少年X
久方ぶりの投稿です
こちらにも載せているので、是非お立ち寄りください
another passageです
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わたくしは階段を手すり伝いに上って行きまして、屋上に通ずる扉までやってまいりました。本来堅固に閉ざされているはずの錠も、たむろする不良の輩に壊されてしまったのでしょう、わたくしは迎え入れるようにして屋上へ出させていただきました。風は季節ながら、春一番と呼べるものでしょうか。強くわたくしの体を柵へ柵へと押しているのです。
そこまで、と思い、わざと相反するようにのっそりとした足取りで柵までたどり着くと、背後で講義を抜けてきたのでしょう不良の輩が、ケタケタとのどを細くしてやっと出るようなかすれた笑い声でわたくしに声をかけてきたのです。わたくしはその品のない言葉にも背を向け、ズボンの裾を引っ掛けないように気をつけながら柵を乗り越え、一間程度の出張ったそこへ降り立ちました。そうすると、輩の声色も怪しくなります。
目下では、かの悪名高き体育教師が女子生徒にトラックを何周も何周も走らせ、その傍ら下劣にもちょっかいを出しておりました。わたくしは許せませんでした。彼方に広がる大空を抱くように手を広げ、叫びました。それに気づいた女子生徒がわたくしを見上げ、きゃあとまた、のどを細くして悲鳴をあげました。
「飛べ」
背後にはいつのまにか、教師生徒が大勢集まっておりました。おろおろとする、なんとも情けない輩が、その隅でたばこの火を踏みけしておりました。
「とべ」
口々に群衆はわたくしになげやりに言うのです。一斉に顔を歪め、憐れむ目でわたくしを見るのです。
なるほど、たしかにわたくしは嫌われておりました。しかし、これがわたくしに相当する最期とは違うのです。望むべきところではないのです。
飛び降りるのは容易ではありますが、容易なことを安直にしないのがこれ凡人とはわけが違いますので、わたくしはいささか飛ぶ気持ちを失くしてしまっていました。他人に言われれば言われるほど、言われたことに対して反感を持つようになるのは人間心理において重要なことであります。
しかし、またこれ凡人とは違いますわけで、よく聞けばその「とべ」の声は、わたくしの名前「戸辺」のことだと気付くことができました。目下のグラウンドに集まる群衆も、背後の衆人も、わたくしのその偉大な名前を叫んでいるのです。
振り返れば、衆人は手拍子に合わせてわたくしの名を呼び続けています。
答える代りにわたくしはこの自らの両腕を大きく広げました。拍手が乱れ咲き、わたくしを覆い包みます。
嗚呼、これほどまでにわたくし幸せに思わせることが、生を持てる今にありますとは!
わたくしは体を反らせて、偉大なる大神であられまする太陽を仰ぎ見、地に向かいます。
拍手はいよいよ喝采し、歓声は滞りなく世に満たされますでしょう。
まず、始めの衝撃は、頭頂部から参ります。