26.愚かな令嬢(ジェラルド)
ジュリアンヌが控室に来るのを待っていたら、
ドアが荒々しくノックされる。
これはただ事ではないと、ケインが警戒しながらドアを開けた。
飛び込むように入ってきたのは、
ジュリエットの友人、アリスとエリーナだった。
「大変です!ジュリアンヌ様がシュゼット様にからまれています!」
「なんだと!?」
「ジュリアンヌ様に用があると言い出したと思ったら、
お姉様だなんて呼び始めたんです!」
「なんだと!? 場所は教室か!?」
「「はい!」」
シュゼットがジュリエットを呼び止めただけなら想定内だが、
お姉様と呼んでいるだと? いったい何を考えているんだ。
息を切らしながら呼びに来てくれたアリスとエリーナと共に、
ジュリアンヌの教室まで走る。
教師に見つかったら注意されるだろうが、それどころではない。
教室に着いて中に入ると、血の気を失ったジュリアンヌが倒れる寸前だった。
「ジュリアンヌ!」
間一髪で床に崩れ落ちる前にジュリアンヌを受け止める。
そして、すぐ近くいたサミュエル王子に怒鳴りつけた。
「ジュリアンヌに何をしたんだ!」
「え?……いや、俺はなにも」
「手を伸ばしていただろう!ふれるつもりだったのか!?」
「そ、それは……返事もなく、様子がおかしかったから……。
具合でも悪いのかと思って」
「それでふれていいわけないだろう!
それに、こんな風に令嬢に近寄ったら怯えるとわからないのか!」
「怯える?……もしかして、倒れたのは俺のせいなのか?」
「マリエット、コリンヌ、やり取りを見ていたか?」
どうせサミュエル王子に聞いてもわからないだろうと思い、
ジュリアンヌのそばにいた二人に問いかけた。
「ジュリアンヌ様は帰ろうとしていました。
それなのにシュゼット様がしつこくつきまとって、
腕をつかんで離さなかったんです!」
「ジュリアンヌ様はその時点で体調が悪そうでした!
それなのに無理やり引き留めて、第二王子様に引き合わせたんです!」
「なんだと……?」
「……お、俺は無理やりだったなんて知らなかったんだ。
来てすぐに挨拶しただけで……シュゼット、何をしたんだ!?」
俺と令嬢二人ににらまれたからか、
サミュエル王子はおろおろしてシュゼットに助けを求めた。
だが、シュゼットは嬉しそうに俺ににっこり笑っている。
「あら、私はお姉様にサミュエルを紹介しただけよ?
それなのにお姉様が帰ろうとするから引き留めただけ」
「その、お姉様というのはなんだ?不愉快だ」
「え?でも、姉妹なのは本当だし、お姉様と呼んでもいいでしょう?」
「姉妹なのは本当?どういうことだ」
「違うんです!ね、シュゼット様、間違いですよね!」
俺の質問を周りの令息たちが否定しようとするけれど、逃がすことはない。
「お前たちに聞いていない。黙れ。
ジュリアンヌがお前の姉だというのはどういう意味だ?」
「そのままの意味だけど。
お父様が同じなんだから、半分だけど姉妹でしょう?」
「シュゼット!?何を言っているんだ!
ジュリアンヌと父親が一緒とはどういうことだ!?」
知らなかったのか、サミュエル王子が動揺している。
それでもシュゼットは気にしないようで得意げに説明する。
「今のお父様が私の本当のお父様なの。
お父様とお母様はずっと恋人だったのよ。
だから、ジュリアンヌ様は私のお姉様なの」
「……本当なのか?」
「本当よ。外見はお母様に似たからお父様には似ていないけど。
でも、それはお姉様もそうでしょう?前妻に似たって聞いているもの」
「……嘘だろう」
サミュエル王子が呆然とした顔でつぶやいた。
いくら愚かだと言っても、それがどんな意味なのかくらいはわかったようだ。
意外だったな。気がつかずにシュゼットの話に賛同するかと思ったが。
「その話が事実なら、イフリア公爵は処罰されなくてはいけない」
「え?どうして?」
「イフリア公爵と叔母上の結婚は王命だった。
それにも関わらず、愛人に娘を産ませているとはな」
「それのどこがいけないの?
王命の結婚なんて勝手に押しつけられただけじゃない。
お父様はお母様と結婚したかったんだから」
「だが、不貞は不貞だ。
伝統派と推進派を結びつけるための結婚だったのに、
不貞したあげく一方的に離縁して、派閥間の確執を強めた。
イフリア公爵の罪は重い。爵位の取り上げもありうるな」
「しゃくいのとりあげって?」
きょとんとするシュゼットにサミュエル王子が教えてやっている。
ここまで馬鹿だとはな……イフリア公爵家は何をしているんだ。
「……公爵じゃなくなるってこと。イフリア公爵が公爵でなくなれば、
養女であるシュゼットも公爵令嬢ではなくなる」
「うそ!どうして、こんなことで!?」
「こんなこと、ではないからだ」
これ以上はここで話す意味がない。
ジュリアンヌを抱きかかえたまま教室から出て行こうとすると、
またシュゼットが後ろから俺に抱き着こうとした。
だが、それは令嬢四人が阻止してくれた。
「やだ!なんなの!?離してってば!
ジェラルド様!もうお姉様はサミュエルに任せてもいいの!
ジェラルド様は自由になっても大丈夫だから!」
「……何を言っているんだ?」
「これからはサミュエルがお姉様のそばにいるって。
ね?サミュエル」
「あ、ああ……」
「何を言ってるんだ。近づかれただけで倒れたんだぞ。
一緒にいられるわけないだろう」
「本当に俺のせいで倒れたのか?」
「ジュリアンヌは幼少期のできごとのせいで、
黒髪の女と身体のでかい男を怖がる。
お前たちがいたせいでジュリアンヌは倒れたんだ。
もう二度と近寄らないでくれ」
「そんな!ジェラルド様!」
引き下がらないシュゼットを放って、教室から外にでる。
そのまま馬車に乗ると急いで屋敷に向かうように命じる。
ジュリアンヌの顔色は真っ白だ。
ただでさえ黒髪のシュゼットがいるのに、
身体が大きいサミュエル王子に近寄られて、
あの時のことを思い出してしまったのだろう。
……さて、この報復はどうしてやろうか。




