33.選ばれない令嬢
「……私、ジュリアンヌ様とはずっとお会いしたいと思っていましたの」
「あら、なぜ私に?」
「ええ、できれば仲良くしたいと思いまして。
将来、姉妹になるかもしれないのですから」
「!?」
アゼリマ侯爵家からの見合いの話は断っているはずなのに、何を言い出すのか。
頬をほんのり赤らめたシャルロット様に、隣の令嬢がはしゃいだ声を出す。
「シャルロット様は将来のレドアル公爵夫人だと噂になっていますものね」
「そんな噂があるのですか?」
「ええ、ジュリアンヌ様はまだ一学年だからご存じないかもしれませんが、
シャルロット様とジェラルド様の仲は有名ですのよ」
「へぇ……仲が有名とは、どういう意味でですか?」
恋仲のように匂わせているいるけれど、そんなわけはない。
ここで嘘をいうようならはっきり言ってしまおうかしら。
「お二人がお似合いだという噂ですわ。
銀髪のジェラルド様と金髪のシャルロット様が並ぶと、
とても美しい光景で……」
お似合いだという噂か……それならば嘘だとも言いにくい。
この令嬢たちが流しているのだろうけど。
そう思っていたら口をはさんだのはマリエットだった。
「あら。ジェラルド様にそんな噂があるのですか?
先輩方はジュリアンヌ様と一緒にいる所を見たことがないのですね。
銀色の髪と金色の髪で、しかも同じ紫色のとても綺麗な瞳。
お二人がそろっていると対の人形のように美しいのです」
先輩令嬢にも物おじせずマリエットがうっとりとした顔で言う。
それに対して、先輩令嬢も対抗するように声を張り上げた。
「ジェラルド様とシャルロット様は外見だけじゃなく、
成績だっていつも一位と二位にそろって……」
「あら、シャルロット様は二位なのですね。
ジュリアンヌ様は一位ですのよ」
「なっ!?」
「ジェラルド様がシャルロット様とお似合いという理由はそれだけなんですか?」
「え?……いや、あの……」
マリエットだけかと思ったら、コリンヌまで参戦してきた。
おとなしいコリンヌの発言が意外と効いたのか、先輩令嬢は言葉に詰まる。
「それでしたら、あまり仲がいいとは言えませんわね。
せめて休み時間のたびに一緒にいるとか、勉強を教え合っていたとか、
そういう具体的な理由がないのであれば……意味はなさそうですもの」
「失礼だわ!私とジェラルド様の仲はみなさんが認めてくれているのよ!
私はジェラルド様と結婚すると決まっているんだから!」
「……は?……結婚すると決まっている?」
さすがに聞き流すことができずに咎めるように言ってしまった。
思ったよりも低い声が出てしまったのは仕方ないと思う。
「えっ……いえ、あの、決まっていると思うの」
いつもの調子で言ってしまったのだろうけど、ここにはレドアル公爵家の私がいる。
これ以上嘘をつくようなら、この場ではっきり言うこともできる。
もうすでに見合いの話は断っているのだと。
それに気がついたのか、シャルロット様は小さな声でごまかした。
「シャルロット様、決まっていると思うというのは、どういうこと?」
「……ほら、私たちは年齢も同じだし、推進派の公爵家と中立派の侯爵家、
爵位は違っても筆頭家であることは同じでしょう?
私たちが結婚すれば、伝統派を抑え込めると思うの。
それはイフリア公爵家に恨みがあるジュリアンヌ様にとっても良いことではないかしら?」
「話だけ聞けばそうかもしれないわ」
「そうでしょう?だから、私とジェラルド様の仲を邪魔しないでほしいの。
いくらお兄様のことが好きでも、将来のことを考えなくてはいけないでしょうし」
「私が邪魔になるようではレドアル公爵家に嫁いでくることはないと思うけど」
「それはそうかもしれないけど……でも、わかるでしょう?
相手が妹だとしても、好きな人は独占したくなるものだから」
その気持ちはよくわかる。
……私だけのものでいてほしいと思ってしまうもの。
だけど、これはそれとは別問題。
「あのね、兄様が私よりもシャルロット様を選ぶというのなら、
今すぐにでも婚約できると思うわよ」
「……ジュリアンヌ様が邪魔をしないでくれればいいだけでしょう?」
「そうじゃないの。レドアル公爵家は政略結婚をさせない方針なの。
だから、結婚相手を選ぶのはジェラルド兄様。
私がどうこう言えることじゃないの。
兄様がシャルロット様を好きにならない限り、無理ってこと」
「……好きにさせればいいってことね?」
「できるのなら、どうぞ」
「じゃあ、夜会のパートナーは譲ってくれるわよね?」
邪魔をする気はない。
でも、これだけは言っておかなくてはいけない。
「夜会のパートナーを私に決めたのは兄様よ。
私からお願いしたわけじゃないわ」
「うそよ!」
「本当よ。他の令息に声をかけられても断れと言われたわ。
私がサミュエル様に誘われても譲るつもりはないと」
「あなたがわがままを言ったからでしょう!?」
「信じないのならそれでいいけれど、兄様にお願いしても無駄だと思うわ。
しつこくつきまとうのだけは嫌がるからやめてあげてね?」
「っ!!」
何度も見合いを断られているのにあきらめないことを言っていると気づいたのか、
シャルロット様は顔を真っ赤にして席を立った。
「シャルロット様!?」
「……帰るわ!」
バタバタと退席したシャルロット様を追って、先輩令嬢も去って行った。
「ふふふ。ジュリアンヌ様、言い負かしましたね?」
「もう少し我慢しようと思ったのだけど、我慢できなくて。
兄様がシャルロット様を選ばないのは知っていたから」
「ジュリアンヌ様が言わなかったら私が言っていたと思います。
シャルロット様は同じ教室なのに話しかけても答えてもらえないそうです。
三学年では有名な話だそうですよ。
こちらが一学年で知らないと思って言っていたのでしょうけど」
「まぁ、そうなの?」
「ジュリアンヌ様と仲良くなって、つけ入る隙が欲しかったのかもしれませんね」
「そうかもしれないわね。
その割には敵意を感じたけれど」
「おそらく夜会のパートナーのことを聞いて敵対視していたのでしょう」
気持ちはわかるけれど、貴族令嬢としては残念な方だ。
私と敵対することなく表面上だけでも仲良くしておけば、
今後ジェラルド兄様と会話する機会があったかもしれないのに。
こんな風に喧嘩別れしてしまえば会話するきっかけもない。
いくら美しくて身分が高くて優秀であっても、
兄様がシャルロット様を選ばないわけがわかった気がする。
それから兄様が迎えに来る時間までおしゃべりをして時間をつぶす。
四人と一緒におとなしく待っていると、兄様が迎えに来てくれた。
シャルロット様たちが先に退席しているのを見て、兄様は楽しそうに笑う。
「おや。うまくやったようだな?」
「うまく、かはわからないけれど。
私にとってはいい結果だったと思うわ」
「それなら十分だ。帰ろうか」
「ええ」
帰りの馬車でお茶会の報告をすれば、兄様は声をあげて笑っていた。
「そんなに笑うところ?」
「ああ、面白い。シャルロットが相変わらず妄想を話しているのは腹が立つが、
ジュリアンヌがはっきり言い返してくれたおかげですっきりした。
ありがとう」
「どういたしまして」
よほどお気に召したのか、ぎゅうっと抱きしめられて頬をなでられる。
シャルロット様が兄様にこれで近づかなくなればいいけれど。
レドアル公爵家に着いて私室に戻ろうとしたら、
応接室に来るようにと伯父様から呼び出しがあった。
それを聞いて兄様と首をかしげる。
「何があったんだろう?」
「行ってみましょう?」
応接室に入ると、伯父様が手紙を前に悩むような顔をしていた。
「どうかしたの?」
「ジュリアンヌも関係することだから呼んだんだ。
レドアル公爵夫人、マゼンタ夫人とシュゼットが屋敷から追い出されたそうだ」
「「え?」」




