『金重』
神代具。
それは、はるか昔に存在した超文明の遺物。
そのどれもこれもが、今の時代では再現不可能な特殊な能力を持っていた。
その一つ、『金重』。
見た目はただの黒い手袋だが、こいつは触れた金属を価値に応じて、爆破させることが出来る神代具。
咄嗟の戦闘に使え、俺が大変重宝している相棒と呼んでも差し支えのない神代具だ。
「目がッ! お前ら気ぃつけろ!」
『金重』によって生み出された銀貨の爆発音が響くと同時にカウンターを蹴り、宙返りをしながらチンピラ達の懐へと飛び込む。
奴らは、意図せぬタイミングで受けた閃光で目が眩んでいるものも居れば、銀貨程度で作れる小さな爆発で倒れ伏すものも居て、まとめ役が大声で注意を呼び掛けてもほとんどが戦える状態にはなっていなかった。
俺はその中の一人から剣を奪い取り、そのままの勢いで、まずまとめ役の首を下から斬り裂いた。
群れがあったら、最初に頭を叩くというセオリーは魔物も人間も変わらない。
特に粗雑な奴らはほとんど獣と一緒だ。
烏合の衆に成り果てる。
悲鳴を上げる間もなく事切れたまとめ役の胸を蹴り飛ばし、まだ視界が戻らず、指導者がいなくなったことに気付かぬ下っ端たちを次々と斬りつけていく。
何人かは苦し紛れに銃を撃ったり、剣を振ったりしてきたがどれも当たらない。
最初から、検討はずれな所へ攻撃しているからな。
むしろ同士討ちをしているようなものだった。
あっという間に店内にいた全員を片付ける。
そこでようやく、まだ店に入りきれておらず外にいた連中が騒ぎに気づいて、駆け込んでこようとする。
すぐに俺は奪い取った剣の腹を右手の指で撫でる。
紅く発光し出す剣。
それを地を掬うように投げ付けた。
これも金属。
銀貨よりも多くの金属を使ったそれは、先程よりも盛大な爆破を巻き起こし、雑魚共を蹴散らしていく。
「ぎゃぁぁぁ! 熱い! 熱いよォ!」
チンピラ達の悲鳴が聞こえる。
高速で飛んでくる剣が爆発。
その仕組みが何で起こっているかに気づくことすら出来ない奴らは魔法で攻撃されているのか、と身構え出す。
魔法は必ず魔法陣が発動地点に現れるというセオリーがあるため、向かってきた方向を警戒する選択は魔法に対して、ほとんど正解だ。
だが、今回においては不正解だ。
神代具は異なる理を押し付ける不可思議の産物。
既存の発想に囚われていては、打ち克つことは出来やしない。
まぁ、世に名は広まっていても、実物を見たことがある奴というのは限られる。
こんなただの酒場に神代具持ちがいるなんて想像して戦えという方が無理があるか。
そう考える間にも次々と武器を投げつけていく。
弾なら山ほどあった。
幾ら爆破させても、奴らを倒すのに足りないってことはだろう。
転がっている武器を拾っては投げ、拾っては投げを繰り返すと、そのうちにチンピラ達の悲鳴も聞こえなくなった。
全て終わったのを確認すると、ぽろっと独り言が出る。
「真夜中で助かった。人通りがないから無関係な人を巻き込む心配が無い」
俺の戦い方はとにかく広い空間があって、なおかつ他人を気にする必要が無い方がいい。
爆発はいくら指向性を持たせても、範囲が広い。自分や味方をも焼く危険がある諸刃の剣だからだ。
大きく息を吐いて、昂った気を落ち着かせる。
多少酒は抜けたとはいえ、急な運動は体にこたえる。
だが、倒れ込む前にすることがあった。
「酒代。酒代……」
倒れているチンピラ達の剥ぎ取りだ。
何よりも大事な酒代ってやつを払わないとならないから、仕方ないんだッ!
俺だってこんな酷いことしたくないッ!
一人一人丁寧に、現金を奪い取り一箇所に纏めた頃、ようやくナターシャと少女が気を取り戻す。
「ううっ、眩しい……」
「あ、あれっ? なんで……」
「ナターシャ〜。酒代集まったぜー。ついでにもう一本飲めるぐらいの金も手に入ったわ。くれ」
袋に無造作に詰めた金を、カウンターに放り投げる。
「……こっから飲もうとする精神があるところ、私はお前を心底アホだと思うよ。あと、やるならもう少し分かるようなサインをくれ」
そうは言うものの、何だか高そうな酒を引っ張り出してきてグラス三つに注いでく彼女。
ご機嫌のようだ。
ナターシャはとてもとてーもがさつだが、正義感の強い女性だ。
あの場面で手をこまねいていたことは大変に苦痛だったのだろう。
この店で働いてるのも、そういう性格が一因だった。
並々注がれた酒をごくごくと飲み、喉を潤す。
やっぱり高い酒は美味い。
なんだかよく分からないが、高そうな味がするところがいい。
注いだ本人にはそんな飲み方するなんてという目を向けられているが、気にしない。
俺の金じゃねえから気にならない。
そして、未だ混乱している少女へ、三つ目のグラスを差し出し。
「生きてて良かったな。ついでに、助かった」
お礼を言う。
彼女のおかげで窮地を乗り切れた。
あんだけの数の罪悪感を湧かせずに、金を奪える連中を連れてきてくれて本当に感謝していた。
「助かったのは私の方です……」
「おおっ。じゃあ、一緒に勝利の美酒でも飲もう。こいつは美味いぞ。なんたって美味い酒だからな」
目をぐるぐるさせている黒髪の少女の手に、差し出したグラスを握らせる。
そして。
「かんぱーい! いやぁ! 今日もいい一日だった!」
と、俺が言い。
「私は、散々だ」
と、ナターシャがぼやき。
「……ありがとうございました?」
と、少女が尋ねるように感謝を述べる。
これにて、一件落着。
俺達は笑いながら、朝日が登るまで酒盛りを続けるのだった。
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