殿下はファッショニスタです
「ガブリエル。その銀色の髪が儚く、そして尊く見えるのかもしれない。違う色にできるか?」
ごきげんよう。
ガブリエルです。
ファッショニスタな殿下がまた何か言っています。
「何色がよろしいですか?」
抵抗すると話が長くなるので、素直に聞くことにしましたわ。
「暗めだと目立ちにくいかな?」
わたくしは変装魔法で髪色を黒にしました。
「あぁ、ダメだ。なんか妖艶な感じがする。逆効果だ。藍色は?」
わたくしは、髪色を藍色に変えました。
「これもダメだ。近寄り難い氷の王子風になってる。モテそうだ。緑は?」
わたくしは、髪色を緑色に変えました。
「うーん。これだと、物語の妖精王のイメージだ、赤は?」
このやり取りが延々とづついて、結局、こげ茶に落ち着きました。
落ち着いた色で、落ちがついて良かったです。
ついでに薄紫色の瞳は、ダジマットの姫だということがバレバレなので、こちらもこげ茶に変えました。
殿下曰く、良家のご令息風だそうです。
「育ちの良さがにじみ出て『結婚したい令息No.1』に輝けそうだが、熱い恋を求めている不埒な令嬢に近寄られることはないだろう」
「そうですか。それは安心です」
満足気な殿下には、もうしわけありませんが、わたくし半ばどうでも良くなっていますわ。
「明るい場所で見てみよう!」と言って、庭園へ連れ出し、髪に指を入れて、梳いたり、持ち上げたりして光の通り具合を確認したり、「暗い場所で見てみよう!」と薄暗いところに連れて入って、再び髪に指を入れて、色合いを確認していました。
こだわりが強すぎます。
公務はよろしいのですか?
全く、困った方ですわ。
わたくしも大分近侍のお仕事に慣れてきました。
基本は殿下にくっついて回って、行く先々でペンなどの道具を渡したり、次の予定を説明したり、側近の方がお持ちになった書類を整理してお渡ししたり、お茶を入れたり、外套や手袋をお召しになるのを手伝ったり、執務室に軽食をお持ちしたりいたします。
わたくしについている女官がやってくれるのとほぼ同じ内容です。
殿下は私が迎賓館から王太子宮に通いやすいように、執務室に転移紋を設けてくださいました。
細かいことに良く気付く方なの。
殿下の方がよっぽど近侍向きですわね?
剣などの重いものは本職の侍従の方がお持ちくださいますし、わたくしは女性ですので、殿下の寝室で行われる御着替えや湯の手伝いはありません。
学園でお手伝いする内容だけ、集中的に学びました。
一通り学んだあとは、王宮で近侍として王子に侍る必要はありません。
学園内でそのように見せるだけです。
他の時間は自由行動です。
先日切った髪で作ったウィッグが完成しましたので、ダジマットの姫の格好で庭園を散歩したりして気ままですわ。
さっぱりとした短い髪に慣れると、ウィッグは重く感じますわね。
短い髪のままでいたいと言えば、殿下が嫌がりそうですので、口を噤んでいます。
来週はリーズ宮殿で夜会があります。
わたくしの「魔族の守護者」としての顔見世ですわ。
聖女が攪乱する国々で歴代の「魔族の守護者」が聖女を無力化してきたので、ネームバリューがなかなかなのです。
わたくし自体は学園に通わないことになりましたが、聖女の学園生活が安定し、魔族令息たちやその恋人たちが害されることがないことを確認できるまで、賓客としてリーズ宮殿に滞在することを知らしめる夜会です。
貴族の皆様に、ご安心頂くのが主の目的です。
副の目的として、聖女の「攻略対象」やその恋人たちと親交を深めるというのもあります。
聖女には複数の「攻略対象」がいます。
現在のリーズ国で言えば、公爵家のご嫡男に、宰相のご嫡男で侯爵令息に、商会を営む伯爵家のご嫡男に、魔術師団を目指す子爵令息と言ったところでしょうか?
でも、わたくしたちには誰が「攻略対象」なのかわかりません。
リーズ宮殿の女官達に聞いた、人気の殿方を推定攻略対象として予習したまでです。
このためできるだけ多くの方々と交流した方が良いのですが、殿下は心配性ですからね?
どれほど話ができるか、わかりませんわ。
夜会には、エルフティアラに夜会用のエルフドレスというダジマット風のスタイルで参加しますので、殿下の着せ替えに付き合わずに済みました。
殿下のエスコートで過ごすので、ダンスの練習には付き合いましたが、特に問題なく終わりましたわ。
せめて装飾品の色を合わせると言い張って女官たちを困らせていましたけれどもね。
頻繁に迎賓館にお運びになって、あれこれ手配しておられますわ。
わたくし?
お茶を飲みながら様子を見ているだけですわ。
でも、ちょっと鬱陶しいので、学園では寮に入ってもらうのはどうかしら?
殿下付きの近侍仲間に提案してみましょう。