27.試験が始まる
気がついたら自分の部屋に寝かされていた。
「……え?」
「ああ、気がついたか?」
「兄様……?」
ジェラルド兄様はベッドの横に椅子を持ってきて、
寝ていた私の手をつないでくれていたらしい。
起き上がろうとしたら兄様が背中を支えて起こしてくれる。
「気分は悪くないか?」
「うん……大丈夫。私、どうしてここに……」
たしか教室でシュゼット様と話していたはず……。
「覚えていないか?教室でシュゼットにつかまって、
第二王子と引き合わされたんだ」
「第二王子……あぁ、そういえば会ったわ。
大きな人……あれがサミュエル様」
そうか……近づいてくるサミュエル様が、
あの時マゼンタ様のそばにいた大男に見えて……倒れてしまったんだ。
「ジュリアンヌが倒れてから二日たっている」
「二日も!?」
「それだけ心が疲れていたんだろう」
頬を優しく撫でた兄様は私を抱きしめる。
兄様の温かさに包まれて気持ちが落ち着いていく。
「もう、安心していい。あの二人を近づかせたりしない」
「王子とシュゼット様に何か言ったの?」
「あいつらに直接言っても効果なさそうだったからな。
王子に関しては、父上が陛下に苦情を言ってきた。
ついでに、イフリア公爵家の不貞についても報告してきた」
「え!」
お父様の不貞って……
「もしかして、シュゼット様が兄様にも何か言ったの?」
「ああ。ジュリアンヌのことをお姉様と呼ぶのはなぜだと聞いたら、
父親が同じだから姉妹で間違いないと答えた。
あれだけはっきり自分で不貞の子だと言うのには驚いた」
「シュゼット様はそれが悪いことだとはわからないようだったわ」
「それも知ってる。愛し合っていれば問題ないとでも思っていたようだ。
王命に反することをすれば罪になるとも知らずに……。
こちらとしてはイフリア公爵を責めるいいきっかけだ。
マリエットとコリンヌの証言も一緒に陛下に送った」
「中立派と推進派から証言を出されたら、
陛下としても対応しないわけにはいかないでしょうね。
お父様はどのくらいの罪になるのかしら」
「まだわからないな。これから審議に入る。
処罰結果が出るまではシュゼットも謹慎になる」
シュゼット様が謹慎……となれば学園は休みになる。
しばらく会わないとわかってほっとする。
「学園にはもめ事を起したことを報告して、
謹慎後に戻ってきた場合は教室を落とすように申し立てた。
シュゼットはもうあの教室には来ないよ」
「教室を落とす?公爵令嬢を?」
教室は爵位順に三つに分けられている。
公爵令嬢は当然、一番上の教室だ。
それを落とすというのは、かなり屈辱な対応になると思うのだが……。
兄様は大まじめなようだった。
「そのくらいしないと、今後も騒ぎを起こすからな。
一切関わらないようにイフリア公爵家にも手紙を送っている」
「そう……」
私としてもシュゼット様とは関わり合いたくない。
教室が違えば校舎も違う。
会わないようにするのはできるはず。
「もう試験二週間前だからな。
明日からはそちらに集中するといい」
「ええ」
二日も寝たきりだったから、お腹が空いている。
それなのにスープを飲んだだけでお腹はいっぱいになって、
また引きずり込まれるように眠くなる。
「まだきちんと回復していないんだろう。
俺はここにいるから安心して眠ればいい」
「……にいさま……」
兄様が手をつないでくれている感触がする。
ずっとここにいてと言えないまま、眠りに落ちた。
二週間後、シュゼット様が戻ってくる前に試験が始まった。
ここ数日、教室内が緊張した雰囲気だったのは、
シュゼット様の周りにいた令息たちが焦っていたからだ。
シュゼット様が王子、もしくは高位貴族と結婚すれば、
取り立ててもらうつもりだったのだろうけど、
不貞の子だと認められてしまえばそれもない。
学園の卒業後を自分でどうにかしなくてはならなくなり、
試験で上位に入ることを目指して教室内で勉強するようになった。
試験は三日間にわけて行われる。
何事もなく試験は無事に終了し、数日間の休みの後で結果が発表された。
昼休み、兄様と食事を取った後で結果を見に行く。
もうすでに掲示されていたからか、それほど人は多くなかった。
三年の試験結果で一位に兄様の名前があるのを見つける。
「兄様、すごいわ。また一位なのね!」
「ありがとう。俺はいいから、一年の方を見なよ」
「わかったわ。一年のは……えっ」
「おめでとう、ジュリアンヌ」
信じられないことに一位に私の名前があった。
「うそ……兄様、私が一位だったわ!」
「ジュリアンヌは優秀だからね。そうだと思っていたよ」
他の順位を見てみると、二位はマリエットだった。
それに、四位にコリンヌ。
「マリエットが二位だわ!
コリンヌは四位……三位には入れなかったのね」
「ああ、コリンヌは女官を目指しているのか。
だが、まだ最初の試験だからな。次、頑張ればいけるだろう」
「そうね、最初の試験で四位ならいけるわよね」
あとで二人にもおめでとうと言わなきゃ。
三位と五位から十位は違う教室の学生のようだ。
アリスとエリーナは勉強が苦手だと言っていたから入っていなくても驚かない。
あのシュゼット様のそばにいた令息三人は入らなかったようだ。
卒業までになんとかできるのかと思ったけれど、私が心配することでもない。
「今日はお祝いだな。父上と母上が準備しているはずだ」
「結果もわかっていないのに?」
「確信していたんだよ」
「もう~兄様が一位なのはわかるけど……」
「その一位と同じ勉強をしていたんだから、一位になってもおかしくないだろう?」
「……そう言われてみれば」
ずっと兄様と同じ勉強をしていた。領主になる勉強までまったく同じに。
兄様が一位になるなら、私にもそれだけの知識があるということだ。
「これからずっと一位を目指せよ」
「ええ?ずっと?」
「ああ。ジュリアンヌならできるだろう?」
「……できるだけ頑張るけど」
「よし」
兄様にできるだろうと聞かれると無理だとは言えない。
三年間一位を目指すなんて難しいに決まっているのに。
ため息をつきながら教室へと戻り、マリエット達と喜び合った。




