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100%完璧な名案

 

「弱い……? 弱いんですか、あれで?」


 昨日のことを思い出しているのだろう。

 カレンは訝しげな表情を浮かべる。


「……俺の強さは神代具(アーティファクト)あってのものだからな。剣一本渡で、一軍丸ごと真正面から制圧できない時点でまだまだ弱いんだよ。親父ならできるし、あの国の騎士様方はだいたいみんなできるぜ」

「もう満足したのか? 神代具の話以外、ろくに会話も出来なさそうな状態だったじゃないか」

「ああ? どっかの誰かさんがペラペラと人の事喋ってくれてたからなぁ。喜んでばかりはいられねえよ」


 彼女が抱いた疑問に本人自ら答えてやった後、ちょっとだけナターシャに俺は不満がある、と言外に表してやった。

 親しき仲にも礼儀は持って欲しい。

 いつも礼儀を持って接してる俺を見習えって話だよ。



「ともかく、カレンが異世界から来た『勇者』だってのは疑う余地はもうどこにもねえな。神代文字(オラクル)、カンタンに読める奴なんて世界中のどこを探してもいないからよ」

「そこが判断基準なんですね、オリヴァーさんって……個性的、いや、変な人……」

「こいつは、たまに意地を張るからな。さっきも納得した振りして、聞かなかったことに出来ないか考えていたはずだ」


 カレンとナターシャが知ったような口で何か言っている。

 俺は聞かなったことにした。


 都合の悪い部分は知らないフリをして、話を続ける。


「話が脱線しすぎた。そもそも俺らは、カレン。お前の事情を聞くつもりだったんだよ。それを『勇者』だの神代文字だの、気を取られすぎだ」


 これも都合の悪い部分だ。

 棚に上げておこう。

 反論が出てくる前にまくし立てるように言葉を紡ぐ。


「勇者候補、だったか? すげぇじゃねえか。『魔王』に対する反撃策としては上等。召喚したのは恐らく聖教国『サンクトゥス』の奴等だろ。当たりか? だとしたら、なんでそこから遠く離れた地でお前さんがチンピラに命を狙われる……なんてことになってる?」


 うっ、と言葉に詰まるカレン。

 少しは和らいでいた彼女の顔に、また焦燥が見え隠れし始める。

 言わなければならない。

 けれど、言いたくない。

 そんな表情。


 それでも彼女は口を開いた。


「私以外にも、『勇者』はいるんです。だから勇者候補。そして、私はその中の何人かに命を狙われている……んだと思います。私がここにいる理由を今は……話せません」

「煮え切らねえなぁ」


 物騒なことを言い出すも、確証が無さそうな表現をし、都合の悪いところは口にしない彼女。

 どうにもこの娘は悪人に食い物にされやすそうな、気弱さばかりが前に出ている。

 彼女が居たという世界では普通なのだろうか。

 それはさぞ生きやすい(騙しやすい)世界だ。


「言わねえってところは置いとくとして、その前だな。そういうの、心当たりぐらいあるもんだろ。勇者候補っていってもよ。異世界から召喚するなんてとんでもない魔力やら神代具が必要なはずだ。それで呼べるのは精々、三、四人ってところじゃ――」

「三十人」

「は? もう一回言ってくれ」


 想像だにしてない数字が聞こえて思わず聞き返してしまった。

 十人の聞き間違いか?

 そうだよな、うん。


「三十人。私達はサンクトゥスの人達にクラス丸々呼ばれたんです。だから、三十人。そんなに居たら誰が犯人かなんてだいたいの目星しか付けられない」


 俺は、それを聞いて力が抜け、ソファに落ちるように座ることになった。


「まずいことになる」


「またか……」と、ナターシャが言う。

 彼女の前では昨日から事ある毎にずっとまずいまずいばかり言っているような気がする。

 でも、これは大変まずいんだ。


 だって。



「そんだけ神代文字の事を知ってる奴らが居たら、俺以外が神代具の秘密を全部解き明かしちまうかもしれねえ……」


 心から嘆きの声が出る。

 その様子に、先程まで悲壮感たっぷりの面をしていたカレンは何がおかしかったのか。


「ふふふっ、ごめんなさいっ。でも、ふふ。ふふふふっ!」


 気の抜けた笑顔で、止まらない笑いを堪えていた。

 そんな彼女に向かって俺は叱咤した。



「おいっ! こうしちゃいられねえ。カレン、俺が力を貸してやる」

「へ? 急に何を?」


「お前に歯向かうものを蹴散らしてやるし、お前の望みはなんとかして叶えてやるって言ってんだよ」


 俺はニヤリ、と笑いながら己の拳を打ち合わせ、天才的な頭脳が示し出した“俺のため”100%の、完璧な名案を口にした。



「だから、勇者を全員元の世界へ送り返しちまおう。お前がマジの『勇者』になって、な!」


 あまりの知能指数に呆気にとられたか。

 言われた当の本人も、聞いていただけの奴もみんな口をぽかんと開けて間抜け面を晒していたのには、思わず笑ってしまいそうだった。

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