第3話: 「会計スキルで異世界の経済を立て直せ!? 商人ギルドの逆襲」
「またもや派遣先が異世界かよ…」
涼は派遣会社からの連絡を受け、再び異世界に向かうこととなった。前回は税務局の膨大な書類整理に巻き込まれ、無理やり「魔法士」として扱われたが、今回は「商人ギルドの帳簿整理」とのこと。
「商人ギルドって…何をするところなんだ? まあ、金に関することだろうけど…また面倒な仕事か?」
前回の“魔法の表計算士”としての活躍(?)を思い返しながら、涼はため息をついた。異世界の仕事はどうにも現実のそれより無茶な気がしてならない。
◇◇◇
涼が到着したのは、異世界の中心地に位置する巨大な商人ギルド。商人たちが取引を行い、商品の売買や貿易の管理を行っている組織である。だが、涼が入るや否や、ギルド内は騒然としていた。
「おい、帳簿が全然合わないぞ!」
「利益がどこに消えたんだ!?」
「どうしてこんなに税金を払っているのに、手元に何も残らないんだ!?」
商人たちが怒りや不安を隠せずに叫んでいる。帳簿がズタズタにされ、金の流れが全く把握できない状態に陥っていたようだ。
「こりゃひどいな…現実のブラック企業どころの話じゃないぞ…」
涼は現場を見て呆れると同時に、ギルドの混乱がどれほど酷いかを実感した。
「えっと、俺が頼まれたのは…この帳簿を整理して、商人ギルドの経済を立て直すってことか?」
リリーからの指示書を再確認する。やはり、涼の仕事はこの混乱した帳簿を整理し、商人ギルドの金の流れを正確に把握することだった。
「なんで俺がこんなことを…ただの派遣社員なんだけど…」
涼が小さく愚痴をこぼすと、その時、ギルドの会計担当者らしき男が駆け寄ってきた。
「あなたが“魔法士”か!?我々の帳簿を何とかしてくれ!」
「いや、魔法士じゃなくてただの会計担当なんだけど…」
再びの“魔法士”呼ばわりに、涼はがっくりと肩を落とした。
◇◇◇
「さて…とりあえず見てみるか…」
涼はノートパソコンを開き、目の前の混乱した帳簿を手に取った。膨大な数字が乱雑に書き込まれた帳簿を眺めながら、彼は眉間にシワを寄せた。
「こりゃまた、適当すぎるだろ…どこがどうなってるんだか全然わからないじゃないか…」
彼はさっそくExcelを起動し、帳簿の数字を整理し始めた。商品の仕入れ値や販売価格、税金の支払額など、すべての数字を細かく入力し、金の流れを把握していく。
「あれ?これ、商品ごとの利益が全然出てないじゃん。どっかでお金が消えてるな…」
涼はスクリーンを見つめながら、異世界の商人ギルドの問題に気づいた。どうやら、商品を販売しても利益が手元に残らない仕組みになっているらしい。
「おいおい、これは現実世界の詐欺と同じじゃないか…」
彼が気づいたのは、ギルドの一部の商人たちが裏でこっそりと利益を吸い上げ、他の商人たちに負担を押し付けていた事実だ。帳簿を改ざんし、見かけ上は健全に見せかけているが、実態は酷いものであった。
「これは間違いなく、金の流れが怪しすぎる…」
涼はさらに詳細なデータを入力し、ギルドの経済を一から再構築するための計画を立て始めた。
◇◇◇
「できた…」
数時間後、涼はついにギルドの帳簿をすべて整理し、金の流れを明確にした。そして、商人ギルドの会計担当者に報告書を手渡す。
「これが現状のギルドの経済状況です。問題は、利益が一部の商人たちによって独占されていることです。つまり、この帳簿に書かれた数字は全部嘘です」
「嘘…だと!?そんなことが…」
会計担当者は驚愕の表情を浮かべ、涼が作成した報告書に目を通した。
「それじゃ、俺たちはずっと搾取されていたってことか…?」
「そうだ。誰かが裏で利益を吸い上げて、他の商人たちにはほとんど還元されていない状態になってる。君たちがいくら働いても、利益が出ない理由はこれだ」
涼は淡々と説明したが、商人たちは次々に怒りを爆発させた。
「ふざけるな!一体誰がそんなことを!」
「このギルドを牛耳ってる奴を見つけ出して、徹底的に追求してやる!」
商人たちは口々に怒りの声を上げ、ギルド内が再び騒然となった。
「まあまあ、落ち着けって。今は冷静に対策を考える時だ。まずはギルド全体でこの金の流れを正して、正当な利益が商人全員に行き渡るようにしないと」
涼は冷静に商人たちを説得し、ギルドの帳簿を再編するための計画を提案した。彼の案により、汚職を行っていた一部の商人たちは次々に暴かれ、ギルドは浄化されていく。
◇◇◇
その後、涼の指導のもと、ギルドの会計システムは一新され、商人たちの間に公正な取引が広がった。商人ギルドは経済的に健全な状態を取り戻し、徐々に復興していった。
「ふぅ…なんとか帳簿を立て直したけど、やっぱり大変だな」
涼はギルドの復興を見届け、ほっと胸を撫で下ろした。商人たちも彼の働きに感謝し、彼を「経済の救世主」として称えるようになった。
「救世主って…ただの派遣社員なのにな…」
涼は再び自嘲気味に呟きながらも、少しだけ異世界の人々に感謝される喜びを感じていた。
◇◇◇
その日の帰り道、涼は異世界の市場を歩きながら、商人たちの活気に満ちた声を聞いた。帳簿が整い、公正な取引が行われるようになったことで、市場全体が生き返っていたのだ。
「ふむ…なんだかんだで、ちょっといい仕事をした気がするな」
そう思いながらも、次にどんな無茶な依頼が舞い込んでくるのかを想像し、苦笑いを浮かべた。
「ま、次もどうせ大変な仕事なんだろうけど…」
異世界での仕事はまだまだ続く。涼はこの不思議な異世界で、次はどんな挑戦が待っているのかを期待半分、不安半分で思い描いていた。