第1話: 「俺の派遣先が異世界なんて聞いてない!」
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「…ん?ここは?」
涼は目を開けると、見慣れない天井をぼんやりと見上げた。硬いベッドに横たわり、木の梁が交差する天井。見慣れない装飾品が並んでいる室内に、涼は一瞬、自分がどこにいるのか理解できなかった。
「なんでこんなところにいるんだ、俺…?」
涼は寝ぼけた頭をかきながら周囲を見回す。目の前に広がるのは、どう見ても普通のオフィスとは違う場所だ。いや、むしろオフィスとは真逆の場所。むしろ、ゲームやラノベの中に出てきそうな…そう、まるで異世界のような場所だった。
「いやいや、あり得ないだろ…」
涼は自分自身にツッコミを入れたが、胸の中に広がる違和感は消えない。確か、涼は今日、普通に仕事をしていたはずだ。派遣先で書類整理をし、上司に提出して、終わったら家に帰ってゲームでもするつもりだったのに。
「おかしい…おかしいぞ…」
そして、涼は目の前に座っている妙に元気そうな女の子に気がついた。
「やっほー!目が覚めたみたいね!ようこそ、異世界へ!」
「…異世界?」
涼は一瞬、彼女の言葉を理解できなかった。というよりも、信じたくなかった。
「ちょっと待って…今、何て言った?」
女の子は涼の反応を見てケラケラと笑った。
「だから、異世界だって!ようこそ、異世界派遣会社へ!」
「え?異世界派遣会社…?」
涼はぽかんとした表情を浮かべ、口をパクパクさせたが、頭の中で事態を整理しようと必死だった。
◇◇◇
「つまり、俺が働いていた派遣会社って…ただの現実世界での派遣じゃなかったってことか?」
涼はようやく全貌を理解し、目の前の女の子――リリーが説明した内容を反芻した。どうやら、涼が働いていた派遣会社は“異世界”向けの派遣会社だったらしい。もちろん、彼にそのことは一言も知らされていなかった。
「そもそも、異世界なんて現実にあるわけ…」
「ほらほら、そんな細かいことはいいじゃん!異世界なんて、みんな憧れるでしょ?それに、あなたがここで活躍すれば、現実世界での評価もグーンと上がるかもよ?」
リリーが軽く肩を叩きながら言うが、涼は納得できない。
「いや、そもそも俺、現実世界で普通に暮らしてたし、異世界での派遣とか聞いてないんだけど…」
「まあまあ、そういうこともあるって!ほら、異世界ではスキルが重要視されるから、あなたの“会計処理スキル”とかきっと役に立つはずよ!」
「…会計処理?」
涼は思わず耳を疑った。異世界と言えば、剣や魔法、戦闘が当たり前の世界だと思っていたのに、なんで“会計処理”なんて地味なスキルが役に立つのか?
「いやいやいや、俺が知ってる異世界ってさ、勇者とか魔法とか…」
「そうそう!でも異世界でも帳簿の整理とか、税金の処理とか、意外と地味な仕事がたくさんあるのよ。だからこそ、あなたのスキルが求められてるの!」
リリーは満面の笑みでそう言ったが、涼は全く納得できなかった。
「まさか…会計処理で異世界を救うってことか…?」
「その通り!まあ、救うっていうか、現地の役人とか商人たちのサポートがメインだけどね。」
「…地味だな」
涼は頭を抱えた。異世界での派遣仕事が会計処理なんて、そんな夢のない展開を想像していただろうか?しかし、現実はこれだ。
◇◇◇
「さて、そろそろ派遣先に行く時間だね!」
リリーが涼に向かって声をかけた。
「派遣先?どこだよ…」
「今回のお仕事は、とある王国の税務局での書類整理!あなたのExcelスキルが炸裂する場面ね!」
「エクセル…って、異世界にパソコンあんのかよ!?」
涼は大きくツッコミを入れたが、リリーは軽く流している。
「まあまあ、そんなこと気にしない!魔法でなんとかなるって!」
「いやいや、ならないから!」
「大丈夫!あなただけじゃなくて、他にも派遣された人材がいるから安心して!」
「…他にも?」
リリーの言葉に驚いた涼は、その場で立ち上がった。
「そう!実はあなたの同僚たちも異世界に派遣されてるのよ。みんなそれぞれ、自分のスキルを活かして異世界で頑張ってるんだから!」
「マジでか…そんな話、全然聞いてなかったんだけど…」
涼は再び頭を抱えた。まさか、自分がいつも顔を合わせていた同僚たちが、異世界で大活躍しているなんて、全く想像もしていなかった。
「で、俺のスキルって本当に役に立つのか…?」
「もちろん!だって、異世界にはちゃんとした会計や管理システムがなくて、みんな困ってるんだから!あなたのExcelスキルがあれば、税務局の混乱も一瞬で解決よ!」
「それ、逆に俺が異世界を混乱させるんじゃ…」
涼は心の中で不安を抱えながらも、結局派遣先へと向かうことにした。
◇◇◇
「よし、いざ異世界の税務局へ!」
リリーの掛け声と共に、涼は異世界へのゲートをくぐった。そして、次に目にした光景は…
「……うわ、マジで書類の山じゃん」
異世界の税務局は、まさに書類で埋め尽くされていた。涼の目の前には、積み上げられた書類の山々が広がっていた。
「おい、これどうなってんだよ…!」
涼は思わず悲鳴を上げた。これじゃ異世界どころか、ただの地獄じゃないか。
「はいはい、頑張って!あなたの仕事はこの書類を全部整理して、税金の処理を正確にやること!」
リリーはにこやかに言い放ったが、涼は愕然とした。
「これ、本当に俺一人でやるのか…?」
「大丈夫、あなたには“スキル”があるでしょ?」
「…スキルって、Excelじゃねぇか!」
涼は叫んだが、周りの役人たちは涼の“スキル”に期待の目を向けている。
「お願いします!この書類を整理して、王国の財政を立て直してくれ!」
「いや、俺ただの派遣社員なんだけど…!」
涼は叫びながらも、目の前にある書類の山に手を伸ばした。
「こうなったら…やるしかないか…」
涼は腹を括り、異世界初の“会計処理スキル”を発動させることにしたのだった。
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第1話 完
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次回、涼のExcelスキルが異世界で爆発する!?