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殿下が言うには、わたくしたちは「政略」結婚です

「ガブリエル! 君ってもしかして…… 私のことが好きなの?」


 何を言っているのですか?


「女官達から『姫の世界は王子を中心に回っています』って言われたのではないのですか?」


 わたくしは手を伸ばし、殿下の頬に手を添えます。

 殿下はわたくしにのしかかったまま、わたくしの瞳をジッと見つめ、何かを読み取ろうとしています。


「でも、ガブリエル姫は、大の男嫌いって聞いていたから、私に尽くしてくれるのは使命の一部かと……」


 そうですわね。

 使命のために殿下と連携を取ることは大事だと思っていますわ。

 でも、そのために殿下のことを好きなフリなんてしませんわ。


「殿下がわたくしに構い倒すのは、殿下の使命の一部なのですか?」


「!!」


 殿下の瞳に動揺が走ります。

 この場所が自分の寝室だからでしょうか?

 いつもよりも心の動きが顔に出やすいようですね。


「そうなのですね? 結婚すれば安心できるのですか? じゃぁ、今すぐ、神殿へ行きましょう?」


 その前に、もう一度、口づけが欲しくて、殿下の首裏に手を伸ばし、引き寄せました。


 殿下はハッとして、自分を引き寄せようとしているわたくしの手をつかみ、指を絡めて枕元に縫い留めました。


 恋人同士の所作って感じで、グッときます。


「そうか。君は、本当に私を好いているのか……」


 なんですか?

 その呆然とした表情は。


「殿下と結婚したいに決まっています」


「そうか、しかたないね。私の事情を話すしかないか……」


「?」


 殿下は、わたくしの上にのしかかったまま、話し始めてしまいました。


 そして、先程の妖しい魅力は、どこかへ言ってしまいました。


 わたくしも少し冷静になり、ベッドに縫い留められて動けないのに、意外と重くないものね? なんてどうでもいいことが頭を過ります。



「ガブリエル。リーズにとっては、君と私は純然たる『政略結婚』なんだよ」


「せいりゃく?」


「盟主の姫の降嫁は我が国千年の悲願なんだ。私の意思を差し挟む余地はない」


 やっぱりわたくしのことを好きなわけではないのですね?


「千年の悲願?」


「リーズ王家は、かつての魔王の四天王の一角だってことは知っているよね? 王家の盾『神聖国』、王家の杖『ピーターバラ』、王家の頭脳『インダストリア』、そして王家の剣『リーズ』は、今でも魔王の、ダジマット家の忠実な僕なんだ。魔王が望んでいなくてもね」


「ダジマット家の当主が魔王と呼ばれていたのは、千年も前の話ですわ」


「それが魔王が魔法国の安定のために行った采配で、四天王も含め、すべての魔王の配下が指示に従ってそれぞれの領地を一つの国として機能させるようになった。それでも、四天王にとって、王は、やっぱりダジマット王なんだよ」


「そんな話、初めて聞きましたわ」


「そりゃぁ、魔王の指示で、リーズ国の王家として振る舞っているからね? 表には出ないよ。そして、魔王の姫は聖女のホスト国にしか降嫁されないから、この千年ずっと聖女が現れるのを待ってたんだ」


 聖女が現れるのを待っていた?

 そんな!


 聖女が現れたら国が内部から瓦解するので忌み嫌われている存在ですわよ?


「その言い方は、不謹慎ですわ!」


「ごめん。でも、それが真実なんだよ。聖女は待ち構えている国には現れないのさ。四天王の国に聖女が現れたことはなかった」


「4国とも聖女を待っていると?」


「たぶんね。インダストリアは姫の降嫁のオマケについてくる聖女を実験体にするためにアカデミアに研究所を準備しているし、ピーターバラは姫を待ちきれなくていろいろ工作してる。リーズは作為的なことは嫌いだから愚直に待ってた」


「実験体? 工作? 何故そんなおかしなことに?」


 信じられない!

 誰も軌道修正しないのですか?


「魔王の忠実な僕なのに、姫に降嫁してもらえない。聖女は弱小国にばかり現れ、姫は弱小国に降嫁する。しかも弱小国とはいえ王家ならともかく、公爵家やそれよりも下の臣下に嫁すことが多いんだ。許せないレベルで妬ましく思う状態が千年続いた。少しはおかしくもなるさ」


「だから、殿下は、ようやくやってきた魔王の娘と結婚しないという選択肢はない、と?」


「そうなるね。でも、君がやってきたとき、私は絶望していた。ダジマット王から出された姫の降嫁の条件は『姫から愛される』ことなんだ」


「お父様が出した条件?」


「そうだよ。冷たく全く人を寄せ付けない『盟主の姫』を篭絡できるなんて思えなくて、私は使命から逃げようとして、最初の会議を欠席した」


「ろうらく……」


「そうだよ。リーズ国にとっては、聖女なんてどうでも良かった。ダジマット王家からは姫は『男嫌い』という事前情報があったんだ。姫に男装してもらって友人のような距離感で私に慣れてもらう母上の作戦に君が乗った」


 殿下は絡めていた指をほといて、わたくしから降り、丁寧にウィッグを取ったあと、髪を優しく指で梳きながら、整えてくれます。

 最初はなれなれしいと呆れた殿下の指が、わたくしに触れると嬉しく感じるようになってしまっています。


「たしかに…… 殿下が欠席した最初の作戦会議で男装を提案したのは王妃殿下でしたわ」


「そうしたら、君ったら、髪を切り始めた。慌てて駆け付けたよ。それからのことは君も知っているよね?」


「あの時の殿下の反応は、殿下の涙は、本物なのですね?」


「ああ。取り繕う余裕がなかった。使命を投げ出して君を避けている私とは対照的に、君は悪役令嬢の任務に真っすぐに向き合っていた。冷水を浴びたようだったし、震えたし、覚悟が決まったし、凄く惹かれたよ」


「殿下がわたくしに惹かれた?」


 わたくしのことは、政略や使命なだけではなく、ちょっとは好きってことですか?

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