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殿下の通う学園をダジマットの姫として視察しました

「ガブリエル、君の初公務は王立学園の視察にしよう!」


「よろしいのですか?」



 殿下との婚約が公に発表され、殿下が学園で授業を受けている間、殿下の執務室で文書公務を手伝うようになりました。


 女官達にもいろいろとアドバイスをもらい、殿下がデザインした殿下の瞳の色のデイドレスを着て、日中に処理した殿下の署名が必要な公務文書を小脇に抱え、殿下の学園の寮を訪ねてみたのですが……


 大変に目立ってしまい、多くの学生たちに囲まれて困っているところを、たまたま通りかかった公爵家のデイン卿に助けられました。


 殿下の寮室の前までエスコート頂いたのですが、それがちょっとした騒ぎになったそうです。


 殿下の寮室は貴族寮の最上階で、デイン卿の寮室も貴族寮の最上階ですから、わたくしがデイン卿の寮室に通されたという印象を与えてしまったようです。



 「デイン卿の恋人が訪ねてきた」と興奮気味に教室に戻ってきた学生の話を聞いて、ピンと来た殿下がぶっ飛んで戻っていらっしゃいました。


「ひとまず銀色の髪の麗人はガブリエル姫で、わたしを訪ねてきたという事実を広めないとね」


「ごめんなさい。サプライズにすると殿下が喜ぶとのアドバイスを鵜呑みにしてしまいましたの。軽率でしたわ」


 わたくしは渾身の「ごめんなさい顔」でお詫びしました。

 殿下は、そっとわたくしの手を取って、「デインは特別にダメなんだよ」とつぶやきます。


 殿下の瞳をジッと覗き込みますが、そこにはわずかに疲れた表情が滲んでいます。

 なにかありますのね?


 どうやらヤキモチではないことにほんのり落胆しつつ、わたくしは「聞きますわよ!」の表情で待ち構えます。


「隣国『魔王の杖』ピーターバラが少しおかしい話は前にもしたよね? デインはそこの姫と政略結婚するための調整中なんだ」


「ピーターバラの姫といえば、ジャニス姫? 当代一の美女の?」


 ジャニス姫の美貌の噂はダジマットだけではなく、剣術修行をした人族の国セントリアまで轟いておりましたわ。

 でも、政略結婚?

 恋愛結婚主義のリーズの公爵嫡男が?


「そう。悪役令嬢の試練で聖女のホスト国に入ったダジマットの姫が公爵令息と結婚することもあるだろう? だからピーターバラはその芽を塞ぎたいのではないかと推測され、断ろうと決まったんだが……」


「え? わたくし殿下以外はイヤよ?」


 わたくしが間髪入れずに拒否すると、殿下は少し力が抜けたように笑って、包み込んでいたわたくしの手にキスを落としました。


「ふっ。こちらが断る前に美姫本人がお忍びで公爵邸を訪れ、『断ってくれ』って懇願してきたんだ」


「え? ご本人には想い人がいらっしゃるとか?」


「それが違うんだ。『魔王の杖』は今、かつてないほどの政局混乱状態にあるんだよ。他国の公爵家を巻き込みたくないと、ある程度の事情を打ち明けてくれたらしい」


「まぁ! リーズの首脳陣もジャニス姫本人も破談にしたいのにゴリ押しで進められるほどの強敵なのですか?」


 わたくしは、思わず眉を顰めます。


「うーん。それもちょっと違うんだよ。多分だけど、デインはジャニス姫に惚れちゃったんだよ。事情を聞いた後、『そういうことならむしろ、婚約を結んで共に立ち向かいましょう』って、その場で結婚を申し込んじゃったらしい」


「素敵ね! それはデイン卿に他に恋人がいるとよろしくありませんわね!」


 わたくしは俄然興味が湧いて思わず前のめりになって、殿下の手をギュッと握ってしまいました。


「ははっ。そうだね。だから、ダジマットのガブリエル姫は、クレメント王太子と熱愛中だとアピールしようね?」


 殿下は安直に乗り気になったわたくしを窘めることはせず、手をギュッと握り返してくれます。


 いいわぁ~。

 殿下。

 大らかね。


 母国ダジマットなら、はしたないと窘められるところですわ。


 **


「ガブリエル殿下、ようこそ王立学園へ」


「今日はよろしくお願いいたします」


 というわけで、殿下の公務を補佐するために婚約者であるダジマットの姫が学園を訪れる機会も増えるからという理由をつけて、わたくしの初の対外公務は、王立学園の視察になりました。


 学園長が自ら生徒会室、図書館、植物園、課外活動の各種クラブなど、学園を隅々まで案内くださいましたわ。

 わたくしは殿下の近侍として活動している頃よりもはるかに学園に詳しくなりました。

 皮肉ですわね?



 学園長が案内してくれている間、殿下は当然のごとくわたくしの手を引いて傍を離れなかったので、わたくしたちの関係は、皆さんによく周知されました。


 手をつないで歩くのは、神聖国で隠れ家を探すときに気に入って、わたくしたちのにとっては既に日常となっていましたが……

 自国の王太子とダジマットの姫がかしこまったエスコートではなく、平民のように手をつないでいる様子を初めて目にした学生たちには、衝撃が走ったようです。


 課外活動の魔道具クラブを案内されたときに、興味津々でその場を離れたがらなかったわたくしを、遠慮なく引き摺るように手を引っ張って先へ進もうとする殿下と、抵抗しようと「むぅぅ」っという表情を作るわたくしの自然なカップル感も好感されたようですわ。


「殿下、お願い。もうちょっと……」


「興味があるなら、また来よう。ね?」


 と、だだをこねる子供をあやすようにおでこにチュッとされたときには、観衆から「キャーーーーッ」と悲鳴? 歓声? が上がりましたのよ。


 作りこまれた王子と姫の様子よりもこういう素の姿の方が説得力を生むというのは興味ぶかいですわね?

 

 おそらくこれで、わたくしたちの「政略婚約」疑惑は、払しょくされましたわ。


 デイン卿とも「先日は、殿下の部屋までご案内いただきありがとうございます」なんて会話を皆さんに聞いてもらって、誤解も解いておきました。


 あとは、公務の補佐として、授業が終わった殿下を頻繁に訪れれば、「熱愛カップル」の完成ですわね?


 わたくしとしても殿下の妻の座を狙う国内令嬢への牽制ができてうれしく思いますわ。

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