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第16話 親バカな魔王


一週間が経った。


 キアラのテレビでのお願いと他の宣伝のおかげでチケットが800枚程売れた。宣伝の効果は思った以上に出た。


それにあの一回のテレビ出演のおかげでファンクラブまで発足したらしい。チケットが完売するのも時間の問題かもしれない。


 キアラは今日から衣装を着て練習をする。


 レッスンスタジオには音響、照明、衣装、美術、その他の部門のスタッフ達が居る。タイムスケジュールや当日の音出しのタイミングや照明の当てるタイミングや演出などを決めていく。


その為、壁一面の鏡の前には長テーブルが置かれて、その前の椅子に各スタッフ達が座っている。そして、その中央に居座っているのが僕。


ライブの全スタッフの統括及び演出を任されてしまったせいでだ。最初、フギンに言われた時は驚いた。だって、僕はマネージャーだぞ。


管轄外で断ろうとしたが、人間界のアイドルのライブみたいにしたいから適任は仁哉君しかいない。そう言われ丸め込まれた。


 レッスンスタジオのドアが開き、ブラウンとベージュのタータンチェックの衣装を身に纏ったキアラが中に入って来た。


 衣装の着替えの時間も考えないといけないな。何人のスタッフが居ればスムーズに着替えられるだろう。結構これで暗転の長さとかが変わってくるしな。


「よ、よろしくお願いします」

 キアラはスタッフ達に挨拶をした。


 スタッフ達も各々「おねがいします」と挨拶を返した。


「キアラ・リュッツイのマネージャーをしています。真音仁哉です。今日からライブ本番に向けて頑張っていきましょう。何かアイデアがあれば言ってください。よろしくお願いします。それでは始めて行きましょう」


 僕は椅子から立ち上がって、言った。

 スタッフ達は拍手で返事をした。


「まず最初は板付きでスタンバイ。様々な色のライトをキアラに当てる。そして、全ての色のライトがキアラに集まる。集まった瞬間に曲を流して、明転でいきましょう」


 スタッフ達が進行表に演出内容を書いていく。


「ライトの色は赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の7色でよろしいでしょうか?」

 照明のスタッフがアイデアを出してくれた。


「いいですね。虹みたいで。最後に集まった7色が虹色になるとかって出来ます。魔法とかで」

「大丈夫ですよ」


「それじゃ、それでお願いします」

「了解です」


「じゃあ、キアラ一回歌はなしでいいから踊ってみて」

「うん。いや、はい。でも、出来れば歌ってみたいです。人前でまだ歌って踊ってないので、少しでも早く慣れたいので」 


 キアラは自分の意見をちゃんと言った。それに二人の時じゃないから気をつけて敬語も使っている。集中出来ているな。


「分かりました。それでは歌ありでダンスをお願いします。ですが、ミスっても止めないで」


「はい」

「それじゃ、音をお願いします」


「了解です。音流します」

 音響スタッフが機材でオープニング曲を流す。オープニング曲がレッスンスタジオ中に鳴り響く。


 キアラはダンスをしながら歌う。


 声は緊張からか震えているがやはり上手い。ダンスも最初は人前に立ってないレベルだったが今ならいつでも人前に立っても大丈夫なレベルにまで来ている。


あの短期間でよくここまで成長したと思う。それはキアラの努力の成果だ。見ていて、泣きそうになってしまった。でも、まだ泣くのは早い。本番が終わるまでは泣くのはお預けだ。それにキアラの前では泣きたくないし。




5日が経った。


 スタッフ達との練習を3回したおかげで当日の流れがある程度決まった。あとはライブハウスに行ってからだ。


 キアラもスタッフ達の前で練習をしていくにつれて、緊張しないようになってきた。


 チケットも100枚以上が売れた。あともう少しで完売だ。いい感じに事が進んでいる。


ちょっと、出来すぎのような気もするが。何か悪い事が起こりそうな予感がする。


いや、そんな事を考えてたら悪い事が本当に起こるかもしれないから考えるのはやめとこう。けど、魔王の間の前だから色々と考えてしまう。


「あのーフギンさん。なんで、僕は魔王に呼ばれたんですか?」

「分かりません。呼ぶように言われただけなので」

 フギンは指示を受けただけのようだ。


「そうですか」

「それじゃ、入りますよ」


「は、はい」

 フギンは魔王の間の扉を開けた。僕はフギンと魔王の間に入る。


 視界の先には玉座に座る魔王ルシファーと女王アルテミアが居る。

「真音仁哉様をつれてきました」


「ご苦労」

 僕とフギンはルシファーとアルテミアの前に行く。


「真音仁哉。いや、これからは仁哉と呼ばせてもらう。よく来てくれた」

 ルシファーは優しい口調で言った。


「あ、はい」

 あれ、ルシファーてこんな人だっけ。もっと、傍若無人な人だった気がするんだけど。


ちょっと裏がありそうで怖い。


「キアラはだいぶ変わった。街も見違えるように活気に満ち溢れている。何もかも君のおかげだ。この国を治める魔王として、父として礼を言う。ありがとう」 

 ルシファーは玉座から立ち上がって、僕に頭を下げた。


「え、あ。は、はい」

 想像もしてなかった事が起こってパニックだ。

ほ、本当にこの人はあの魔王ルシファーなのか。何か変な食べ物を食べたのか。


誰かに変な魔法をかけれたのか。それとも、何か違う要因か。不明だ。真相は不明だ。


「私が礼を言うのに驚いているのか」

 ルシファーは顔を上げて、訊ねて来た。


「……正直に言えばそのとおりです。あ、あれですか。僕、ここで殺されるんですか?この前の暴言のせいで」


「ハハハ、そんな事はしないさ。ただ感謝を伝えたかったのだ」


 ルシファーは笑いながら言った。この人も笑うんだな。ちょっと、笑い方は怖いけど。


「そうですか。それなら、そのまま受け取らせていただきますと言いたい所ですがまだ受け取れません」

「なぜだ?」


「キアラのライブが終わってませんから」


 そうだ。ここで感謝を受け取れば気持ちに変な驕りが出る。


そうすればキアラに真摯に向け合えない。そんな事があってはいけない。だから、僕はまだ礼は受け取れない。


「そうか。それもそうだな。さすが、キアラのマネージャーだ」

 ルシファーは玉座に座った。


「はい」

「それにしてもあれだな。早く本番になってほしいな。あー可愛い可愛い我が娘の晴れ姿を早くみたい。なぁ、アルテミア」


「もう楽しみで楽しみで仕方が無いわ」

「衣装は数着あるらしいな」


「全部記念撮影しないとね」

「あぁ。それにな。最近、ちゃんと私の顔を見て話してくれるんだ。もう、それが嬉しくて嬉しくて」

「そうね。あんなふうに仁哉君の事や練習の話をしてくれるなんて」


 あれー僕を置いて、魔王夫婦で話が盛り上がってるぞ。それにもしかして、これは人間界で言う親バカってやつか。きっと、そうだ。


「あ、すまない。我が娘の事で盛り上がってしまって」

「ごめんなさいね。たぶん、私達貴方の世界で言う親バカなの」


 自覚済みみたいだ。それはそれでめんどうだけど。

「ははは。お二人共素敵ですよ」


 苦笑いしながら言葉を選んで言った。変な事を言って、機嫌を損なうのだけはごめんだ。


そうなると、魔王に色々とやってもらえなくなる。


「そうか、そうか」

「嬉しい事言ってくれるわね」


「でも、あれだぞ。キアラに手を出したら分かってるよな」


 魔王はいきなり眉間に皺を寄せた。なんだよ、その感情と表情の緩急は。心臓が止まってしまう。貴方、自分の顔の怖さ自覚してます?絶対にしてないよね。


「わ、分かってますよ。僕はマネージャーですよ。アイドルに手を出すなんて、ご法度中のご法度ですよ。ハハハ」

 表面上は笑っているが、心の中ではかなりびびっている。


「そうだよな。長年芸能事務所とやらに居るんだもんな。すまない。すまない」


「は、はい」

「それじゃ、本番まで頑張ってくれ」


「はい。頑張らせていただきます」


 久しぶりに思い出した。僕がライブ成功させないと、人間界はこの人によって、消滅されるかもしれないんだ。気を引き締めないと。ある意味で今日魔王に会えてよかった。


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