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第1話 シューベルトの気持ちが分かった瞬間


お父さん、お父さん、目の前に魔王が居ます。ついでに女王と魔王の娘も。嘘なんかじゃありません。確かに目の前の玉座に座っているのは魔王と女王。


 その二人の傍で立っているのは魔王の娘なんです。


 女王はかなりの美人です。驚く程に艶のある黒髪。肌は雪のように白い。


 弊社に居る女優よりも綺麗だと思います。娘は1000年に一度の逸材だと言ってもいい程に綺麗です。黒い髪も白い肌も美しい。


まぁ、ちょっと目つきがきついですが。魔王から受け継いだ要素は0です。


 魔王は百獣の王のような鋭い眼光で睨んできた。

 やばい。ちびりそう。


だって、普通に怖いんだもの。金髪のライオンヘアーはライオンのたてがみにしか見えないし。


それに明らかに身体のサイズが違う。玉座に座っている魔王の方が僕よりも大きい。


これって、もしかしたら、魔王が玉座から立ったら、僕の倍ぐらいの身長があるのかもしれない。


それって、身長が3メートル50センチはあるって事だ。ありえない。ありえて欲しくない。


 それに顔も怖いし、威圧感もあるし、いつ殺されるか分からない緊張感が漂っている。


 僕はきっと現代の人間の中で一番シューベルトの気持ちが理解出来るだろう。

「人間。なぜ、お前がここに連れて来られたか分かるか」


 魔王は重厚感のある声で訊ねて来た。

「えーっと、分かりません」


 分かるわけがない。だって、家の前で誘拐されたんだぞ。ここが魔界。いや、二ウムヘルデンと言う場所である事を飲み込むので精一杯なのに。


「お前に頼みたい事がある。いや、命令だ」

「……命令ですが」


 偉そうだな。声に出して言えないけど。あー断りたい。だって、異界の地だぞ。ニウムヘルデンだぞ。


「あぁ、そうだ」

「もし、もしの話ですよ。僕が命令に背いた場合何かあるんですか?」


「人間界を消滅させる。ただそれだけだ」

 魔王は掌の上で火球を作り始めた。火球のサイズはどんどん大きくなっていく。


「それって本当ですか?」

 ……え、ちょっと待って。人類、いや、地球上の生物の命運は僕の選択で決まってしまう。やばくねぇ。やばすぎるでしょ。


「なぜ嘘をつかないといけない」

「そうですよね」


 嘘であってほしかった。これはただの脅しだ。もうやだ。


「命令に従うか」

「はい。命令に従います。命令に従わせていただく所存でございます」


 食い気味で言った。だって、この選択しかないじゃないか。人類を守る為には、これしかない。


「正しい選択だ」

 魔王はにやりと笑った。本当にげすい笑い方だ。こう言う大人にはなりたくない。まぁ、魔王だから人間じゃないけど。


「……それで命令はなんですか?」

「娘を約一ヶ月後に開催するライブのステージに立てるように育ててくれ」


「……はい?」

 どう言う事。話が飲み込めません。冗談を言っているのですか、この魔王は。


「可愛い可愛い愛娘をアイドルにしてくれと言っているのだ」

「は、はぁ」


「お前は人間界の芸能事務所ファミリア・プロモーションの敏腕マネージャーなんだろ」


「……敏腕かは分かりませんが、両親の手伝いはしてます」


 どうやって調べたんだ。個人情報の保護はどうなっている。

「お前の実績は調べた。お前は敏腕だ。だからこそ、こうやって命令しているのだ」


「あ、ありがとうございます」

 褒められた。ちょっと嬉しい。けれど、この状況は全く嬉しくない。


「それじゃ、可愛い愛娘を頼むぞ」

「は、はい」


「手を出したら分かってるな」

「はい。分かっています。それで僕が担当する娘さんはそちらの方ですか?」


「私じゃないわ」

 魔王の娘は色っぽい艶のある声で否定した。


「エヴィはもう一流のアイドルだ。1人で出来る」

「それじゃ、まだ娘さんが居るんですね」


「あぁ、部屋の方に居る」

「そうですか」


 女王とエヴィさんと一緒で美人ならいいんだけど。もし、魔王より強面が出て来たら死んでしまいそうだ。いや、死ぬな。


「早速会いに行って来い」

「あ、はい。分かりました」


 魔王達に頭を下げ、この部屋から出る為に扉の方へ歩き出した。


 ……ちょっと待ってよ。大事な事を忘れているぞ。

 僕は立ち止まり、振り向いた。


「なんだ」

 魔王は不思議そうな顔をして、訊ねて来た。


「契約書を書いてください」

「契約書だと」


「はい。口約束はいけません。災いのもとです。だから、契約書を書いてください」


「必要か?」

「必要です。絶対に必要です」


 僕は魔王に詰め寄って言った。我ながら恐ろしい事をしていると思う。でも、契約書がないとよろしくない。芸事は契約で成り立っているのだ。


「わ、わかった」

「それじゃ、契約書に書いてもらう項目を三つ言わせてもらいます」


「ちょっと待て。フギン来い」


 扉が開き、背中から鴉の羽を生やしたスーツ姿の中年男性が飛んで来た。


 あ、僕を誘拐した張本人だ。この人に、いや、こいつに誘拐されて、ここに連れて来られたんだ。いま、こいつの顔を見て、いらっとした。


「なんでしょうか」

「契約書を作れ。こいつの言うとおりに」


「は、はい」

「では言っていいでしょうか」


「どうぞ」

「まず一つ目、魔王の娘のライブが終わるまで、この世界の住人は僕のアイドル育成方法に口出しをしない。二つ目は魔王の娘のライブが終わるまで魔王はライブに必要な資金を支払う事。三つ目は魔王の娘のライブが終わるまでいかなる事があっても人間界を破壊する事を禁ずる。以上でお願いします」


「ルシファー様、どうなされますか?」

「仕方が無い。いいだろう」


 思った以上にそんなりと魔王が了承した。

「それじゃ、それで契約書を作ってください」


「畏まりました。それでは作成します」

「契約書を発行します」


 フギンの掌に魔法陣が現れた。そして、魔法陣から契約書と朱肉が現れた。


「それではルシファー様と真音まおと殿、判を押してください」


 魔王と僕はそれぞれ親指に朱肉をつけて、契約書に判を押した。


「これで契約成立です」

「それじゃ、頼んだぞ」


「はい。分かりました。フギンさん、部屋へ案内してください」

「私について来てください」


「了解です」

 僕はフギンの後について行き、部屋をあとにした。


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