別に見返したい訳じゃねえし
神代具『水鏡』の使い方は簡単だ。
普通に掛けて、ただ念じればいい。
それだけで二つのモノクルを介した視界の共有が可能になる。
厳密には、視界の共有と言うより視界を投影したものを見ているらしく、場合によっては幻覚なども共有してしまうが、今回に限ってはそれだから役に立つ。
俺らのことを放ったらかしにして、ポチポチと宙を押し続けているカレンを小突いてから、『水鏡』を渡す。
訝しげな顔をされたが、いいから身に付けろと促すと素直に彼女はそれを目に掛けた。
「さてさて、何が見えんのか。『勇者』だの異世界だの突拍子もないもんばっか出てくるから、何が出てきても驚かねえぞ」
「それお前の分しかないのか? 私のは? そうか……」
ハブられたナターシャは置いといて、意気込みながら『水鏡』を身に付け、念じた。
カレンの視界が、徐々に映し出される。
何やら中くらいの薄い板みたいなものがあるようだ。
そこに文字がびっしりと書き込まれていて……。
「はぁ!? マジかよ!」
驚かないと言った矢先に驚いてしまった。
見たのは一瞬。だが、たったそれだけで、とんでもない情報が出てきたことが分かってしまう。
俺はあまりの衝撃に興奮し、カレンに詰め寄った。
「お前これ読めてんのか!? 嘘だろ!?」
「あ、はい。私としては、これでお兄さんに『メニュー』が見えてるの凄い驚きなんだけどな……」
「何がわかったんだ、オリヴァー。そんなに厄介なものが出てきたのか?」
一人、状況について行けてないナターシャが尋ねてくる。
それに俺は思い切り首を横に振って答えた。
「厄ネタどころか、むしろ世界中のド肝を抜かせる最高の情報だよ!」
喋れば喋るほど、興奮が高まってきて口が早くなっていく。
今の俺には、カレンが神様かなにかに見えるほどだ。
昨日の俺に感謝。
転がり込んできたカレンに感謝。
世界中に感謝を届けたいッ!
俺を狂わせる情報とは一体何なのか。
唖然とする彼女達にその素晴らしさを伝えなくてはならない。
俺は、大袈裟に両手を広げ、語る。
「ここに書かれてるのは、神代文字! そして、カレンは平然とこれが読める! つまり、俺の研究が最高に進むってことだァ!」
それを告げた時の二人の反応は、“困惑”と“納得”に別れた。
「神代文字……? 日本語がこっちにもあるの?」
勿論、困惑はカレンで。
「ああ……お前は大喜びだろうな……」
納得はナターシャだ。
二人を分けた差は単純に俺との付き合いの長さが理由だ。
付き合いが長くなれば、自ずとお互いのことは理解し合える。
俺がナターシャを知っているように、ナターシャも俺を知っている。
部外者であるからこそ、何も分からないカレンへ、ナターシャが説明していた。
「あいつは、研究者なんだ」
「へ? 全然そうは見えないですけど……」
「そうだな。やってることはアホだもんな。今も高笑いし過ぎて、過呼吸起こしてるしなぁ……」
息も絶え絶えな俺を指差しながら、彼女は話を続ける。
「だが、あいつは神代具。大昔に存在したと言われる超文明の遺物。それに関して世界で一番、知っている男だ」
そう言うと、カレンから『水鏡』を外したナターシャは、モノクルのツルの部分に刻まれた文字を見せる。
「これが神代文字。神代具にはこういうのが沢山刻まれていて、それこそが力の根源らしい。ということは、この文字を意味のある形で刻むことができるなら、神代具は作れるはずなんだが……ま、言語の難解さから同じような物を作るのは不可能らしいぞ。だが、貴女は読める。どうだ? これは知ってる言葉か?」
「……うん、読める。これは漢字だ。もしかしてあの箱にも?」
頷くナターシャを見て、彼女は『玩具箱』へと近づいてき、そこにもまた神代文字が書かれていることを確認した。
「でも、これが読めるぐらいであそこまで大喜びするものなんですか?」
不思議に思ったのか、カレンが疲れて倒れ込んでいる俺の状態を冷めた目で一瞥し、尋ねていた。
それに首肯して返すナターシャも俺を冷めた目で見ている。
「オリヴァーという男は、神代具に取り憑かれているバカなんだ。その秘密を解明することで、元いた国の連中を見返せると心から信じている大バカ者だよ」
「何故……?」
「あいつは私達が住んでいる国の隣にある『アルビオン』っていう国のな、騎士団長の息子なのさ。ただし、あまりの弱さに勘当された落ちこぼれ二世だがな」
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