『玩具箱』
『勇者』。
『魔王』と同じ御伽噺の代表例が突然飛び出してきて、唖然とするよりも先に笑いが込み上げてきた。
「冗談、上手いんだなお嬢ちゃん。急にとち狂ったかのような発言されちまったから俺、笑い止まらなくなりそう。はははっ!」
どうやら黒髪の少女――カレンといったか――は酒にとんでもなく弱かったらしい。
自分を勇者だと言い張るなんて、並大抵の酔っ払いができることではない。
俺がよく聞く酔っぱらいの法螺話規模でも、精々が村を救った英雄止まりだ。
本当に大きく出たものだぜ。
「嘘じゃないです! まだ確かに勇者ではなくて“勇者候補”だから、本当ではないのかもしれないけど……」
ごにょごにょとカレンが喋る。
大層イカれた面白い奴だ。
妄想癖もあるらしい。
そのまま勇者の設定を語り出しそうな気配がしたから、俺は止めようとする。
「……オリヴァー、お前こそ茶化すのをやめろ」
が、逆に俺がナターシャに止められた。
「は? どう考えても、冗談の類だろ。茶化してねえって、素面だぞ俺は」
「黒髪黒目。伝説上の勇者もそうだったらしいな」
「急にお前もどうしたんだよ。そりゃ、空想上の話だろ。お前、あれ信じてんのか?」
イラついてきた俺の口調が荒くなる。
それ以上、聞いたらマジで戻れなくなるからやめろ、と目で訴えかけながらナターシャの話を否定していくが、彼女は止まらない。
「『魔王』がいるんだ。『勇者』が現れたって何もおかしくはない。私でもそう思うんだから、お前が考えないはずないだろう? それに――」
そこまで言うと、一息吸って俺を見据えながら彼女は最後にこう言った。
「お前が集めてる大量の神代具、あれなんて古来から伝わる伝説の道具じゃないか。なら、『勇者』と『魔王』の話だって実在したっておかしくない」
痛い所を突きやがる。
俺にとって神代具は全てにおいて、優先されるものだ。
そこを引き合いに出されたら、口喧嘩でかなうはずも無い。
俺はお手上げとばかりに、両の掌を上へと向ける。
「冗談で済ましときゃいいのに、真面目な真面目なナターシャちゃんのせいでマジ話になっちゃったじゃないか」
「お前が不真面目すぎるだけだろう。首を突っ込んだなら、責任は負うべきだ」
「あの時はああするのが最善だったってのに。はぁ、一難去ってまた一難とはこのことかよ……」
と、ぼやき出したら突如、カレンが驚きの声を上げる。
「ミッションコンプリート……!? 今の何処に何が? ええと、確か。『メニュー・オープン』!」
よく分からん奴から勇者候補とやらに格上げされた彼女だったが、またよく分からんことをし出したようだ。
何故か宙をポチポチと指で押しては、表情をコロコロ変えている。
「何してんだあいつ……」
「分からない。分からないが、何とかならないか?」
「それ何とかしろってことだよな?」
嫌そうな顔をすると、できるだろ?と挑発的な顔を向けてくるナターシャ。
気になるのは俺も同じだ。
けれども彼女の言葉に乗せられるのは、癪に障る。
だからといって、ただ手をこまねいてるだけじゃ意味が無い。
何とかする手段を探すとしよう。
まず、懐から小さな手のひらサイズ立方体を取り出す。
こいつは神代具『玩具箱』だ。
黒が基調のその立方体には、一箇所だけ白の面がある。
そこには小さなスイッチが付いていて、それを押すと。
瞬く間に、手のひらサイズだった立方体が大きめの木箱一つ分の大きさになる。
そして白い面が上に開けば、中には様々な物が放り込まれていた。
その大きさは先程までの『玩具箱』よりもはるかに大きい。
ようするにこいつは、中にしまったものも含めて大きさを変えることの出来る上に、決して壊れることがなく、持ち運びに大層便利な収納用神代具なのさ!
名前の由来は、適当に物を放り込んで何処にいったか分からなくなる箱から来ているらしい。
神代に生きた人間達は何を考えていたのだろうか。
開いた『玩具箱』に手を突っ込み、中に閉まった様々な道具を引っ張り出す。
ほとんどが神代具で、どれもこれもがひじょ〜うに高価な品で、金貸しから一銭も借りれなくなった原因に当たる。
つまり借金の塊。
今その情報はどうでもいいやと頭の片隅に追いやる。
探し物に集中しよう。
それはすぐに見つかった。
俺が見つけ出したもの、それは一対のモノクルだった。
名を、『水鏡』と呼ぶ。
能力は視界の共有。
これをカレンに付けて、何が起きてるか見させてもらおうか!
物理的に!
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