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1話

はじめまして。

これから、よろしくお願いします!

なにとぞ、お手柔らかにお願いします。

 

 突然流れ込んでくるような大量の情報に、頭が砕け散りそうな感覚に陥った。

 こんなことあるわけないという感情と、どうしても否定できないようなリアルな記憶。

 少しの間は混乱してたけど自分でも驚くほど、あっという間に冷静さを取り戻せた。


「どうかされましたか、ぼっちゃん?」


「ん、大丈夫……かな」


「どこか体調が悪いのでは? 会話の途中で急に黙りこんだりして」


「ごめん。ちょっと疲れてるのかも」


「それはいけませんな。少し休みましょう」


「ありがとう、レオド」


 この老紳士はレオド。

 俺の世話係を中心に仕事をしてる執事だ。

 間違いない。

 生まれてから約6年間も世話をしてくれてる、もはや家族といっても過言ではない存在。


 うん。

 こっちの記憶は問題ない。

 問題なのは、もう1つ俺の記憶らしきものが急に頭の中に生まれたことだ。


 これってあれだよな。

 今でも半信半疑だけど、たぶん異世界転生ってやつでしょ?

 冷静でいられてるのが不思議だけど、そう考えるのが辻褄合っちゃう。

 そっか。

 やっぱり俺、あの時に死んじゃったのか……。






「うわ、寒すぎんだろ」


 急激に冷え込むようになってきたなぁ。

 ほとんど秋を感じることもなく、冬本番って感じすらする。

 まぁ、基本的に病室にいるから季節の感覚なんて普通の人と比べると無いに等しいんだろうけど。


 でも俺からしたら大きな話。

 何てったって来年の春からは俺も高校に通えるかもしれないんだから。

 生まれてからずっと重い病気で入院生活。

 この夏に手術が成功してくれたおかげで、やっと退院の目処が立った。


 なんとかって名前の偉いお医者様の新しい術式とやらで完全に病とサヨナラできた。

 難しい話は分かんないけど、感謝でしかない。

 世界でも数百例しか症例がない激レアな病気になるなんて……。

 いつ死んでても不思議じゃなかったもんな。


「やっぱり、ここにいたのか」


「あ、おじさん。探させちゃいましたか?」


「いや、中庭だろうなとは思ってたからな。ここくらいしか来るとこないだろうし」


「そうっすね」


「じゃあ俺は先生と話してくるから。風邪ひく前に病室戻れよ?」


「はい」


 相変わらず忙しない人だな。

 でも底抜けに優しい人。

 俺にとって唯一の身内といえるのが、あの人でマジで良かった。

 生まれてからずっと病気、祖父母は他界し、両親は俺が4歳の時に事故死。

 おじさんが世話してくれなかったら、俺なんてもうとっくに……。

 負担にならないワケないのにさ。

 経済的に余裕はあるみたいだけど、それだけで世話なんて。

 頭が上がるわけないよね。


「……そろそろ戻るか。心配させても良くないし」


 たぶん退院のこととか話してるだろうから、まだだろうけど。

 いい加減寒すぎるし。

 病室戻って勉強でもしよう。




「お、やってるね少年」


「こんばんは、美鈴さん」


「こんばんは。それにしても、よく毎日毎日一生懸命できるよね、勉強」


「そんなに一生懸命なつもりもないんですけどね。普通の中学生は、もっと何時間もやってることですし」


「いやいや。普通の中学生なんて授業をダラダラ受けてるくらいよ。大して身になってないわ。元中学生の私が言うんだから間違いないって」


「あはは。なんすか、それ」


 そうなのかもしれないけどね。

 それでも俺よりは絶対的に頭が良いはずだからな。

 高校もレベル高いとこはいけないけど、せっかくなら少しでも勉強できた方が高校生活も楽しそうだし。


「まぁ高校生になるんだもんね。どう、楽しみ?」


「受験ってやつも不安だし心配だらけではありますけど、やっぱ楽しみです」


「そっか。じゃあ勉強頑張らないとね」


「はい」


「退院の日とかって決まったんだっけ?」


「まだじゃないですかね。おじさんが色々と先生と話してくれてます。まぁ美鈴さんよりは遅いでしょう」


「そりゃあ私は週末だしねー。あ、そろそろ部屋に帰らなきゃ。じゃ、またね」


「はい。また」


 数少ない入院仲間の美鈴さん。

 とにかく明るくて、いつも元気をもらってた。

 週末に退院か。

 めでたいな。


 俺の退院はいつになるんだろう?

 体力的なこととかで色々と時間かかったけど、そろそろだって先生も言ってたし。

 病院には世話になったし、別に居心地悪いワケじゃないけどな。

 できるだけ早く退院したいのは事実。


「修! 退院の日が決まったぞ!」


「ほんとですか!?」


「良かったな!」


「はい!」


 きた!

 ようやくだな……。


「再来週の頭だってよ」


「そうですか。長かったなぁ」


「そうだな。楽しみにしとけよ。退院祝いは良いもの食わせてやるから」


「ありがとうございます」


 再来週か。

 まだ急ぐほどじゃないけど、それなりに準備とかしていかないとね。




「改めて退院おめでとう、修」


「ありがとう、おじさん。ごちそうさまでした」


「美味かったろ?」


「はい、とても。病院食も悪くなかったですけど、色々と格別でした」


「じゃあ会計してくるから、先に車に戻ってるか?」


「そうします」


 いやぁ限界まで食べたな。

 病院じゃあ出来ない、おかわりとかもしちゃったし。

 実に美味かった。

 それにしても長いな、この信号。

 信号ってこんなもんだったっけか?


「やっと青だよ。ったく……」


 寒いんだから、あんまり待たせてほしくないよなー。

 仕方ないんだけど。


「オイ、君! 逃げろ!」


「へ?」


 こっちに向かって突っ込んでくるトラック。

 足がすくんで動けない。

 マジかよ、おい!






 残ってる前世であろう記憶の最後は、眠ってるらしき運転手の顔。

 あの野郎……。

 マジで今更ながら腹たってきた。

 せっかくの退院祝いを、なんてことしてくれやがったんだよ!


 俺は、たぶん死んだんだろう。

 その割にはと言うか何というか、あまりショッキングではないけど……。

 おじさんたちに申し訳ないなぁ。

 何の恩返しも出来ないままサヨナラか。

 人生って呆気ないな。

 あんだけ苦しめられた病気が治ったと思いきや、一瞬で……。


 でも、チャンスをもらったと思うしかない。

 なぜかは分からない。

 分からないけど、新たな人生を送れるんだ。


「そろそろ大丈夫ですかな?」


「うん、レオド続きお願い」


「おや? 何やら顔つきが変わられたような?」


「ちょっと気合い入れただけだよ」


「では再開いたしましょう」


 前の人生では何も出来なかったに近い。

 勉強でもいい、運動でもいい、何でもいいんだ。

 何かに熱中したい。

 燃え尽きるまで頑張ってみたいんだ。


 異世界だろうが楽しめるなら!

この話を読んで

「面白い」

「続きが読みたい」

などと少しでも思っていただけたら評価をお願いいたします。


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