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『勇者』キタノ・カレン


 朝まで続いた酒盛りの後、俺は街の衛兵達があつまる詰所で寝ていた。

 別に捕まった訳じゃない。

 本当だ。

 誓って犯罪はしてない。


 店で暴れた連中の中でも、生きてたやつを引渡し、弁明するために行ったのだ。

 あのまま、あそこに置きっぱなしにするのは当然まずいことだ。

 流石に死体も多いし、一人では運びきれないので、衛兵の手を借りたかったというのもある。


 しかし、やばかったのはとんでもなく酔っていたこと。

 ほとんど説明の時も呂律が回っていなかったし、なんなら詰所に辿り着くまでに何度か転んで頭を打った。

 戦闘よりもこっちで怪我を負うところだった。


 酔っ払いの摩訶不思議な説明を聞いた衛兵達は不安そうな顔を浮かべていたが、この街では色々な筋に顔が通る俺が言ったことだ、とチンピラ達の後処理を手伝ってくれた。

 妙に慣れた動きをしていた衛兵達に話を聞くと、やはり最近ではこういった事件も多いらしい。

 自分達としては、こんなことに慣れたくなくても時代がそれを許してくれないのが苦しいとのことだ。


「世の中クソだな」と言ったら、「でも、誰かがやらなきゃいけない仕事ですから」と俺とそう歳の変わらない若い衛兵が返してきたのは目と酔いが覚めてもよく覚えている。




 それらを終えて、酒場『鮭の帰郷亭』に戻ってきた。

 ユーモラスな名前だと思ってるが、この店魚料理は一切出てこない。

 肉よりも扱いが面倒だ、と怪我のせいで自宅にてゆっくり療養中の店主のおっさんは言っていた。

 代わりに出てくるのは酒。

 洒落が上手い。


 喧騒の後が強く残る店先には、流石に『本日営業休止中』と張り紙が貼ってあった。

 別に客も来ないだろうから、貼らないでいいのに、とはナターシャに言わないでおこう。

 彼女は真面目なのだ。



 店内に入ると、まだチンピラの血の跡と匂いが残っていた。

 よく昨日はこの状態で酒が飲めたものだ。

 俺はアホではないが、図太いのかもしれない。


 俺の定位置であるカウンターに置かれている椅子へ座ると、乱雑に書かれた紙が目の前に置いてあることに気づく。

 そこには『店、奥。寝る。起こして』とだけ書いてある。

 外の張り紙みたいに綺麗に書け、と心から思うし、カタコトじゃなくてちゃんと意味のある文を書けよとも思った。


 俺はそれに従い、店の調理場を抜けてその先にある休憩室らしき場所へと向かった。


 ナターシャと黒髪の少女は、詰所で倒れ込むように寝た俺と同じように凄まじい格好で寝ていた。

 ナターシャは顔面だけソファに沈ませて身体は地面に投げられているし、少女の方はテーブルにひっくり返りながら仰向けになっている。


 少しこのまま放っておきたい気分だったが、起こせと書かれていたので、仕方なく二人を揺すって覚醒を促す。


「ううっ、頭がガンガンする。気持ち悪い……」


 先に起きたのは少女の方だった。

 もれなく二日酔いらしい。

 酒に弱いのだろうか。


「ンハッ!? 今、何時!?」


 ガバッと躍動感溢れる起き方をするナターシャ。

 その様子が何だか面白くて、憎まれ口を叩いてしまう。


「今日は休みにしたんだろ、くくっ。寝坊しないから、寝ててもいいんだぞ」

「……はっ、そうか。休みだったな」


 寝起きの彼女は随分とぼんやりしていて、俺の煽りも気にする余裕がなさそうだった。



 二人が少しシャキッとするまで待ち、声を掛ける。


「なぁ、ちょっといいか?」

「なんだ改まって、用事でもあるなら好きにすればいいだろ」


 ナターシャは俺に対しての風当たりが強い。

 どうしてこうも攻撃的なのだろう。

 てんで理由が思い当たらなかった。

 首を振りながら、彼女へと答える。


「いや、話があるんだよ。気になって気になって、仕方ないやつ」


 そして、未だ頭を抱えながら酔い覚ましに水をぐびぐびと飲んでいる黒髪の少女を指差し、尋ねる。



「お嬢ちゃん。君、何者なんだ?」

「へあっ!? 私ですか!?」


 突如、水を向けられた彼女はびっくりしてコップを落とす。

 忙しない子だな。


「そうだよ。昨日はぶっちゃけ流れで動いちまったから、ほとんど事情聞かなかったけどよ。ひとまず落ち着いたんだ。話聞かせてくれ」

「……オリヴァーの言う通りだ。なんで貴女は追われていたんだ? それに見たことの無い服、珍しい黒髪。私も気になって仕方ない。別に、取って食おうという訳じゃないから教えてくれると嬉しい」



 二人に質問された少女は少し暗い表情を見せた後、意を決したかのように口を開いた。

 俺はそれを、聞かなきゃ良かったと後悔することになる。



「私は、北野花蓮。異世界から召喚された『勇者』、です……」

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