第3話:余命宣告
「私、実は、来年のこの時期に死ぬんです」
気まずい空気を断ち切るようにして出た言葉は、予想だにしなかった言葉だった。
「……!!」
僕は驚きのあまり声も出なかった。
「びっくりしましたよね。ごめんなさい。私、桜病で……余命一年と診断されました」
彼女はさらに聞き慣れない単語を並べたてた。
「サクラ、ビョウ?」
ゆっくり発音しても理解することは出来なかった。
「ああ、桜病は桜が散る時期になると、身体が崩れていく病気です」
「え……それって、治らないの?」
僕は聞いた。軽く聞いたわけではなく。こんな余命わずかな人に出会ったのが初めてだったから、わからなかったのだ。多分この先長い人生の中でも、余命がある人になかなか出会わないと思う。
「不治の病みたいで、原因不明なので、現代の科学では治療出来ないらしくて⋯⋯」
やはり、何気なく聞いたのが間違いだったみたいだ。一緒に歩く僕らの間に亀裂が出来た気がした。僕らが作る静寂に雨音だけがこだまする。相合い傘をしながら一言も喋らないのは、なかなかつらい。
すると、静寂を断ち切るように雨が上がった。空に虹がかかる。とても綺麗だ。君がそれに気づき、そっと傘を閉じると僕に傘を差し出した。
「あ、ありがとうございました!」
僕が傘を受け取ると、彼女は突然頭を下げた。すると、背負っていたリュックから、大量の紙が落ちた。
「あっ……」
僕は急いでかがんで紙を拾った。全部に絵が描かれている。50枚ぐらいあるだろうか。どれも、とても上手だ。そのまま売れるくらい。
「濡れてないかな?」
彼女は手を伸ばし、首をかしげた。僕は絵を手渡した。幸い、屋根の下で地面が濡れていなかったようだ。
「大丈夫だと思うよ、って、ええ!?この絵どっかで見た気が」
僕はすごいことに気が付いた。この人、天才高校生絵師のSaKだ。まさか快晴学園に通っていたなんて⋯⋯こんな高校に!?
売れるも何も、もう売れているじゃないか。
「え、君ってSaKさん?」
僕は一応聞いた。これがSaKの模写の場合だってあるのだ。それだとしてもすごいが。
「そうです、でも、あんまり大きな声で言わないでください」
SaKはそう返した。そうだった。覆面高校生イラストレーターだったのだ。すっかり忘れていた。
僕はSaKのSNSは全てフォローしていて、SaKの一ファンだったのだ。そんなSaKが近くにいるなんて、信じられない。
「私がSaKであることは絶対に誰にも言わないでくださいね」
「言わないよ」
僕はSaKに向かって言った。そりゃそうだよな。顔バレして住所までばれたら今の時代なにが起きるか分からないし。ここだけの秘密にしておこう。
そう言いながら誰かに聞かれてないか確認するため、辺りを見回していると、とんでもない言葉が聞こえてきた。
「付き合ってください」
「え!?……急に、どういうことですか?」