22 公爵令嬢、王子の策に乗っかる
アーレス王子の指が自分の頬に触れた時に、ちょっとしたイタズラ心が湧いてつい彼の指先をペロリと舐めてしまったイリスである。
「結構アーレス王子もやるわね~」
そして、イリス本人は前世の価値観とちょっとばかし奔放な道徳観念がここに来て芽生えてきたようである。
「この世界ではどうあれ、前世だったら恋人同士ならまあ普通の事か。あ、そうか、ヒロインて大抵が転生者の思考で行動するから貞操観念がおかしく見えるんだわ。あ。成程ね。何か納得」
う~むと首を捻って考える。
「それに比べて貴族の御令嬢はパートナーに伝わらないツンデレ、あとは? 初心? 奥手? お硬い・・・成程」
それじゃあ肉食系ヒロインにガツガツやられて負ける訳だよね・・・
「負けない方法・・・あ!?」
イリスの顔が輝いた。
が、読者諸氏が知っている通り彼女は今だにヒロインとの接触は無いままである・・・
一方こちら、ヒロインである筈の男爵令嬢も、攻略対象者どころか悪役令嬢すら目にする事も出来ていない事に焦りを募らせていた。
「もう! どうなっちゃってるのよ〜」
イライラとしながら爪を噛むヒロイン。
彼女の年齢は18歳なので、王子とは同い年であり、既に学園は可もなく不可もなくといった成績で卒業しており今は絶賛婚活中である。学園の中のカースト制度はガッチガチの上、アーレス王子は留学に継ぐ留学という状態で学園ではすれ違いすら不可能だった。
因みにお節介かもしれないが、この世界に付随する乙女ゲームは学園は全く関係なく王城、王都、騎士団寮、魔術師塔といった場所で展開されるR18系乙女ゲームだったが、現在の状態はR18どころかゲーム要素すら掠っていない。
合掌。
「娘よ、婚活パーティーに出席するなとは言わんがせめて父の職場までやって来て、仕事の邪魔をするのはやめてくれんか?」
毎日毎日王城の文官塔に色んな言い訳を作ってはやって来る娘のせいで彼はやたら忘れ物が多いと職場で評判になっているのである。
「分かったわよ、父様の言う通り王城の侍女の試験をちゃんと受けるから。今回だけはあのパーティーに参加させてちょうだい」
猫なで声で父親にお願いをするピンクブロンドのご令嬢。
「大目に見るのは今回だけだからな。これが終わったら試験勉強をするように」
「はぁい」
自慢のピンク色の髪の毛先を触りながら、やる気なさげな声で返事をする娘を父は冷めた目で見つめ返したが、彼女はそのことに全く頓着しなかった。