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まずい話をするとしよう


「まずいことになった」



 グラスの中に注がれた酒を一息に飲み干した後、一際深刻そうな顔して俺は言った。


「本当にまずいことになったんだ」


 心底嫌そうな顔で俺を見る女性へ向かって、懺悔するかのように話を続ける。


「何がまずいか。結論から話すのは簡単だ。でもそれは、物事の本質を理解してもらうには足りない。そもそも――」

「なあ、オリヴァー」


 彼女が俺の話を遮りながら、グラスと酒瓶を奪い取る。


「その話、聞かなきゃならないか? どうせ酔っ払ってるんだろ。何杯飲んだ?」

「三杯半だ、ナターシャ」

「嘘つくな。蒸留酒を二本も空にしやがって。これ、最近じゃろくに出回らないんだぞ」



 彼女は俺の顔馴染みの冒険者で、この店の店主だった。

 厳密には代役だが。

 それでもいっぱしの経営者精神は持ち合わせているらしい。

 高い酒を俺が一晩で二本も飲み干したことに怒っていた。


「そう。最近は世の中物騒になっただろう。まずいこと、その一だ」

「まだ続けるのかよ」



 続ける。

 俺はしかめっ面の彼女へと目で告げた。

 口は他に話すことがいっぱいある。


「『魔王』、御伽噺の登場人物だと思われてた怪物が現れてから数ヶ月。今では、街を行き来するのも困難になっちまった」

「知ってるよ。だから私が店番やってるんだろ。おちょくってるのか?」


 本来の店主は現在怪我で療養中だ。

 原因は仕入れのために他の街まで赴いた際、魔物に襲われたせい。

 その時の護衛が彼女だった。

 そうでもなければ、こんながさつ女が接客を仕事にできるだろうか?


「お前、頭の中で何考えてる? 殴っていいか?」


 ほら、な。

 料理よりも拳を提供する方が早そうな、暴力店主が証明されてしまった。

 俺は怖がりなのでそこには触れず、次の話を始める。


「その二。街全体の活気が下がった。元々、交通の要だったこの街は行商人や冒険者みたいな連中が資金源だ。それが減って、皆不安を抱えだした」

「この店、昔は繁盛してたのにな。今ではお前みたいなアホ客しか来ないから私は大層困ってる」


 俺はアホではない。

 あと客が来ないのは店主のせいもあると思う。


「さて、これで俺が話したい結論の準備は整った」

「私、お前の話を聞いたこと、今更後悔してきた。何言うかだいたいわかったぞ」

「ほう」


 ナターシャが頭を抱えながら、俺のことを指差した。



「お前、金無いんだろ。殺すぞ」


「正解だ。ツケにしといてくれ」



 酔いが回りに回ってしまい、立ち上がることも出来ない俺は椅子に腰をかけたまま、ナターシャに微笑みかけてそう答えた。


 まずいことになった、と気づいたのは一本目の酒を口に含んだ時だった。

 うわこれ、高い味がする、と。


 どうしようか一瞬悩んださ。

 適当に指差してそれをくれ、瓶ごとなと言ったやつが、まさか高い酒だとは思わなかったからだ。


 こっそり値段を見れば、一杯ならまだなんとかなる持ち合わせはあった。

 だが、知り合いの前でかっこつけて頼んだ酒がよ?

 高すぎて一本分も払えないなんて理由で、そのまま逃げ帰るなんて情けなさすぎて俺は出来なかった。


 だから、とりあえず何食わぬ顔で一本飲み干した。

 ついでに美味しかったので、もう一本飲んだ。


 ひとしきり満足した俺はなるべく怒られないように、話を大きく広げて誤魔化そうと企んだ。

 それがことの真相である。



「お前、マジか。マジで言ってんのか。オリヴァー、私はお前がここまでアホだとは思ってなかった」

「俺はアホではない」

「なら、バカだ」


 彼女は泣きそうな顔を浮かべていた。


「どうやってこれ補填しよう……また、親父さんに怒られる。なんで私がこんな……」


 流石に可哀想に思ったので、とりあえず手持ちの金は全部カウンターの上に置いた。

 今夜の酒代のおよそ、十分の一である。


「残りは、仕事が入ったら少しずつ返す。それで手打ちにしないか?」

「なんで加害者側が偉そうにしてる? それ、私の台詞だよなぁ? そもそもお前、仕事入ってくるあてはあるのか?」


 まずいこと、その三。


「無い。依頼も何も転がってない。ついでに言うと、俺は戦闘すると金がかかるから赤字も有り得るんだよなぁ」

「クソ野郎。金貸しにでも駆け込め」

「はっはっは」


 ナターシャは俺の事をよく知っているのにそんな台詞が出てくるとは思わず、笑い声をあげてしまう。



「俺、この街の金貸し全員から二度と貸さないって言われてるんだよね」


「やっぱり、本気で死んでくれ」


 ドスの効いた声で脅された俺は肩を竦めた。

 本気で何とかしないと、これ冗談抜きで殺されるかも。

 そう考え、頭に血とアルコールを巡らせる。



 だが、良案は全く思い浮かばない。

 酔いが覚めたら逃げる方が丸く収まるんじゃなかろうか、と考え始めたその時。



「た、助けてください!」


 そんな叫び声と共に黒髪の少女が店に駆け込んできて。


 俺とナターシャは咄嗟に叫び返す。



「「助けて欲しいのはこっちだよッ!」」

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