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第17話 同じ顔が1000個


翌日になった。 


チケットはついに完売した。それにライブ当日に発売するグッズの発注も全て終えた。これで後はライブのクオリティーを上げていくだけだ。


 僕とキアラとフギンとライブ関係者はライブハウス・マホロバで本番を想定した練習の準備を行っている。


 キアラは控え室で衣装に着替えている最中。


 音響スタッフや照明スタッフは機材前に待機している。その他のスタッフは舞台袖やステージ前でカメラを構えたりしている。


「あのーフギンさん」

 隣に居るフギンに話しかけた。


「なんでしょうか?」

「キアラがいきなり1000人の前に立ったら緊張しまくると思うんですよ」


 普通は小規模のライブハウスで数十人からの人数で馴らしていかないと。そうしないと、観客のエネルギーにアイドルが負けてしまう可能性がある。


でも、キアラは魔王の娘だから、そんな事は出来ない。


「まぁ、そうですね」

「だから、関係者を何人か入れて練習はできませんか。出来れば数百人単位で」


 魔王軍や魔王城に勤めるコックやメイドを呼べばどうにか出来ると思う。さすがに難しいか。無茶をお願いしてるのは分かっている。


「それは無理です」

「そうですよね。すいません。無理言って」 


「ですが、ここ埋める事はできます」

「埋めることは出来る?どう言う事です」


 関係者を呼べないなら、どうやっても観客席を埋めることはできないだろう。


「私が魔法で1000人に分身します」

「分身。そんな事が出来るんですか。でも、同じ顔が1000人は怖いですよ」


 想像するだけでホラーだ。軽くトラウマもんだ。キアラだって、怖がる。


「まだ最後まで言ってませんよ。その1000人全員変化魔法をして、色んな世代の男女になります。それなら大丈夫でしょ」 


 たしかにそれなら最高の練習になる。でも、魔法使った状態で魔法使えるなんて。凄いな。


「……はい。それが出来るならお願いします」

「かしこまりました。ではタイミングはいつにしますか?」


「僕が言いますのでそれまで待ってください」

「承知しました」


 ――数分が経った。

 ブラウンとベージュのタータンチェックの衣装に着替えたキアラが舞台袖から出て来た。


「おはようございます」

 キアラはスタッフ達に挨拶をした。


「おはようございます」

 スタッフ達も、キアラに挨拶を返す。


「それじゃ、キアラにマイクをつけてください」

「了解です」


 音響スタッフがステージ上に居るキアラのもとへ向かい、ピンマイクを付け始める。


 キアラは初めて付けられるピンマイクに少し驚いている。


「仁哉さん。ピンマイク付け終わりました」

「ありがとうございます」


 音響スタッフはステージから降りて、機材のもとに戻った。


「それじゃ、マイクテスト始めます。キアラ、何でもいいから声を出して」


「う、はい。キアラ・リュッツイです。好きなアイドルは美咲琉歌さんです。今日の目標は昨日の自分を越えるです。よろしくお願いします」


 マイクにちゃんと声が乗っている。OKだ。


「キアラ、OK。今からちょっとホラーな現象を見るかもしれないけど気にしないで」

「ホラー?どう言う事?」


 キアラは首を傾けた。


「見れば分かるよ。フギンさんお願いします」

「承知しました。では、分身します。ベルクロ」


 観客席に無数の魔法陣が現れた。そして、その魔法陣から大量のフギンが出現した。


 同じ顔がこれだけ居るなんて怖い。怖すぎる。うん。ちょっとの間これは引きずってしまうトラウマだ。今日寝たら夢に出てきそうだ。


「む、無数のフギン……こ、怖い」


 キアラは気を失いそうになっている。きっと、ステージ上から見た方がもっと怖いのだろう。だって、同じ顔が1000個、自分の事を見ているんだから。


「フギンさん」

「はい。なんでしょう」


 フギン1000人が僕に訊ねて来た。


 や、やばい。これは無理だ。キアラはこれを体験したのか。申し訳ない事をした。は、早く変身させないと。身が持たない。


「へ、変身して。一秒でも早く」

「かしこまりました。それでは変身します。メタトル」


 フギン1000人の足元に魔法陣が現れた。そして、みるみるうちに姿が変わって行く。


「これでどうでしょうか?」

 変身したフギン1000人は訊ねて来た。老若男女バランスよく変身してくれた。これはありがたい。けど、もう、1人だけ答えてくれ。一回の言葉が合唱になって、うるさい。


「OKです。キアラ、大丈夫?」

「ひ、人がいっぱい」


 キアラは放心状態になっている。仕方が無い。こんな人数の前に立つ事なんて普通はない事だ。逆にこの人数でびびらずに楽しんでいたら、それは化け物だ。


「ライブ本番はこれと同じ人数入るから」

「え、うそ。に、逃げる」

 キアラはステージ袖に逃げようとしている。ちょっと、慣れさせ方間違えたかな。


でも、本番前にこの人数の前で練習出来る事なんて普通は有り得ない。だから、かなり恵まれているんだよ。キアラ。


「逃げちゃ駄目だよ」

「仁哉のいじわる」


 キアラは他の人がいる事を忘れている。かなり余裕がないみたいだ。


「真音マネージャーね。それにいじめてないよ」

「で、でも」


「大丈夫。ここに居るのは君の味方だ。誰も攻撃しないよ。だって、フギンさん1000人だよ」

「そ、そうだけど」


「それにね。今は練習だ。どんなミスをしても誰も君を責めないよ。だから、全力でトライしてこの人数に慣れよう。そうすれば本番でもいいパフォーマンスができるはずだから」


「う、うん」

 キアラはステージ袖に逃げるのを止めた。


「よし。それじゃ、練習していこうか」

「ちょ、ちょっと待って」


「どうしたの?」

「本番当日、ステージから逃げ出したくなったらどうしたらいい?」


 キアラは不安げな表情をして訊ねて来た。まぁ、そうだよな。本番と練習の緊張感は全く違うからな。


「うーん。そうだな……あ、僕が舞台袖に居るよ。そうすれば舞台袖に逃げられないでしょ。だって、逃げてきたら僕がまたステージに戻すから」

「鬼、悪魔、魔族」


 君がそれを言うか。それに僕は人間ですから。


「考えてみてよ。一番近い場所で……傍で応援してるって事だよ」

「……傍で応援してくれてる」


「そう。もし、ミスったら僕の方を見ればいい。どうにかするから」

「ほ、本当?」 


「本当だよ」

「……わかった。頑張ってみる」

 ちょっと落ち着いたように見える。納得してくれたみたいだ。


「うん。それじゃ、皆さん。練習していきましょう」

「おう。行きましょう」


「かっこいいですよ。真音さん」

「いつでもOKです」

 スタッフ達は僕の言葉に答えてくれた。みんな真剣な表情をしている。いい練習が出来そうだ。


「キアラも気合入れて」

「お、押忍」


 キアラは大声を出した。けど、大声を出し慣れていないせいか声が裏返ってしまった。


「いいよ。声は裏返ったけど」

「う、うるさい。仁哉の馬鹿」


 キアラは顔を真っ赤にして言った。とても恥ずかしかったのだろう。でも、こんなふうに言い返してくるのは初めてだ。

 

心を開いてくれている証拠なのかもしれない。


 スタッフ達は笑うのを堪えている。みんな大人だ。笑うとキアラが機嫌を悪くするかもしれないと分かってくれている。


「真音マネージャね。言い返す力があるなら1000人の前でも大丈夫」

「うるさい。うるさい。もう練習始めよう」


 キアラは頬を膨らませた。もしかして、怒っているのか。自分のせいじゃないか。


けど、最初会った時に比べれば感情が表に出るようになった。もっと感情が出るようになれば最高なんだけど。


「はいはい。じゃあ、音楽お願いします」

「了解です。音流します」


 音響スタッフが機材のスイッチを押して、曲を流す。


 ステージ上に居るキアラの表情が変わった。先程までとは別人に思えるぐらい真剣な顔をしている。このスイッチの切り替え方。キアラはプロのアイドルになりつつある。


後は自信をつけるだけだ。そうすれば1000人でも一万人でも何人の前でも最高のパフォーマンスができるはずだ。


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