王子にタックルをかました結果
(早く帰りたいなぁ……)
私エリーザ・ノースはそんな事を思っていた。
私がいるのはお城で同年代の令嬢令息が集まる交流会の会場である中庭だ。
(交流会というけど目的は王子様の婚約者探しなのは見え見えだし)
王子の婚約者探しとなれば我が家みたいな貧乏男爵家はお呼びじゃないんだけど一応義務なので参加している。
(しかし……、まだ14歳で真っ黒なのはどうだろう。 真っ黒すぎて顔も認識出来なかったんだけど)
私は令嬢達に囲まれている王子らしき人物を見ながらそんな事を思っていた。
理由はわからないけど私は普通の人には見えない物が見える。
霊とかではないんだけど人の感情が色や形で見えるのだ。
両親に話したら最初は半信半疑だったんだけどお父さんの秘密を言い当てたら驚いて信じてくれるようになった。
お父さん、お母さんに内緒で怪しいお店に通っていたらしくて私の発言でバレて修羅場になったあの光景は今でも忘れられない……。
お母さんの内なる修羅を呼び覚ましてしまった様であれ以来我が家の生態系はお母さんが一番になった。
そんな経験をしているのでこういう人が集まる所は苦手で、なるべく避けている。
初めて社交デビューした時は余りにも感情のどす黒さに気を失ってしまったぐらいだ。
だから、王家の方々とかお世話になっている侯爵家とかにご挨拶して今はなるべく目立たないように会場の隅っこにいる。
まぁお城に来る事なんて滅多に無いのでそれだけは楽しみだ。
(ん〜、もう退屈になって来たし……、ちょっと散歩でもしようかな)
私は会場を離れて1人中庭を散策する事にした。
「流石はお城ね、綺麗な花がいっぱい植えられているわ」
中庭の花壇を見ながら目を輝かせながら歩いていた。
花とか木には感情が無いので疲れた心が癒される。
「あら、こんな所に池があるわ、でも魚とかは泳いでないみたい……」
いつの間にか、私は池に来ていた。
「水は濁っているから余り使われてないみたいね」
そっと池の中を覗いてみると余り綺麗ではない。
すると、遠くから何やら声が聞こえてきた。
私は慌てて近くの木の陰に隠れた。
(ん……、あれって確か王子様と公爵家のアグネス様だわ)
現れたのは例の真っ黒王子様とグリース公爵家のアグネス様だった。
「まぁ、大きな池ですわね」
「あぁ、ここに自慢の魚がいるんだ」
(魚? そんなのいない筈なのに……)
王子様の発言に私は疑問に思った。
「余り良く見えませんわ」
「もっと近づいてみないとわからないよ」
「そうですか?」
アグネス様は池の淵に近づき池に顔を覗かせた。
すると王子様はアグネス様は背後で手を前に出してゆっくりと近づこうとしていた。
「あぶなーい!!」
私は思わず飛び出した。
「え、なんで人が……、て、うわぁっ!!」
そして、王子様目掛けてタックルをかましてやった。
ドン、という音共によろけた王子様はそのままドッボーンという音と共に池に落ちた。
「え、なにがどうなって……」
アグネス様はキョトンとしている。
「いきなり出てきて申し訳ありません! 私ノース男爵家のエリーザと申します。王子様がアグネス様を落とそうとしていたので思わずタックルをしてしまいました」
「えぇっ!? 私はこの池に綺麗な魚がいる、と誘われて来たんだけど……」
「この池には魚なんていませんし水は濁っております」
そう言うとアグネス様は状況が理解したみたいで顔を真っ青になりヘナヘナとその場に座り込んでしまった。
「た、助けてくれぇ! 泳げないんだぁっ!!」
「泳げないのに令嬢を落とそうとしたんですか、最低ですね。 反省してください!」
相手が王子だろうか関係無い、私は溺れている王子に対して指をビシッと突きつけて言った。
その後、私の大声が聞こえたらしく大人達がやって来て王子様は救出された。
私は見た事をそのまま報告、そしてそのまま解散する事になった。
ただ帰りの馬車で自分がやらかした事に気が付き頭を抱えていた。
だって、相手は王子様だよ?
下手したら不敬罪になるかもしれないし、私の証言がそのまま通るかどうかはわからない。
もし王子様が変な事を言いだしたら私の人生終わったも同然だ。
下手したら男爵家潰れちゃうかも……。
そんな事を両親に話した。
「エリーザが間違った事をしない事は私達が良くわかっている 何があっても私達は味方だ」
「そうよ、取り潰しになったらその時はその時よ、そもそも失う物なんて無いんだから」
そんな心強い事を言ってくれて私はちょっとだけ嬉しかった。
そんな波乱の交流会から1週間後、我が家にお客様がやって来た。
「第2王子のルイス・コブレットと申します。 この度は我が兄がご迷惑をかけてすみません」
「い、いえいえ!! まさか我が家みたいな男爵家に王子様が来てくださるとは……」
お父様、完全に恐縮しています。
お母様も顔は笑みを浮かべているけど若干震えています。
「まず兄は王位継承権を剥奪、幽閉される事になりました」
「剥奪と幽閉、て私の証言が信じられたんですか?」
「えぇ、実は兄は昔から悪戯好きで城務めの者に迷惑をかけていたんです、今回の件で調査が行われ今までの被害が表に出ました」
やっぱりあの黒さは長年かけていた物だったのね。
「今回も最初は言い訳していましたがそもそもあの池は立ち入り禁止だったのです。 そこにわざわざ連れて行くなんて絶対おかしいんです。 そこを突いたら『わざと落として溺れる様を見て笑ってやろうと思った』と告白しました」
「屑ですね」
「我が兄ながら恥ずかしい限りです……。 父上もそうですがアグネス嬢のご実家である公爵家も激怒して厳しい処分が決定しました」
そりゃそうですよね、そんな人が国王になったら迷惑をかけられるのは民だ。
「なので、今回未然に防いでくれたエリーザ嬢には褒賞が与えられます。また公爵家からもお礼があるそうです」
「ありがとうございます」
後日、王家から褒賞金をいただき我が家は貧乏から脱出する事が出来た。
更に私はアグネス様に気に入られ公爵家とのご縁が出来た。
更に更に私の力が実は女神様から与えられた『加護』である事が判明し聖女認定される事になるのは別の話。