命と銀貨の価値
「えっ、ええっ……」
助けを求めた少女は俺達の叫びに困惑していた。
俺達も見たことない服装と、ここら辺じゃほとんど見ない黒髪黒目という様相に困惑していた。
しかしそれも長くは続かない。
「おいィッ! 逃げるんじゃねえぞクソガキッ! てめえにはここで死んでもらわなきゃなんねえんだよッ!」
ドカドカと少女を追って、見るからに柄の悪い連中が店に駆け込んできたからだ。
「おい、オリヴァー。これが本当に『まずいことになった』って状況じゃないか?」
そっとナターシャに耳打ちされる。
俺もそう思う。
でも、少しだけ俺にとっては先程までのことをうやむやにできるといった点で、状況が好転したようにも感じた。
「ねえ、助けて。私、死にたくないよ……」
アルコールが抜けてない俺へ、少女が涙目で訴えてくる。
よしてくれ。
何が何だか分かってないのに、そんな事言われても困るだけだ。
「おいっ! そこの茶髪の男とポニーテールの女。お前ら、動くんじゃねえぞ」
チンピラ達のまとめ役だろうか。
そいつが銃を俺達に向けて脅してくる。
「別にお前らにそのガキは関係ねえ奴のはずだ。そんな奴のために命張る危険犯す必要ねえよな? 大人しくしとけば、俺らはなーんにも手出ししねえ。どうだ?」
「魅力的な提案だな」
店の玄関へ振り向いていた顔をカウンター側へと戻しながら、面倒くさそうに答える。
実際、まとめ役の話は部外者の俺とナターシャにとっては筋の通った話だった。
少女が逃げ込んだ先にたまたま俺らが居た。
それだけの話だ。
助ける義理は確かに存在しない。
「へへっ、そうだろそうだろ? 話のわかる兄ちゃんじゃねえか」
「オリヴァーッ!」
ナターシャが俺を叱咤すると同時に、銃声が響く。
まだ俺達には手を出すつもりは無かったのだろう。
棚に並べられていた酒瓶が数本破裂するだけで済んだ。
「ポニーテールの姉ちゃんよぉ。動くなって言ったろ? なんだなんだ? 正義感見せて死にたいのか、あんた。俺らはそっちでもいいんだぜ? むしろ死体を増やすだけなら、楽なんでな!」
「ナターシャ、抑えろ」
「だがッ!」
「なあ、お頭さん。俺、何とかこいつ宥めるからよ。口止め料的なものって払う気あるか?」
俺の発言に激高する彼女を無視しながら、まとめ役に尋ねる。
「……しょうがねえな」
奴は懐から銀貨を一枚取り出し、投げてきた。
銀貨一枚の価値はだいたいさっきの酒半杯分だ。
俺はそれをくるくると右手の指先で回しながら、文句を垂れる。
「ちょいと、少なすぎやしないか? 犯罪見逃してやるって言ってんだぜ? 金貨の一枚や二枚くれたってバチは当たらないだろ」
「おいおい、なんでお前が上から目線でものを語ってんだよクソッタレ! こっちは別に纏めて殺してやってもいいって言ってんだろ!?」
そろそろ潮時かな。
俺はこれ以上粘るのをやめた。
「分かった、分かった。酒代ぐらいにはなりそうだからこの辺でやめるよ」
「分かりゃいいんだよ。分かりゃ……ったく手間取らせやがって」
俺達の間で結論が付くと、途端にさっきまで静かだった少女が騒ぎだした。
見ず知らずの人が助けてくれると本気で信じていたのだろうか。
「嫌だ嫌だ嫌だッ! 助けてよッ! なんで見捨てられるの! みんなおかしいよ!」
おかしい。
その通りだ。
『魔王』なんて輩が現れてから、世の中は随分とおかしくなっちまった。
こうやって堂々と犯罪がまかり通るようになっちまったし、助けを求める声は誰にも届かない。
何が正しくて、何が正しいかなんて俺にはよく分からない。
どうやら、俺はアホらしいからな。
けど、一つだけ理解している絶対の正義がある。
それは。
「こんなもんじゃ、今日の支払いは出来やしねえってことだな」
さっき投げられた銀貨を後ろへ向かって、指で弾く。
「だから、利子つけて返してやるよ」
綺麗な放物線を描きながら、元の持ち主へと飛んでいく銀貨。
それは、何故か紅の光を帯びていて。
チンピラ達の所へと辿り着くと同時に、凄まじい閃光を放ちながら爆発した。
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