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Prologue〜僕には何が残っただろうか〜

 「ここだったよね?」


 君は笑って僕に聞いた。なぜ、笑えるのか。なぜ、笑顔なのか……


 「うん、ここ、だよ」


 僕が答えた。その小さい声は風に流されて消えていく。


 その風が吹く度に桜が散っていく。地面に落ちていく桜を見て、僕は涙を流した。最後の花びらが散った時に君は崩れて灰になり、この世からいなくなってしまうのだ。


 綺麗なはずのこの桜吹雪(さくらふぶき)は何故かくすんで見えた。桜吹雪が強くなっていくにつれて、どんどん視界が暗くなっていく気がする。この桜の木の下はちょうど1年前に君と出会った場所。


 君が「どうしても最後はここが良い」と言ったんだ。悲しいに決まっている。なのに、君はここを最後の場所に選んだ。


 僕は悲しい。壊れそうなくらい。反対に君は、なぜか笑顔だ。


 なぜ、君は涙を流さないのか。苦しくないのか。そんな事を問いかける前に君の身体は崩れていく。


 「いなくなっても、ずっと好きでいてくれる?」


 そんな言葉を遺して跡形もなく灰になり、この世を去った。最後は笑顔だった。


 最後に僕と会話することさえ許してくれないこの病気は、桜病(さくらびょう)と呼ばれている。前兆も何も無い。救急車に運ばれ、病院で治療されることもない。ただ、ここで、一瞬にして姿を消すのだ。そんな原因不明の不治の病があったなんて……君と出会うまで知らなかった。君のおかげで知った知識だが、もう一生使うことはないだろう。


 「当たり前、だろ……」


 もう届かない空回りした言葉を宙に放った。そして、震えて涙を流しながら、君の足元に残った灰をかき集めて、瓶に詰めた。


 君の骨も面影も何も残らない。残ったのはこの白い灰だけ。僕は瓶のフタをしめ、1人で泣き叫んだ。


 「あぁ゛あぁああぁ゛あぁああぁああぁ゛!!!」


 怪獣のように泣き叫んだ。今まで我慢していた分がすべて溢れ出てきた。


 僕には何が残っただろうか。この声は君に届いただろうか。僕は涙が枯れ、泣き止んだ後も、しばらく立ち上がれなかった―――

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