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殿下がウェディングドレスの準備を開始しました

「ガブリエル、やっぱりヴェールは、シフォンじゃなくて、オーガンジーにしよう!」


 しかし、レースやチュールも捨てがたいな、などと、殿下がブツブツ言っているのは、わたくしのウェディングドレスに合わせるヴェールの素材の話です。


「殿下、まだ気が早いのではなくて?」


 わたくしは、戸惑っております。


 殿下はどうも婚期を早めようとしているように思えます。

 わたくしが聖女と接触した後に急に結婚を申し込まれたのに似ていますね。


 既に何か事情があることが明確になっているのに、その内容を共有してくれる気配はありません。



「ガブリエル、ウェディングは令嬢にとって憧れなんだろう? 準備は早いに越したことはないよ」


「……」


 わたくしの推測では、聖女を神聖国に亡命させるために、わたくしが最高位神官の資格を取得することになったことが婚期を早めたがっているきっかけになっているように思います。


 聖女が神聖国への亡命を希望なさったので、悪役令嬢として母国ダジマットの両親に相談したところ、神聖国の皇王聖下に取り次いでくれましたが……


 皇王聖下からは、わたくしが第7位階以上の神官になって、自ら聖女の後見人資格を得ることを提案されました。

 おまけで第7位階から上位神官として、配下の神官の人事権を得ます。


 少し変わった提案であるとは思います。

 神聖国民ではないわたくしが、神聖国に属しているかの如く神官の人事権を得て、神聖国在住の亡命者の後見人になるのですから……


 でも、違和感を感じたのは、その話を伝えた時の殿下の拒絶反応でした。

 それなら自分が神官の資格を取ると言い出して、なかなか大変でした。


「ドレスのデザインはもう決まっているんだ。ダジマット風のエルフドレスだが、裾を長く引いて、ヴェールが重なると私の髪色のシャンパンゴールドに見えるようにしたいんだ」


「……」


 最初は、公爵家のデイン様と接触したことに反応した。

 次は、聖女と接触し、隠し事をしていたことを怒った。

 そして、今度は神聖国の権限を得ることを嫌がる。


 殿下の仮想敵の範囲が広すぎて、途方に暮れてしまいます。

 母国から情報戦に強い傍仕えを連れてくるべきでしたわね。



「ガブリエル、君、私と結婚したくないんだね?」


「え?」


 そんなわけがありません。


 殿下は、小さなため息をついて、人払いをしました。

 これは、しっかり話をするチャンスではないでしょうか?



「ガブリエルは私を好いてくれているフリをしているのかな?」


「そんなことありませんわ!」


「じゃぁ、なんで、ウェディングドレスの話の途中に、考え事にふけっちゃうのかな?」


「殿下が婚期を早めようとしている理由がわからないからですわ」


 わたくしのことを好きなフリをしているのは殿下です。

 理由を話せばわたくしが結婚を断るような内容なのですか?


「誰から見ても君が結婚式を楽しみにしているようには見えないよ」


 殿下はわたくしをソファーに座らせ、いつものようにわたくしの手を優しく包み込んでいますが、なんとなくいつもと雰囲気が異なります。


「決して結婚を渋っているわけではないのです。ただ……」


「ただ?」


 貴方は、好きでもないわたくしと結婚してしまっていいのですか?

 リーズは恋愛結婚の国ですよね?


 だからこそ、わたくしのことを好きなフリをしなければならない。

 でも、貴方には、密かに愛しく想う人が他にいたりしませんか?


 そんなこと口に出してしまうと、涙がこぼれてしまいそうです。


 わたくしの表情に悲しみが宿ったのが分かったのか、瞳から発する凄みが増したように感じます。


「……」


「そう。そういうことなら、仕方がないね。強行突破といきますか?」


 殿下はわたくしをひょいと抱えて、寝室に転移しました。


「え? 殿下…… 転移魔法が使えるのですか?」


「使えるよ。でも、魔力の消耗が大きいからね。魔法剣士は戦う魔力を温存するために、コスパの悪い魔法は使わないんだよ」


 殿下はわたくしを優しくベッドの上におろして、頬をするりと撫でながら涼やかに答えました。

 この状況でも、殿下の瞳に熱が灯ることはないのですね。

 それなのに、こんなこと……


「殿下、く、靴を履いたままです」


 わたくしは、パニックでおかしなことを言ってしまいました。

 わたくしが理解したこの状況は、殿下に襲われそうになっているのです。


 靴なんで気にしている場合じゃありません。

 抵抗すべきでしょうか?

 殿下のためにも?


「ははっ。靴って。分かった、今脱がせてあげるから」


 殿下は、わたくしの靴を脱がせて、放り投げました。

 脱がせたのは靴ですよ。靴。

 まだ、服じゃありません。


 殿下は、ご自分も靴を脱がれて、わたくしの上にのしかかります。


 これは、やはり、そういう流れでしょうか?


 すっごくドキドキしますが、まったくイヤじゃありません。


 しかし、殿下は、時折、まったく理解できない人になってしまいます。


「殿下、どうしてこうなるのですか?」


「体が繋がってしまえば、流石の君も早く結婚したくなるかと思って?」


 わたくしは思わずゴクリと息をのみます。

 殿下は、わたくしにじっくり深く口づけました。


 あっ!

 殿下が妖しい魅力を湛えた表情に変わりました。

 初めて見る表情です。


 なんなんですか?

 その色気!


 わたくしは、ぼぉっとなって、殿下に見とれてしまいます。


 殿下はわたくしの表情に安堵したように微笑んで、再び、唇を重ねます。


 あぁ。殿下。

 わたくしは本当に貴方のことが好きなのですよ。

 貴方と違って。


「んっ」


 ダメです。

 わたくし、抵抗する気がおきません。


 行きましょう!

 言葉のいらない世界へ!


 仕掛けてきたのは、貴方ですよ!


「んあ~っ。乗ってきちゃっていいの? ガブリエル!!」


 あっ!

 殿下の唇が離れてしまいました。


 わたくしは、殿下の顔に手を伸ばし、唇を奪還しようと試みます。


 ここで止めるのはナシですわ!

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