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第4話 魔王の娘はアイドルオタク


魔王の娘に会う為に、魔王城内をフギンに案内されて歩いている。


 高級そうな絨毯が廊下に敷き詰められている。壁には悪趣味な絵画が額縁に入れられて飾られている。それに禍々しいドラゴンのような置物が設置されている。


 なんと言うか、魔王趣味が悪いな。口が裂けても言えないけど。


 なんだか、ちょっと落ち着いてきた気がする。もう意味の分からない事が続いて、考えるのを放棄したからだろう。


 リムジンに乗せられて誘拐された時はどうなるかと思っていたが。


 フギンはルビーやサファイアなどの宝石で装飾されたドアの前で立ち止まった。


「この部屋の中にキアラ様がいらっしゃいます」

「は、はぁ」


 魔王並みの、いや、それ以上に恐ろしい顔の人が居たらどうしよう。疑いばかりが心の中で飛び交っている。


「準備はよろしいでしょうか?」

 フギンは訊ねて来た。


「大丈夫ですよ」

「それでは少々お待ちを」


 フギンはドアを三回ノックした。三回ノックのマナーはニウムヘルデンにもあるのか。驚きだ。


もしかしたら、どんな世界でもノックの回数は同じなのかもしれない。まぁ、そんな事どうでもいいんだけど。


「キアラ様。フギンでございます。開けてもよろしいでしょうか」

「は、はい。大丈夫です」


 とても可愛いらしい声が部屋の中から聞こえる。ちょっとホッとした。しかし、声だけが可愛いと言うパターンもある。よく、お笑いやアニメとかであるやつだ。


「それでは開けます」

 フギンはドアを開けた。


 部屋の中には枕を抱いた同世代ぐらいの白髪ロングの美少女が座って居た。姉のエヴィとは違い、美人ではなく可愛い。一万年に1人の逸材だ。


どこをどう見ても可愛い。顔の左右のパーツの比率は黄金比。アイドル以上にアイドル顔。アイドルになる為に生まれてきたような存在だ。


でも、待てよ。魔王の娘だよな。なんだか、裏があるかもしれない。

「どうも。真音仁哉です」


「は、始めまして。キアラ・リュッツイです。よ、よろしくお願いします」


 キアラは枕を抱いたまま立ち上がって、声を震わせながら言った。もしかして、緊張しているのか。


「真音様。部屋の中にお入りくださいませ。靴は脱いでください」

「は、はい」


 フギンの指示通りに靴を脱いでから部屋に入った。


 部屋の壁には人間界のアイドルのポスターが隙間無く貼られている。さらに棚にはアイドルグッズが大量に置かれている。


大型テレビの台の下にはアイドルのコンサートDVDが何枚もある。これはまさにアイドルオタクの部屋。それも重度のアイドルオタクのだ。


「す、座ってください」

 キアラは促してきた。


「あ、ありがとうございます」

 僕は座っても良さそうな所に座った。フギンは僕の隣に座った。


 キアラもその場に座った。


「えーっと、僕は彼女のマネージャーになるって事ですか?」

 フギンに訊ねた。


「はい。そうでございます」

「あ、あのちょっといいですか?」


 キアラはおどおどしながら話しかけてきた。

「はい。どうかしましたか」


「真音さんって……真音さんって、美咲琉歌様がデビューする直前までマネージャーされてた方ですよね」


「まぁ、一応。でも、マネージャーと言えるぐらいの事はしてませんよ。レッスンに付き合ったりとかしただけですから」


「きゃあ。本物だ。や、やばい。死んじゃう。どうしよう。どうしよう」

 キアラは枕を口に当てながら言った。


 ……あ、これはあれだ。ガチ勢だ。生粋のアイドルオタクだ。裏はなさそうだ。でも、そんな情報よく知ってるな。


「アイドルがお好きなんですね」


「はい。大好きです。私の生きがいです。人生です。アイドルは人生を明るくします。もう最高なんです。アイドルのダンスや歌を見たり聞いたりすると幸せになれるんです。ライトに当たって綺麗に見える汗とか最高なんです。もうヤバイんです。どんなに嫌な事でも忘れられるんです。もう神です。二ウムヘルデンに神は居ませんけど」


 キアラは枕を口から離して早口で語った。たぶん、アイドルについて永遠と語れるタイプだ。このままずっと語りそうだ。ここで話を切らないと、本題に入れない気がする。


「あのーキアラさん」 

「あ、すいません。つい語ってしまって」


 キアラは謝ってから、枕を抱き締めた。反省しなくてもいいのに。それに別に謝らなくてもいいんだけどな。


「いいですよ。アイドルがお好きなのはわかったので。それで僕がここに来た理由分かりますか」


「マネージャー? えーっと、何のマネージャーでしょう?」


 キアラは首を傾けた。

 可愛いな。普通に可愛いよな。ここが人間界だったら即スカウトするな。


「貴方をアイドルにする為に来ました」

「アイドル? 私が」

「はい。貴方が」


「わ、私がアイドルですか。む、無理ですよ。絶対に無理。見るのは大好きですけど。見られるのは怖いです。絶対に嫌ですよ」


 キアラは全力で否定した。アイドルの素質は絶対にあるのに。勿体無い。


「キアラ様、もうこれは決定事項です」

 フギンは言った。


「いや、いやです」

 キアラは涙を流しながら拒否する。


「拒否権はありません。この国を盛り上げる為です。他の国の王女達もアイドルになっているんです」

「で、でも」


「大丈夫です。真音様が居るので」

「そ、それは」


「絶対に大丈夫ですよね。真音様」

 フギンは「そうですよ」と言えと言わんばかりに目配せをしてくる。


 ……言わないといけないやつじゃん。まぁ、言わないと契約違反だし。人間界の命運を握っているのは僕だし。言うしかないか。


「大丈夫ですよ。僕がアイドルにしますから」

「ほ、本当ですか?」


「はい。本当です」

「……わ、分かりました。頑張ります。怖いですけど」


 キアラはアイドルになる事を了承した。一件落着だ。でも、これからどうしよう。アイドルに育て上げるにはかなり苦労しそうだ。





キアラの部屋をあとにして、人間界に一度戻る為にリムジンが停められている魔王城の駐車場に向かっている。 


「フギンさん。ちょっといいですか?」

「なんでしょう?」


「なんで、他の国の王女もアイドルをしているんですか?」

 さっきの話で気になった部分だ。別に王女がアイドルをしなくてもいいだろう。


「……この世界、二ウムヘルデンでは30年前まで魔族と魔物と妖怪と精霊など言った様々な種族が領土を争い戦争行っていました。その戦争のせいでどの種族の民も大勢死にました。現在世界を統べる王達は戦争を終結させる為に話し合い領土を平等に分け合いました。そして、戦争は無事終結させました。王達は戦争で暗くなった世界を明るくする為に人間界のエンターテイメントを真似て、王女をアイドルにして民を応援する事にしたのです」


「そうなんですか」


 結構重たい理由なんだ。それに僕の役目ってかなり重要な気がする。人間界を護る為でもあるし、二ウムヘルデンのこれからの為でもある。きついな。


「はい。だから、貴方を誘拐しました」

 おい。仕方が無いみたいな言い方するな。誘拐されて脅されて、どうしようもなくなって、キアラのマネージャーをするんだからな。


「は、はぁ。でも、これからどうするんですか?」

「何がです」


「約一ヶ月もこっちに居る理由なんて作るの無理ですよ」


 夏休みだとしても、事務所の仕事がある。それをほっぽりだす事はできない。両親にも事務所の人達全員にも迷惑がかかる。


「それは考えているので大丈夫です」

「本当ですか?」


「はい。お互いに利益を生む最高の案があります」

 フギンは自信満々に答えた。


 あ、怪しい。でも、頼むしかないな。僕には思いつかないから。


「まぁ、それならよろしくお願いします」

「任せてください」


 フギンは口角を上げて、サムズアップをした。

 頼もしいような、頼もしくないような微妙な感覚。それにこっちの世界でもサムズアップするんだな。

なんか容姿とか能力が違うだけであんまり変わらないな。そして、徐々に適応している自分が怖い。





 リムジンが走行している。


 外の景色を見ようとしたが、フギンに見ないようにと咎められた。二ウムヘルデンから人間界に行く方法は企業秘密らしい。見たところで人間の僕に理解できるわけがないんだから見せてくれてもいいのに。なんと言うか、ケチだな。


 リムジンが停車した。


「着きましたよ」

 フギンは助手席から言った。


「はい。ありがとうございます」

 リムジンの後部座席のドアが開いた。


 僕は座席に置いているリュックを手に取り、リムジンから降りて、周りを見渡す。……我が家がある。そして、近所の家も。ここはたしかに人間界だ。本来居るべき世界だ。


 助手席の窓が開き、フギンが顔を見せた。

「それではまた人間界の本日14時にお伺いさせていただきます」


「は、はい」

 本日? 日を跨いでいるのか。


「では失礼」

 フギンは助手席のドアを閉めようとした。


「ちょ、ちょっと待ってください」

「なんでしょう」

 フギンは助手席のドアを閉めるのを中断した。


「リムジン以外で来てくれませんかね」

 さすがに休日の昼間にリムジンは目立ちすぎる。近所の人からの視線が怖いし、うわさになる。


「それは無理です。このリムジンしかありませんので」

「いや、あるでしょう」

「ないです。ではまた」


 フギンは助手席の窓を完全に閉めた。


「……そんな」

 これで僕はちょっとの間リムジンに乗った子になる。調子に乗っていると思われるはず。


近所を歩くたびにどこからかヒソヒソ話が聞こえてくるだろう。辛いな。とても辛いな。覚えとけよ、フギン。


 リムジンが動き出し、数秒もしないうちに煙のように消えた。

 ズボンのポケットから、スマホを取り出して、時間を確認する。スマホのホーム画面にはAM0時32分と表示されている。


 日跨いでるじゃん。僕、未成年だよ。もし、警察が巡回していたら注意されるやつだよ。


マジで最悪だ。高校二年の夏休みはもう史上最悪だと言う事が決定されている。それに人間界の命運は僕に委ねられている。冗談じゃねぇよ。とてつもなく酷い悪夢なんだ、今までの出来事は。


 人間界に戻って、ちゃんと考えられるようになってから混乱してきたぞ。


 悪夢であってほしいから頬を思いっきりつねった。

 ……痛い。びっくりする程に痛い。痛すぎて、涙が出そう。そして、これが現実だと言う事に対しても泣きたい。高校生になって、こんなにも泣きたくなったのは初めてだ。


 あ、弁当どこに行った。誘拐されてから気づかなかったけど、どこ行ったんだ。もう、何もかも面倒くさくなってきた。……寝よう。もう今日は寝よう。

 僕はズボンのポケットから、家の鍵を取って、玄関のドアの鍵穴に差して、回した。

 カチャっと音がして、施錠が解除された。


 ドアノブを引いて、ドアを開けて、家の中に入り、内側からドアを閉めた。そして、靴を脱ぎ捨て、電気も付けずに階段を上って、自分の部屋に向かった。

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