37 噂の効き目
イリスはアーレスの言葉に微笑むと、
「そうですね。元々王族も官吏も仕事が多岐に渡るのですから、それに合わせた省庁を構える事で余暇ができて、週休2日制度が定着したのはラッキーでしたわね」
2年前を思い出すように目を閉じた。
「週休2日制と夏冬の長期休暇制は定着するのに揉めたけどね。有給休暇制度はすんなりだったのになあ」
「あまり気にしない者が以前は多かったけれど、適度な休息は次の仕事への活力に繋がりますし、何より家族や親しい者との交流する良い時間が保てますわ。皆が幸せなことが国を豊かにするのですから」
そういいながら書類に視線を戻し微笑むイリスを、愛おしそうに眺めながら態とらしく咳をするアーレス王太子。
「どうされました?」
書類から目を離し、キョトンとして王子を仰ぎ見る菫色の瞳。
「その理屈からすると」
「はい?」
「君にとっては、王族もそうあるべき、という事になるのかな?」
此方を見るアーレスの目が嬉しそうに輝いている。
「勿論ですわ殿下。私が殿下の元に嫁いだ時に、お互いに仕事漬けで仲が悪くなるという事のないように、嫁ぐ迄の2年間でしっかり国そのものを成長させたのですから」
彼女はクスクスと笑うと、後ろをついて歩く侍従に手に持っていた書類を渡し、アーレスの頬に唇を寄せる。
嬉しそうに彼女を抱きしめるアーレス王太子の後ろで砂糖をゲロる侍従。
そして周りの臣下たち・・・
メイド達は王城名物の王太子夫妻を拝むために、廊下の柱の影から覗いてうっとりしている。
後でメイド溜まりでもある給湯室や家事室で自慢するのだろう。
この2人のイチャコラぶりを日に3回見られると、恋愛が成就するという何とも怪しげな都市伝説まであるのだ・・・
実の所、王城全体が彼らのイチャコラぶりを圧倒的に支援する方向性を保たせるためにこの噂を撒いたのはイリス本人である。
王城勤めの臣下や使用人達が自分達の幸せのためにこの2人に亀裂を入れようとする輩を自動的に排除するよう画策したのだ。