28.王宮からの書状(レイモン)
王宮から戻ってすぐ、めずらしく父上の執務室に呼び出された。
おそらく原因はシュゼットだろうなと思いつつ、
執務室のドアをノックした。
「……入れ」
大きな執務机の椅子に座ったままの父上は真っ青な顔をしている。
そんなに深刻な問題でも起きたのか?
「何かありましたか?」
「……これを見てくれ」
差し出されたのは王家からの書状。
読めば、罪状が書かれている。
自分はイフリア公爵の実の娘であると、
シュゼット・イフリアが学園で宣言した。
証言者はレドアル公爵家、エンデ伯爵家、マロール伯爵家。
王命での婚姻中に不貞行為を行い、子をもうけたとなれば、
イフリア公爵家であろうと処罰しないわけにはいかない。
是か非か、返答を求める。
「……は?馬鹿なのか……自分で言うとは」
「……」
思わずもれてしまったつぶやきに、叱られるかと思ったが、
父上は俺を叱る気力もないようだった。
「……どうするべきだと思う」
「これが真実なのでしょう?」
「認めたら、公爵家は終わりだ」
「なら、どうしてシュゼットに本当のことを教えたのですか?」
「まさか言うとは思わないだろう!?」
呆れてしまう。
シュゼットのどこをどう見たら信じられると思うのか。
あぁ、この人は女を見る目がなかったな。
だからあんな愛人に騙されるんだ。
「シュゼットの家庭教師たちは何をしていたんだ!?」
「いませんよ」
「はぁ?」
「全員、辞めてしまいました」
「どうしてだ!」
「シュゼットが勉強を嫌がって、愛人が辞めさせてしまうからですよ。
次々に辞めさせて、もう引き受けてくれる人なんていません」
「……本当なのか?」
あの愛人が勝手にやっていたのは知っていた。
それを父上に言わなかったのは、
こうなったとしても自業自得だと思っていたからだ。
「唯一残っているのは礼儀作法の教師ですが、元子爵夫人です。
貧乏な男爵家に出戻りして居場所がない婦人が教えているんです」
「公爵令嬢に必要な礼儀作法が、
子爵家に嫁いだ男爵令嬢にわかるわけないだろう!」
「そんなことはわかっていますよ。
それでも、他に誰も引き受けなかったからです」
「分家のアフレ侯爵家はどうした!?」
「最初に断られています。忘れたんですか?
再婚した時に、愛人と娘には関わりたくないと言われたことを」
「……あ」
本当に忘れていたらしい。
うちが伝統派の筆頭家といえど、側妃の生家でもあるアフレ侯爵家は力が強い。
再婚するならつきあいは控えると言われ、父上は激怒していた。
それならばつきあわなくてもよいと言ったのを忘れていたとは。
おかげでシュゼットに礼儀作法を教えてほしいと願った手紙は、
封を切られた後、そのまま送り返されて来た。
それを見た愛人が激怒して、他を探すように家令に命じていた。
だが、分家の伯爵家も全員が断って来た。
当然のことだ。
マゼンタの生家、ガルビン伯爵家は伯爵家の中でも下位の家だった。
その家の娘が公爵夫人になるなど認める者はいない。
私には高位な人に礼儀作法を教えるなど難しいですわ、
どうやら公爵夫人が習ってきたものとは違うようですから、と。
嫌味つきの手紙で断ってきた家も多かった。
再婚のお披露目をしたお茶会で不作法をしたうえ、
威張り散らしていた愛人のせいだろう。
その下の子爵家は高位貴族の礼儀作法など知らないと断って来た。
それもそのはず、子爵家は高位貴族に嫁ぐことがない。
知らなくてもおかしくないからだ。
では、なぜ男爵家出身の元子爵夫人が教えているかというと、
わからなくても引き受けたいほど、お金に困っていたからだ。
最初は教本片手に教えようとしていたが、やる気のないシュゼットを見て、
厳しく指導するのは無理だと悟ったらしい。
今ではシュゼットのおしゃべりを聞くだけの授業になっている。
これでは何一つ身につくわけがない。
それとなく警告はしていたのだが、父上は愛人と娘のことになるとおかしくなる。
「シュゼットには常識が身についていません。
だから、聞かれるままに答えたのでしょう。
自分の本当の父親はイフリア公爵だと」
「そこまで常識がないというのか?」
「十歳の子どもでもまだましな判断をしますよ。
あれは貴族の考えが何一つ身についていない。
このまま王宮に連れて行かれても同じことを言うでしょうね」
「それはまずい!」
慌てても、もう遅いと思うのだが……。
「では、どうするつもりですか?
まずは王宮に返事を送らねばなりません」
「……こちらでも事実確認をする。と送る」
「時間稼ぎですか?無駄だとは思いますが……」
「だが、その間にシュゼットの教育をしなければ」
「誰ができるんです?」
「……お前が」
「無理ですよ。俺はもうすでにシュゼットに言いましたから。
シュゼットは愛人の娘だ、愛し合っていようが不貞には変わらない、と。
それで理解しないのであれば貴族として生きていくのは無理です」
「……」
「王家からの処罰が決まったら教えてください。では、失礼します」
引き留められそうな気配がしたが、その前に執務室を出た。
これ以上話をしていても解決策なんてない。
父上も本当は気づいているのだろうけど、それでも足掻きたいのか。
次の日、玄関ホールで騒いでいる声が聞こえた。
「お待ちください!旦那様に叱られます!」
「嫌よ。早く馬車を出しなさい!」
「ですが!」
「行くって言ってるでしょう!」




