表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/34

殿下の眼をかいくぐりました

「ガブリエル、聖女と何の話をしていたんだ?」


 殿下の学園生活が始まり、1ヶ月が経ちましたが、わたくしは「聖女の案内役」として活躍できた事がありませんでした。


 聖女は、いろんな殿方と満遍なく交流なさっていると聞いています。


 わたくしは、毎日、殿下の執務室で文書公務の下準備をして、殿下が授業を終えられる頃に寮へ転移します。


 たまに教室まで迎えに行くこともありましたが、聖女とお話をさせてもらう前に殿下が寮に帰ってしまうので、近侍としてはついていかざるを得ません。


 約束が違います。



 もどかしい思いをしているわたくしを気の毒に思った公爵家のご嫡男デイン様が、王宮の庭園で学生たちを呼んだ大規模なお茶会を開く流れを作ってくださいました。


 茶会当日も、わたくしは男装の神官服で殿下のお傍に侍っておりましたが、ちょっとした撒き餌をしました。


 迎賓館担当の女官にわたくしのウィッグを付けさせて、ベールで顔を隠した状態で、庭園の脇を横切らせたのです。


 聖女は上手く掛かってくれました。


 ニセ「悪役令嬢」を追いかけたのです。

 聖女のこの世界の記憶に、ダジマットの姫が存在したことが確認できました。


 聖女が見えなくなってから、わたくしは別の近侍と交代して、聖女を追いかけました。


 デイン卿が殿下の気を惹いて、わたくしがいないことに気が付かないように、または、気が付いても追いかけられないように足止めしてくれました。




「お嬢さん、迷われたのですか?」


 わたくしはそのように聖女に話しかけました。


「貴方は神官ですね。信頼できます。私が聖女だと知っていますよね? どうか私が悪役令嬢と話ができるように案内してください。あの方の命を救わねば」


 聖女の言葉に耳を疑いました。


「聖女とダジマットの姫君を面会させることはできませんが、貴方の話を姫君に伝えることは出来ます。どうしますか?」


 わたくしは、できるだけ強気で話をしました。

 聖女が直接の話し合いにこだわったら、わたくしのチャンスはここで終わりです。


「いいでしょう。悪役令嬢は、これから1年半後に命を落とす運命です。できることなら救いたいのです」


 わたくしは、死ぬ運命らしいです。


「ダジマットの姫君は、どのように命を落とすのですか?」


「悪役令嬢は、これから1年半後の母国の建国祭に戻る途中、賊に襲撃され、馬車ごと崖から川に突き落とされます。そして、最愛を失ったクレメント王子が闇落ちします」


 ?

 最愛を失った?


「クレメント王子とガブリエル姫は、恋仲にはありません。姫君が亡くなったとして、王子がそのように悲しむでしょうか?」


 それに、わたくしがダジマットに帰るのに馬車を使うでしょうか?

 転移するに決まっています。


 神が聖女に与える記憶が「ゆがんでいる」と表現されることがありますが、こういうことでしょうか?



「クレメント王子は、既に悪役令嬢を愛しています。溺愛しています。このお茶会が終わった後、彼は姫に求婚します。姫も彼の求婚を受け入れます。もし、それが本当になったら、私の話を姫に伝えていただけますか?」


 求婚?

 そんな気配はありませんよ?


 もし、本当になったら、信じましょう。

 わたくしは聖女に向かって頷きました。


「そうですね。その場合、姫君はもっと詳しく話を聞きたがるかもしれません。ご協力いただけますか?」


「はい。皆さんの不幸を避けるために最大限に協力します」


 聖女は、個体依存と言います。

 この個体は良い個体だと思ってもいいものでしょうか?


 それともこれは聖女の罠でしょうか?


「それでは、皆に怪しまれないように茶会に戻りましょう。私は殿下の近侍です。今の話を殿下に伝えてもよろしいですね?」


 実際問題、最初の難関はここです。


「それでは、聖女には既に愛する者がいるとお伝えください。貴方と同じ色の神官ローブを着た男性です。リーズ神殿にいます。彼は魔族を裏切っていません。私の片想いです。私が攻略対象に接触しているのは、私に出来ることがあればやりたいからです。でも、攻略は進めたくありません。そして、できるならばどうか王子の闇落ちの話は本人にはしないでください」


 そうね。

 殿下はわたくしを失って闇落ちしますなんて、言えませんわ。


「勘が鋭い時がありますので、約束はできませんが、別の話で気をそらす努力はしましょう」


 このようなやり取りの後、聖女を会場に連れ戻しました。


 目ざとく見ていた殿下は、茶会の後、冒頭のように尋問をはじめました。


 どう見ても、お怒りです。

 求婚なんて甘い雰囲気は全くありませんよ?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ