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第8話 ライブハウス



目が覚めた。


 周りを見渡す。自分の部屋ではない。ここはやはりニウムヘルデンだ。


 豪華な絨毯が床に敷かれており、テーブルや椅子やタンスなど、どれも高そうなものが置かれている。


ベットも1人で使うには勿体無い程に大きい。ベットの周りには透明なレースが付けられている。


僕は王族じゃないぞ。ただの人間界の住人だぞ。こんなVIP待遇、身体がおかしくなりそうだ。


 ベットから降りて、窓の方へ向かう。


 窓に掛けられているカーテンを剥がして、外の景色を見る。


 眼下に拡がる城下町を見るのは初めてだ。今まで、魔王城の中だけだった。


 城下町の建物は日本のような建物ではなくヨーロッパのレンガ造りの建物ばかり。街を覆うように大きい壁が聳え立っている。


戦争時に他国からの攻撃を防ぐ為に造られたのだろうか。この世界の政治や歴史はまったく知らない。まぁ、知っていたらそれはそれで怖いけど。


 小型のドラゴンや羽根を生やした人間が飛んでいる。こちらの世界の日常なのだろう。


これを見て、驚く事がなくなった僕は大丈夫なのだろうか。どこか僕は麻痺しているのだろうか。


考えるだけ無駄か。起こる事起こる事全て受け入れればいい。何と言うか、仙人の域に向かっている気がする。いや、悟りを開こうとしているのか。


 ドアをトントンと叩く音が聞こえる。


「はい。どうぞ」

 ドアが開き、フギンが部屋に入って来た。


「あ、どうも。おはようございます」

「おはようございます。よく眠られましたか」


「まぁまぁですかね。こんなに高そうなものばかりじゃ落ち着けないですが」

「そうですか。まぁ、すぐに慣れるでしょう」


「それで来られた理由は?」

「今日はライブスタジオの下見やキアラ様の衣装決めと街の案内をします」


「分かりました。それじゃ、用意します」


 今日も色々と予定が詰まってるな。まぁ、一ヶ月なんてすぐに経ってしまうから仕方がないか。


「ありがとうございます。それではご用意が整ったらお呼びください。それまで廊下で待っていますので」


「はい。すぐにします」


 フギンは廊下に出て行った。僕は外に出る準備を始めた。





 僕とキアラとフギンは魔王城を出て、城下町を歩いている。

 道の両脇には様々な店が建っている。


店先に並んでいる果物や肉や魚は人間界にない様な禍々しいものもあれば人間界と同じようなものもある。


 住人達は人間の様な姿をした者達が多い。魔族かこちらの世界の人間なのか、それとも違う種族なのかは分からない。まぁ、そこまで気にする事はないか。


 一つ気になる事がある。住人の視線だ。どことなく避けられている気がする。


それに元気がなさそうだ。城下町ならもう少し活気があってもいいはずなのに。


「痛い。これが筋肉痛かぁ」

「練習をした証拠だよ」


「そっか。それなら仕方ない」

 キアラとはちょっと心の距離が近くなってきたように思える。敬語じゃなくなったからか。


最初に比べればだいぶ進歩した気がする。あのおどおどした子と今のキアラが同一人物とは思えない。


「あちらがライブ会場になります」

 フギンは視界の先に見える建物を指差した。


「え? あそこですか」

「はい。その通りです」


 明らかにライブ出来るサイズの建物じゃない。と言うか、ライブハウスじゃない。ただの一軒家だ。


二階の外壁には「ライブハウス・マホロバ」と書かれた看板が設置されているが防音設備絶対にないじゃん。近所迷惑でしかないぞ。


周りにも普通に建物が建っているのに。


「普通の家ですよね」

「違いますよ。入れば分かります」


「……本当に?」

 フギンはなんとなく信用できないからキアラに訊ねた。


「うん。入れば分かるよ」

「そっか。そう言うなら」


「なぜ、私を信用しなかったんですか?」

 フギンは心を読めるのか。それとも魔法か何か。まぁ、どうにしかして乗りきらないと。


「いや、信用してましたよ。キアラも知ってるのかなと思って」

「そうですか。それならいいですけど」


 どうにか乗り切った。変な所に感情のスイッチがあるな。ちゃんと気をつけないと。どこで地雷を踏むか分からない。


 僕ら三人は「ライブハウス・マホロバ」の中に入った。

「う、嘘だろ。どうなってるの、これ」


 真実とは思えない景色が広がっている。た、たしかにライブハウスだ。


それも設備がかなりいい方の。防音設備もしっかりされている。

 

ぱっと見て、1000人は入りそうだ。でも、どう言う事だ。どうなっているんだ。もしかして、これも魔法なのか。


「驚かれていますね。これも魔法の一つです」

「便利な魔法だな」


「はい。この系統の魔法はデメリットがありませんので」

「そ、そうなんだ」


 二ウムヘルデンにはメリットしかないものが存在するのか。凄いな。それにこの魔法、人間界で使えたらいいのに。


「それでは色々と案内します」

 フギンはそう言って、ステージの方へ向かって行く。


 僕とキアラはフギンのあとについていく。

 このライブハウスの設備を見ていると不安になる。


ステージ経験のないキアラがいきなり1000人の観客の前に立てるのだろうか。最高のパフォーマンスが出来るのだろうか。色々と考えてしまう事がある。


 普通ならもう少し小さな規模でやるべきだ。キアラの事を考えるなら。


でも、魔王の娘だから仕方がないのか。それはそれで可哀想だ。もしかしたら、その一回で心が壊れてしまうかもしれない。

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