、姫君。私とダンスを踊ってくれませんか?」
「ええ」
まるで姫君に願いを乞う騎士のような兄様に、微笑んでその手を取る。
手をつないだまま中央に出ると、周りにいた令息令嬢が避けていく。
高位貴族だから避けてくれたのだろうか?
「兄様、周りに人がいなくなったわ」
「おそらく俺が来たから驚いたんだろうな」
「どうして?」
「俺はずっと踊るのを拒否していたから。
ジュリアンヌだけじゃない。俺も夜会で踊るのは初めてなんだ」
「え?」
兄様の発言に驚いているうちに曲が始まる。
少しテンポが速くて難しい曲だけど、いつも兄様と練習している曲だった。
かろやかに踊り始めると、周りからの視線を感じる。
「兄様は何度も夜会に出ているから、踊ったことがあるんだと思っていたわ」
「一度もないよ」
「でも、令嬢から誘われることもあるでしょう?」




