30 媚薬
王族として生まれた者の責務として、多少なりとも毒に対する免疫は必要であり、王国中に存在する毒と名のつくものは殆を経験する事が義務付けられている為、多少の事なら凌げるアーレス王子と比べて貴族令嬢であるイリスはそんな事は経験していないだろう。
いま自分の中に渦巻く渇望は紛れもなく媚薬である、と彼は結論づけた。
彼女を抱き上げて部屋の端にある寝台に運ぶと、両肩を抑えて震えるイリスを横たえると
「少しだけ離れるよ」
と耳元で囁く。
イリスの剥き出しの肩が彼の声にぴくり、と反応したのが分かった。
寝台の上から垂らされたカーテンを閉め彼女が人目に晒されないように配慮した。
水差しを手にドアの外に顔を出すとドアの両脇に立っていた近衛騎士の片方にそれを渡す。
当然、手渡された騎士は困惑の表情になる。
「媚薬だ。侍医を呼べ」
一言告げると、近衛は一礼して水差しを抱えて小走りに走っていく。
残った近衛騎士の方に向かい
「侍医以外は誰も入れるな」
王子がドアを閉めると、近衛騎士は黙ってドアに向け一礼した後、閉じたドアの前に仁王立ちになった。
ここは現実の世界だが、何処か残り香のようにゲームのシナリオに則した部分も存在する。
ピンクブロンドの男爵令嬢が下町にあるアイテムショップで遠い皇国から輸入した媚薬を手に入れたのは実に3日前のことである。
シナリオでは、女嫌いとされていたアーレスを堕とすための最終手段としてこの媚薬が存在していた。
流石はR18ゲーム。その辺は抜かりがないらしい・・・
ただ、やはり現実なのでゲームのポイントで交換出来る様な仕様ではなく高額な支払いを請求された。
粗悪品なら安いものもあるが副作用があったり、内臓に負担があったり、常習性があったりするモノなど普通なら使いたくはないだろう。
その点皇国から輸入された最新の媚薬は効き目はバッチリで副作用も常習性もなく、1度『イタシて』しまえば綺麗さっぱり効果も無くなるというお墨付き。しかも最新なのでまだ解毒薬が輸入されていない、というのがアイテムショップの店員の売り文句だった。
勿論そんな事はシナリオ上で充分ご存知の男爵令嬢は当然の如く帝国の媚薬を大金を支払って入手したのである。
「この上級品でも媚薬に慣れてないと、身体に負担が掛かりますからね。量はピッチャーに3滴位で充分ですよ~」
というショップの店員の言葉を彼女は聞き流して店を出ていった。