祟り
これは祟りじゃ祟りじゃ。祟りに違いない。生贄を血塗られた祭壇に捧げなくては。若いおなごを連れてこい。生々しく血の通った者を。白装束に身を包み、白粉で身を清め、白い花で身を着飾り、白い板切れに身を横たえた生贄を連れた村人がえっちらおっちら山を登ってきた。山頂にたどり着くやいなや生贄を慌ただしく祭壇に捧げ、蜘蛛の子を散らすようにしていっ去っていった。後に残されたのは生娘ただ一人、震える身体を必死に抱き寄せ、恐怖にひきつった顔を見せまいと、目を固くつぶり、その時が来るのを今か今かを待っていた。待っていた。待っていた。
デジャヴ。我々はいつも待っている。何者かの到来を。こうすることでしか平静を保てないのだ。狂気をこの身に宿すには、余りにも器が小さすぎる。ゴトーを待ちながら。延伸と展開。期待は淡々と裏切られる。律儀に約束を守るのは悪魔ぐらいなもの。ただれた肌に、どろどろに溶けた眼球、歪んだ頭蓋骨に、ひしゃげた首。5秒戻れば元通り。風見鶏の向く方角が頓珍漢であるとこですら、誰が気づくだろう。ましてやユートピアの隣に住んでいることなぞ。明日の目玉焼きはフライ返しなしに上手く作れるだろうか。もし作れなかったとしてもネズミにかじられた跡が一つや二つ増えるだけだ。そういえば、あの青白いネズミの死体は無事峠を越しただろうか。かじられた跡の悲鳴が益々大きくならないことを祈るばかりだ。羊が1匹、羊が2匹、羊が。数を数える時には、後ろを振り返ってはならない。羊が506匹を超えたあたりから、段々おかしくなる。だが、喉元過ぎればなんとやら。玄関をノックする音なんて聞こえなかったのだ。金輪際。視界が開けつつぐるぐる回り始める。命綱なんてあってもないようなもの。千切ってしまえ、そんなものは。あれはもうどこにもないのだから。財布を忘れてバスに乗り遅れたのはいつだったか。バス停のベンチに座って、来るはずのない車に向かって惨めに手を振り続けなくては。羊水に溺れるぐらいなら、狐に化かされたままでいたいなんてそんなものは嘘っぱちだ。
祟りは三度到来する。夢にまで見た光景がここに。あな恐ろしや、恐ろしや。