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第1話:大雨

[一年前]


 ザァーーーーーーーー


 雨が地面に強く打ち付ける。今日は雨予報だったのでしっかり傘を持ってきていた。


 「瑛太、今日雨だけどギターどうすんだ?」


 クラスメイトの村上がイスに座りながら後ろを向いて僕に問いかける。


 「あ、家にあと2本あるから大丈夫だよ」


 入学式から1ヶ月が経ち、ようやく学校生活に慣れてきた。最初に話したのがこの村上圭太くんだ。僕は圭ちゃんと呼んでいる。


 「え、すげーお金持ちじゃん」


 圭太は目を丸くした。この驚いた圭ちゃんの顔が好きだ。


 「そんなことないよ」


 実際には田舎に引っ越してきて、生活に余裕が出てきただけだ。そんなことを思いながら笑う。わざわざ、このド田舎の高校に入学してきたのには理由がある。


 「あ、もう行かなきゃ」


 僕はその理由になった場所へ向かう。


 「じゃあな」


 山田は手を振って僕に笑いかける。


 「うん、また明日!」


 僕はギターとカバンを背負い、急いで教室を出た。




 「瑛太、ちゃんと練習してきたか?」


 憧れの天月歩夢あまつきあゆむ先輩だ。この人のギターボーカルに惹かれてわざわざ引っ越して入学したのだ。


 「はい、もうバッチリですよ」


 僕は自信満々に答えた。そう昨日帰ってから死ぬほど同じパートを練習してきたのだ。天月先輩がうなずいてくれた。僕は自然と笑顔になる。


 「お疲れ様です!」


 「やっほー!」


 田中冥逢たなかめいあ佐野千歳さのちとせ先輩が部室に入ってきた。元気よく手を上げて入ってきたのが同級生の冥逢で、後ろから入ってきたのが千歳先輩だ。この軽音部の部員はこの4人しかいない。


 「遅えよ」


 天月先輩が笑って冗談混じりに言った。


 「すみません!」


 冥逢は頭を下げて謝った。


 「やめろよ、そんな謝られると怒ってるみたいになるだろ?」


 天月先輩がまた笑った。いや、ここに入学した理由はこの人とセッションするためだ。この人のギターと歌が本当に上手なんだ。でも、僕にギターボーカルを譲ってくれた。僕の歌声が気に入ったらしい。僕は天月先輩からその言葉を聞いたとき、思わず涙がこぼれた。


 ここに来る度に、涙を隠し歌ったことを思い出す。まだ1ヶ月前の話だが……


 「じゃあ準備して」


 「「はい!」」


 天月先輩の声に僕らの返事が合わさり、4人が一つになる。


 千歳先輩と冥逢、二人とも細い体でバンドマンというには少し無理があるんじゃないかと思われるが――――


 千歳先輩がドラムに座ると部室の空気が一気に重くなる。信じられないよな。叩いてなくても緊張感を感じさせるくらい、彼女の動きひとつひとつが練習に活気を与えている。反対に、冥逢は体に見合わない大きさのベースを担ぐと、少しおぼつかない感じでボンボンと音を鳴らす。でも、こいつはただの初心者とは思えない。こいつにしか出せない独特なリズムで僕達を支えるんだ。


 


 「3.2.1」


 準備が終わり、佐野先輩のカウントに合わせて僕らのそれぞれの音が音楽室に響く。


 やはり、佐野先輩のドラムはリズムが一切狂わない。か細い体からは考えつかないほどの轟音で僕らを後ろから支えてくれる。


 しかし、冥逢はベースを始めて1ヶ月なので少しリズムがずれてしまう。だが、その癖のあるリズムも一つの個性になっている。僕はこの初々しいリズムとか弱い体には見合わない低音が好きだ。


 そして、天月先輩がリードギターを弾き始めると、この部屋の空気が変わる。さすがだ。無色だった音楽室が色づいた感じがする。やっぱりここに入学してきた甲斐があった。これを生で聞けることが僕の生きがいだ。


 「おい、おい、瑛太……歌えよ」


 音楽が急に止まり、天月先輩の声だけが響く。


 「すみません、別のこと考えてました」


 天月先輩のギターを聞き入っていたなんて恥ずかしくて言えない。天月先輩が笑う。


 「何してんだよ、ほら、もう一回行くぞ」


 「はい」


 今度は僕の返事だけが教室に響く。

 

 「じゃあいくよ!3.2.1」


 佐野先輩が言うと、イントロが始まった。その心地よい音をバックに僕は歌い出した―――

読んでくださりありがとうございます!

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