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殿下は過保護です

 「ガブリエル! やっぱりやめよう!」


 ごきげんよう。

 悪役令嬢ガブリエルです。


 来月には魔族の国を壊滅に導く「聖女」に王立学園に入ってもらいます。

 政治に影響が出ないように、活動期の間、収容する箱庭です。


 対聖女最終兵器で当代悪役令嬢のわたくしは、男装して聖女の「この世界の案内人」として近づいてみる作戦の準備を進めていましたが……


 当代聖女のホスト国、リーズ王太子クレメント殿下が、土壇場で「やめよう」と言い出して困っています。



 学園の制服が届いたので、着てみただけですのよ?


 迎賓館に滞在中のわたくしについてくれた女官たちの理想を体現したような「男子学生」になっているハズでした。


 男性目線で不自然なところを殿下に指摘してもらうために執務室に伺ったら、こうなりました。


 この方は、なんなんでしょうね?



「わたくしの学園入学を取りやめたい理由を伺ってもよろしいですか?」


「こんな儚い雰囲気の男子生徒は、聖女だけじゃなく、全ての女性を魅了しかねない!」


 誉め言葉、ですかしら?



「性格は全く儚くありませんから、大丈夫ですわ」


「見た目だけで寄ってくるゴミ虫どもがわんさかいるんだ」


 殿下、ゴミ虫はアウトです。

 女性にそんな言い方は、ダメです。



「そういう方は、王太子妃としてもダメですから、良い選別材料になりますわ」


 リーズ国は「恋愛結婚」主義です。

 王立学園は、最高の出会いの場でもあるのです。


 婚約者のいない殿下は、未来の王妃と出会い、恋に落ちるかもしれません。


 ふむふむ。

 見た目で寄ってくる女性は、殿下のお好みではないのですね?


 男装のわたくしに寄ってくる女性がいれば、王太子妃の選定から落とすように、女官達に報告することにしましょう。



「ダメだったら、ダメだ! つい支えたくなる儚さだ。ベタベタと触られたら君が女性だってことがすぐにバレてしまう」


 まぁ!

 お触りはちょっと……

 同性でもご遠慮いただきたいわね?



「それに男同士で肩を組んだり、じゃれあったりするやつもいるんだから、学生はダメだ!」


 それ、男装するって決めた時に既に分かっていたことですよね?


 あの作戦会議には出ていらっしゃらなかったのでしたっけ?


 確かに、男性からのお触りはもっとイヤですから、諦めましょう。



「では、なんならよいのですか?」


「私の近侍にしよう。私の近侍なら職務中なのだから、君にベタベタ触ろうとする害虫もいないだろう?」


 仕事中の男にベタベタ触る女性は、完全にアウトだしな!

 仕事中の男にベタベタ触る男は、滅していいよ!


 殿下は一人でどんどん話を先に進めています……


 ん?

 ということは、先程から短くなったわたくしの髪にしきりに指を通している殿下も滅して良いということでしょうか?

 

 髪は神経がないから、触れていることにならない理論でしょうか?



「近侍では、聖女の案内役が出来ないでしょう?」


 わたくしは、殿下の「側近」候補で、聖女のクラスメイトになる予定でしたの。


 側近は必ずしも殿下に侍る必要はありません。

 任された政務に携わる有能な殿方というイメージがありますわね。


 だから、単独で聖女と接触して、聖女と友好を深め、聖女の行動によって魔族が害されることがないように誘導するつもりでしたわ。


 近侍は、殿下のお世話係ですから、殿下の傍を離れられません。

 単独で聖女とお話をする機会はないでしょう。

 行動が著しく制限されます。



「できる! 放課後に私の傍にいればよい。生徒会、図書館、学園の植物園や、お茶会や、クラブ活動など、聖女はなかなか家に帰りたがらないものなんだろう?」


「ええ。確かに。聖女伝承では、放課後のために学園にいらしているように見えるとの記述がありますわ」


「そうだろう? 君は放課後に私を迎えに来ればよい。そこから学園で一緒に過ごせば、聖女と接する機会はいくらでもあるだろう? 私も安心だしな」


 殿下は、わたくしの横髪を耳にかけたり、前髪をサイドに流したり、なにやら身づくろいをしてくださっています。


 王宮の女官にセットしてもらったので、女性目線だとキュンな感じになっていたと思うのですが……


 やはり男性目線だと、不自然だったのでしょうか?


 これが終わったら、殿下がアレンジしてくださったヘアスタイルを王宮の女官達に覚えてもらいましょう。



「殿下、サイドももう少し切った方が自然だったでしょうか? 耳にかけなくてすむように?」


「あぁ。ガブリエル。お願いだから、もうこれ以上髪を短くしようとしないでくれ」


 あ、殿下がまた泣きそうです。

 殿下は髪フェチでしょうか?


 わたくしの髪は、あまり切っていなかっただけで、意識的に伸ばしていたわけではありませんのよ?


 お尻のあたりまで緩やかにカールする白銀の髪で、遠くからでもすごく目立ちましたわ。

 迷子になったら探しやすくて便利だったのよ。



「ガブリエル、聞いてる? ダジマットでは男性も髪が長いのだろう? 私も伸ばすから、一緒に伸ばそう、ね」


 くどいですわね。


「その時々の長さの男性風アレンジを殿下が教えて下さるということですね? わかりました。一緒に伸ばしましょう」


 困りましたわ。

 話が進みません。


 今回は、学生にも側近にもならないことになったので、むしろストーリーが後退していますわ。


 どうしましょう?

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